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契約の扉


「カリアス! あれ!」


 セレネが指差す先に、大きな扉の姿を確認した。

 遂にここまで来たと思うと、鼓動が跳ね上がる。しかし、カリアス達にホッと息を吐く暇はない。


「間違いない! ボスの間に続く扉だ!」


「あの向こう側にお母様が!」


 息を切らしながら、一心に扉の元へと駆け出す。

 

(一刻も早く確認しなくては!)


 ここに来る途中、『炎の凱旋』メンバーと鉢合うことはついぞなかった。

 この国最強という肩書きはだてではない。それはカリアスが一番よく知っている。

 そして、新しく入った召喚士アルバート・デューク。

 彼もまた噂通りであれば、ここに来るまでに魔獣達にやられる器ではないだろう。

 ダンジョン内で迷っている可能性もゼロではないが、ここまでたどり着くのに大きな分岐点はなく、ほぼ一本道であった。


 つまり、残るは扉の向こう側……。


「多分、この向こうに『炎の凱旋』もいるはずだ」


 階段を数段登り、目の前に大きな扉が立ち塞がる。

 この『巨巌の洞窟』に入る前に見た、遺跡のような朽ち果てた建造物。そこに記されていたものと同じく、この巨大な石で作られた扉にもまた、イレーネリアの古代文字がびっしりと刻まれていた。

 解読は不可能と言われ、未だかつて理解されることの無い古代人の遺した言葉を目の前にし、研究者としての血が騒ぐ。


「カリアス、早く入ろう」


「ああ。だが、もし仮に中で戦闘が始まっているとすれば……」


 カリアスは目の前の扉に触れる。

 冷たい石の感覚が伝わるだけで、全く扉に変化はない。試しに力一杯に押してみたが、うんともすんとも言わない。


(やはり……遅かったか……)


 深層ボスが潜む向こう側の世界は、一度足を踏み入れると勝つか死ぬかの2択しかない。

 つまり、中で戦いが繰り広げられている間、この扉が開くことは無いのだ。中からも、外からも開けることは許されない。


「扉が開かないの?」


「ああ……ビクともしない……」


「じゃー私が」


「ちょちょちょ、ちょっと待って!」


 セレネが「ふー」息を吐き気合を入れ始めたのを見て、慌てて静止する。


「なんで?」


「力任せに開けたら何が起こるかわからない。危険だ!」


「でも、もうこの扉の向こう側にお母様がいるんだよ! 早く、早く助けなくちゃ!」


 事態は一刻を争う。

 セレネの母だけではなく、『炎の凱旋』のメンバーもまた死闘を繰り広げている所だろう。

 

(クッソ! どうすればいいんだよ!)


 カリアスの頭が焦りと疲労でショートしそうになった、その時だった。


「ドラゴンを従えし器よ……ワレワレの残した問いを求めたまえ……」


「????」


 呪文のような、メッセージのような言葉をセレナが放つ。

 彼女は眉に皺を寄せながら、目の前に立ちはだかる大きな扉を凝視していた。


「今……なんて?」


「え? だから、ドラゴンを従えし」


「いや、そうじゃなくて! どこでそんな言葉……」


「だって、ここに書いてあるじゃない」


「はーいー?!」


 セレネが指差す先には大きな扉と、そこに刻み込まれ未だ解読不可能とされる古代文字のみだ。


「カリアスは読めないの?」


「読めないし、そもそもこの古代文字は未だ解読されていない……」


「私の故郷にはこの文字がたくさんあるよ。少し難しいけど、大人ならみんな読めるし」


「うそだろぉーーーーーー!」


 驚愕の事実を知り、嬉しいやら悲しいやら複雑な気持ちが湧いてくる。


「俺やジェイソンが何年もかけて解読しようと頑張ってきた古代文が……」


 あまりにもあっさり読まれてしまったので、カリアスは気が抜ける思いだ。

 だがしかし、今はそんなことを言っている場合ではない。

 額に手を当て、とりあえず落ち着くように自分に言い聞かせる。


「ドラゴンを従えし器よ。汝、ワレと契約を結びこの先に進みたまえ。我々の軌跡が刻まれし水晶から、その問いの答えを求めよ……」


「そう書いてあるのか?」


「多分……」


(ドラゴンを従えし器……、汝、ワレと契約を結びこの先に進みたまえ……)


 分かりそうで分からない文章に、カリアスはムズムズしたまま頭を抱える。


「ねぇ、ドラゴンを従えしって、まるでカリアスみたいだよね!」


「っ!!」


 カリアスは俯いていた頭をパッと正し、目を大きく見開きながら隣の美少女に視線を移した。

 彼女は「だってそうでしょ?」とでも言いたげに、そのエメラルドグリーンの瞳を自信たっぷりに輝かせている。


 確かに、カリアスはドラゴンであるセレネと契約を結んだ。つまり、ドラゴンを従えているという意味では、この古代文と合致している。

 

(仮にそう定義すると、契約を結ぶって……まさか!)


 カリアスの頭の中で、とある仮説が火花のように飛び散った。


「この扉と契約を交わせということか?」


 召喚士は本来、魔獣とのみ契約を結ぶ。

 魔獣でもなく、まして意志すらなさそうな扉となど、契約出来るのだろうか。

 カリアスは疑いの目で連なる古代文明を見つめる。

 しかし考えれば考える程、一回浮かんでしまった以上、この考えしかないと思えてくる。


(ほんと、突拍子もない話だな……)


 この話をジェイソンにしたら、腹を抱えて笑い始めそうだ。

 そして必ず、「で、契約したんだろ? どうだった?」とギラギラした目で聞いてくるに違いない。


(研究者としても、ここは試してみるべきか……)


 契約を結び、何かしら弊害が起こる可能性もある。

 そもそも、仮にこの扉が意志を持たない相手とするならば、無理やり契約を交わすことに等しい。

 その場合は魔力量が重要なポイントになってくる。


(俺の魔力量で足りるのか……)


「カリアス! お願い!」


 隣の美少女が潤んだ目で懇願してくる。

 彼女の母や元パーティーメンバー達を止める為、そして、一研究者としても、ここは覚悟を決めるしかない。


(もう、やるしかないだろ!)


「セレネ、少し下がってて」


「うん」


「主たるものを我に望む者よ、契約のもと真の力を我に与えたまえ。その命尽きるまで、この命果てるまで。召喚魔法、契約(フィーリウス)!」


 カリアスが唱え終えた瞬間、巨大な石の扉に刻まれた古代文に青白い光が駆け抜けた。

 

「ゴォーーーー」


 重々しい扉が開いていく。

 喜びと驚きでその場に佇んでいたカリアスだが、目の前の道が開け、その先で起こっている状況を目にし、一気に緊張が走った。


 そこには、美しい輝きを放つ巨大なドラゴンが、今まさに攻撃を繰り出している最中だった。

 

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