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覚醒した最強魔獣


 薄暗い空間で、銀色の美しい髪がうねる様に残像を残した。

 それは一瞬の出来事であった。


「ドゴォォォォ」


 崖が崩れ落ちるような凄まじい音が鳴り響き、こちらに向かってきていた巨大な土人形の腕が粉砕した。

 地面に崩れた腕が落ち、土埃が辺りに舞う。

 カリアスは咄嗟に口元を手で覆い、悪くなった視界の先に目を凝らした。


「グヲォアッ!」


 ゴーレムがその巨体を震わし、重低音の悲鳴をあげた。

 腕を失い怒り狂った魔獣は、赤い目をより強く光らせながら、もう一本の腕を振り落とす。

 

「シュッ!」


 土埃の中から、まるで閃光のように姿を現したセネレは、迷う事なく振り落とされる腕に向かって飛躍した。

 まるで背中から羽でも生えているかのような驚異の跳躍力。

 難なく巨大な腕の真上に到達し、綺麗に後転しながら片足を振り落とす。


「ドゴォォォォ」


 硬いはずのゴーレムの体は、セレネによっていとも簡単に崩されていく。

 先程までただの少女だったはずのセレネが、凶暴な魔獣の姿に変わっていた。


「うそ……だろ……」


 圧倒的な魔獣としての格の差が、浮き彫りになっていく。

 少女の姿ですら、深層モンスターを凌駕しているのだ。

 

(一体、君はどこまで強いんだ……。ドラゴンとは、一体何者なんだ……)


 頼もしい気持ち半分、正直、恐ろしいと思う気持ちもある。

 何よりも、研究者として底知れぬドラゴンの力に、凄まじい興味が湧いてきた。

 カリアスは体から滲み出る冷や汗を感じながら、苦笑いを浮かべ、固唾を飲んでセレネの戦闘を見守る。

 

「ト、ト、ト、シュッ!」


 崩れ落ちていく腕の塊をうまく足代にしながら、セレネはまた大きく飛躍し、今度はゴーレムの首めがけて曲線を描きながら回し蹴りを繰り出す。


「ドッドッドゴォォォォ!」


 蹴りの衝撃に加え、数回に分かれた粘りの力が加わり、セレネの体がゴーレムの首を遂に貫通した。


「トン、シュッ!」


 勢い余って壁に向かったセレネは、重力を感じさせない身軽さでフワッと壁に着地し、瞬時に飛び出す。

 向かう先にあるのは、心臓の役割を果たす魔石がある体内の中心部。

 首が切り離されたゴーレムは体が傾き始め、もはや向かってくる敵を感知する事もできないだろう。

 

「ハァァッ!」


 セレネが傾いていくその巨体に、両手の指を組み、思いっきり頭上から振り落とした。

 

「ドッドッドッ、パリン!」


 ゴーレムの体にめり込んでいくセレネの拳が、遂に魔石に到達し、音を立てて砕けた。


「グヲォオアアッ!」


 体を振動させて悲痛な叫びを上げたゴーレムは、砕けながら全てが光に包まれ、そして消えていった。

 今、目の前で起こったことは、現実で起こった事なのだろうか。

 目の前で覚醒したドラゴンの力に興奮を隠せないカリアスは、ドキドキと高鳴る鼓動を鎮めながら、立ち上がり前へ進み始めた。


「セレネ‥‥」


 魔物がいなくなったその場所に佇む、少女の後ろ姿にカリアスはおずおずと声をかけた。

 振り返った彼女は、静かにこちらを振り返った。

 まだ戦闘モードが収まりきらない様子のセレネは、瞳孔を縦長に収縮させ、鋭い視線をカリアスに向ける。

 その整った白い肌の顔は所々土で汚れており、ジェイソンから譲ってもらったマントも汚れきっていた。


「セレネ……怪我してない? 大丈夫?」


(自分で『戦え』と命令しといて、よくそんな事が言えるものだな)


 ふと何も考えずに出てしまった言葉があまりにも無責任で、カリアスは心の中で自分自身に皮肉を浴びせる。


「カリアス……」


 セレネがいつもの高い声でそう呼ぶ。

 すると、まだ戦闘モードだったセレネの瞳が、いつも通りの可愛らしい瞳に変わっていった。


「私、倒したよ! 凄かったでしょ! 私もやればできるのよ!」


 普段の調子に戻ったセレネは、得意げに胸を張り、普段通りの姿を見せ始める。

 

(良かった……戻った……)


 このまま元の彼女には戻らないのではないかと言う不安もあったが、それは考えすぎだったようだ。

 カリアスはホッと胸を撫で下ろし、微笑みながら彼女の小さな頭を撫でる。


「ありがとう、セレネ。助かった」


「これからは私も戦うからね! 私の強さ見たでしょ? 遠慮なんていらないんだから!」


「そうだね。これからはお願いするよ」


 無邪気に話すセレネを見ながら、カリアスは眉を僅かに寄せながらそう返すのだった。



 


 

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