魔力量の差は他で埋めろ
扉が完全に閉まり、四方を塞がれたこの空間に、最強魔獣であるドラゴンが二体。そして、二人の冒険者がいる。
「さて、どうしたものか」
カリアスの目の前では、今まさに激しい攻防が繰り広げられている。
このままノープランで、戦っている両者の間に割って入ろうか。
一番手っ取り早い方法ではある。
だが、そうなった時、アルバート・デュークはどのように立ち回るだろうか。
彼次第で事態は大きく変化する。下手をすれば両者から敵認定されてしまうだろう。
(ドラゴンに押されているとはいえ、噂通り、かなりのやり手だぞ)
ドラゴンとドラゴンで互角の戦い。
だが、アルバートとカリアスでは圧倒的な差が存在する。
特に、彼の使役するサラマンダーは上級精霊魔獣であり、対するには同じ上級精霊魔獣の力が必要だ。
カリアスの魔力量を考えると、絶望的である。
(少なくとも、正攻法では俺に勝ち目はないな……)
悲しき現実。
魔力量の差は、同じ召喚士同士であればなおさら、その実力差を浮き彫りにする。
(でも、諦めるわけにはいかないんだ)
差があるなら、他のもので補う。
そうやって、カリアスは今まで努力し生きてきた。
(要するに、あいつとの戦いを回避し、いかにして戦闘不能にさせるか……だな)
話し合いでの解決は、正直見込めないだろう。
となると、どうにかしてアルバートの動きを止めておく必要がある。
(また、あれしかないか……)
カリアスノ頭の中で、ダンジョンに入る前の記憶が蘇る。
お手製の睡眠誘発剤は、人間にも素晴らしい効き目を見せてくれた。
まだ一回分であれば、材料は鞄の中に残っている。
(問題は、どう服用させるか……)
前回はアリアの風魔法を使い、遠距離から空気中に混ざった薬を吸ってもらった。
しかし、この暴風吹き荒れる状況下では、同じ手段は不可能である。
食べ物や飲み物に混ぜるという手もあるが、どう考えてもそんな事ができる雰囲気ではない。
(やっぱり直接だな)
チャンスは一回。
確実に服用させるためにも、直に吸入させるのが一番である。
しかし、相手はカリアスより格上であり、どういった人物かも詳しくわからない。
(理想は、布に含ませた薬を不意打ちで顔に押し付ける……だな)
言うは易く行うは難しである。
だが、不可能ではない。
こちらを見つめるエメラルドグリーンの瞳に視線を移し、カリアスはそう思った。
「セレネ、まずアルバート・デュークをどうにかしないといけない。君の協力も必要だ」
キリッとした瞳でドラゴンが首を縦に振った。
カリアスは手早く薬を調合し、持っていた布切れにそれを染み込ませる。
準備は整った。
「チャンスは一回だ。セレネ、君はあの二人の間に割って入るんだ。そして、状況の変化に動揺した一瞬の隙で、俺が奴を眠らせる。タイミングが命だ。俺が腕を挙げたら、行動に移してくれ!」
コクッとセレネが頷くのを見届けたカリアスは、勢いよく走り出す。
少しでもアルバートに近づく為に、この空間の外周を走り、奴の真後ろへと移動する。
(よし、死角を捉えた)
相手は、目の前のドラゴンに必死で、カリアスの姿など全く見えていないだろう。
ふーっと大きく息を吐き、一気に地面を蹴った。
数十メートル先にいたターゲットの姿に、どんどん近づいて行く。
(さぁ、君の番だ!)
カリアスは思いっきり右手を頭上に挙げるのだった。




