閉ざされる空間
銀色に輝くドラゴンが、凄まじいスピードでこちらへ向かってくる。空を切る音と共に突風が吹き抜けたと思えば、ドシッという地鳴りと共に、その魔獣は目の前に降り立った。
「セレネ、頼む」
カリアスはドラゴンの硬い鱗を優しく撫で、眉尻を下げながら悲しげに告げた。
本当は命令のような事をしたくはない。できればフィンレー達にも自主的に出て行って欲しかった。
だが、元仲間達はカリアスが思っていた以上に、頑固で愚かであった。
セレネはカリアスの言葉にコクリと首を動かした後、大きな両翼をバサッバサッと動かしてもう一度真上に浮上し始める。
「自分達で出ていく気が無いなら、無理矢理にでも出てもらう」
驚きと恐怖で、一様に青ざめた表情をした元仲間達に、カリアスは低い声でそう言い放った。
「うそ……だろ」
「無理無理無理、こんなの聞いてないわよ!」
「もう、無理ですぅ……。帰りたいです、うぅ、ごめんなさいぃ」
皆が方々に言葉を放つ中、フィンレーだけは気力を吸い取られたように、血の気が引いた顔で口をつぐんでいた。
「フィンレー」
「なんだ」
カリアスノ呼びかけに、怯えとまだ少しだけ残るプライドを滲ませながら、フィンレーは低い声で応えた。
「お前は炎の凱旋のリーダーだ」
「だからなんだ」
「プライドよりも、リーダーなら仲間の命を優先するべきだった」
フィンレーの肩がワナワナと震え、ギリギリという歯軋りが聞こえてくる。整った顔は怒りで引き攣り始め、目が血走り始める。
「お前に……お前に言われる筋合いはない! もうメンバーでもないお前なんかに! 俺よりも弱いお前なんかに!」
狂った様に怒鳴り散らし始めたフィンレーを、下降してきたセレネが大きな足で鷲掴み、持ち上げた。
「触るな! 下ろせ! この化け物がっ!」
暴れて抵抗するフィンレーの無様な姿が、他のメンバーと共に風の様な速さで消えていった。セレネの飛行能力はやはり恐ろしい。
感動的とは程遠いい、元パーティーメンバー達との再会。
あんな姿を見たくなかったと残念に思う一方で、どこかスカッとする様な複雑な感情がカリアスの中に芽生えたのだった。
(とりあえず、これで邪魔者が減ったな)
そう気持ちを切り替え、改めて本題であるダンジョンボスへと視線を向けた。
ドラゴン状態のセレネよりも、一回りほど大きい。深い緑色に染まった瞳は、完全に正気を失っている。
「ダンジョンボスも、例に漏れず操り人形ってわけか」
説得してどうにかなる雰囲気ではない。
カリアスは視線を移し、ドラゴンと攻防を繰り広げている青年の姿をとらえる。
(あいつが、アルバート・デューク……)
体格はほとんどカリアスと変わらないだろう。
黒いマントを靡かせ、メガネをかけた顔は険しく歪んでいた。
ドラゴンの巨大な両翼から繰り出される激しい突風が、容赦なくアルバートを襲う。
真っ赤な炎で対抗するのだが、ぶつかった場所から徐々にかき消され始めていた。
風と炎の攻防は、決着がつく事なく今も続いている。
しかし、そこには明白な力の差が存在していた。
(時間の問題だな)
カリアスが状況を確認したのと同時に、フィンレー達を運び終わったセレネが戻ってきた。
バサッバサッと音を立て、ドシンッという地響きと共に着地する。
「セレネ、すまない。手を煩わせた」
カリアスはセレネにそう伝えると、開け放たれたままの扉に視線を移した。
このままでは、せっかく追い出した邪魔者が戻ってきてしまう。
(契約した俺なら、閉めれるはず。となると、きっとこの詠唱だな)
「主たるものを我に望んだ者よ、契約のもと真の力を我に与えたまえ。その命尽きるまで、この命果てるまで。召喚魔法、解放!」
大きな扉がゴゴゴゴゴーという音を立て、閉まり始める。
壁面の揺れと共に、遂に空間が閉ざされた。
「ここからが勝負だ」
緊張感がより一層高まる中、カリアスは震えそうになる体に力を込め、気合を入れ直すのだった。




