一方その頃 〜『炎の凱旋』パーティー側〜
パーティーの宿舎がある町『パロン』にある、とある酒場。
『炎の凱旋』リーダーであるフィンレー・メルクーリは自慢の髪の毛をかき上げながら、店の中に踏み込んだ。
「見ろよ! あいつフィンレー・メルクーリだろ、炎の凱旋の!」
「ああ、有名人さんがお出ましだ」
「キャー! なんてカッコいいの!」
「素敵だわー!」
賑わいを見せる店内は、フィンレーの話題で持ちきりとなった。
そんな状況にフィンレー自身も、歩きながらニッコリ笑い、愛想を振りまいていく。
その様子は鼻高々である。
「ウチの王子様のお出ましだな」
「遅い、腹へった」
「すみません、私なんかがここにいてすみませんっ」
目的のテーブルに近づいたところで、そんな声がフィンレーの耳に届いた。
「すまない、すまない。来る途中でいろんな人に捕まってしまって」
そう言い訳をしながら、フィンレーは空いている席に腰掛けた。
「人気者は大変だな」
そう言ってきたのは『炎の凱旋』ディフェンダーである、アラスターだ。
常に上半身裸で、その筋肉もりもりの体には、いくつもの傷がある。本人曰く「この傷は勲章だ!」と誇りに思っているらしく、洋服を着たりして隠すことを好まない。
ダンジョン攻略中も、普通のディフェンダーが装備をガッチリするところを、上半身は裸のまま、大きな盾だけを持つスタイルでこなすという徹底ぶりだ。
茶色の短髪で、凛々しいキリッとした目も茶色の瞳をしている。顔は強面だが、話すと意外にも気さくで、そのギャップが女性にウケる。
女とお酒にだらしがないところが、アラスターの欠点だった。
「早くご飯食べたーいー」
その横で駄々をこねているのが、パーティーメンバーである魔女ドロシー・リードだ。
魔女というだけあって、黒い帽子に、黒いワンピースを身に纏っている。髪の毛は赤髪で、いつも綺麗に三つ編みにしてある。
年齢不詳な童顔で、頬にあるそばかすが特徴的だ。クリクリの瞳はルビー色に輝いている。
黙っていれば可愛いのだが、彼女は基本的に食べ物と魔法にしか関心を持たない、これまた変わった性格の持ち主である。
そして、アラスターの向かい側で肩身狭そうにソワソワしているのが、もう一人のパーティーメンバーであり新人ヒーラーのヘレナ・アルマートである。
艶やかな黒髪に、青い瞳とよく育った体が印象的だ。ヒーラー特有の白いマントを見に纏った姿は、一見クールそうに見える風貌をしているが、彼女は極度の小心者であり、とにかく自信がなさすぎる。魔力も申し分ないくらい持っていて、皆が憧れるヒーラーの素質もあるというのに、臆病で気が弱く残念としか言いようがない。
そんな彼女の口癖は「私なんかが生きててすみません」である。
「フィンレー、今日は宴だろ? あの足手まといがやっと居なくなったんだからな。なー酒飲もうぜ、たんまりとよー」
フィンレーが空いている席に座ると、アラスターがニッと笑いながら肩を組んできた。
「ああ! 今日は飲もう! 祝いの宴だ!」
そう、今日はずっと足手まといだった元メンバー、カリアス・アンドレウを追放できた事の報告とそれに対するお祝いの席だった。
「あの人、魔力少なすぎ。なぜメンバーにいたのか不思議なくらい」
大量の食事とお酒を一通り注文した後に、ドロシーが口を開いた。
そう、カリアスは魔力が少なすぎた。
このパーティーを作った当初は皆が未熟だった為、あまり気にならなかった。
が、その能力の差は日に日に浮き彫りになっていった。
本人も分かっている様子だった。
だが、どんなに頑張ろうとしていても、その姿は滑稽にしか見えない。だんだんフィンレーの中で「いい加減にしろ」と思う気持ちが大きくなった。
今やこの島国で最強パーティーと名高い『炎の凱旋』に一人、凡人以下が紛れ込んでいる。
それはこのパーティーのリーダーとして、プライドが許さなかった。
カリアスに追放を告げた時、それはそれはスカッとした気分だった。
フィンレーは間抜けな顔をしてブラシを落としたカリアスの顔を思い出す。茶色い髪に、無駄に輝いている琥珀色の目、自分ほどではないがそこそこ整った顔。そんなカリアスの顔がアホ面に変わり、瞳が見るからに輝きをなくしたあの瞬間、フィンレーは笑いを堪えることに必死だった。
「俺は純粋に弱い奴が嫌いだ。あんな足でまとい今まで居させたのが俺には不思議だったな」
アラスターはそう言いながら、テーブルに運ばれてきた酒瓶にそのまま口をつけ、グビグビと飲み干していく。
「一応、三年一緒だったからな。それに、代わりになれるような召喚士も今までは現れなかった」
「あー、今まではな」
ニヤリとアラスターが笑い、意味深に言葉を復唱する。
こんなにも燻っていた関係に今回終止符を打てたのは、代わりに入る優秀な召喚士が現れたからだった。
アルバート・デューク。噂で名高い若き天才召喚士だ。
炎の精霊サラマンダーを使役し、戦場を炎で埋め尽くす。彼の通った道は墨しか残らない死の場所と化す、ともっぱら噂されている。
噂が本当かは分からないが、少なくとも有力な情報筋からはその力に偽りはないという話だ。
「楽しみね」
人に興味を示さないドロシーが、珍しくそんな事を言う。
「ツルペタちゃんもそんなこと言うんだなー」
アラスターも同じ意見を持ったらしい。が、言い方が良くない。
「次ツルペタ言ったらコロス」
「そんな怒るなって、ツルペタちゃん」
ドロシーは顔を赤く染め、肩をわなわなと震わせながら、自分の控えめな体を抱えている。
明らかにアラスターはドロシーをからかっている。が、このやりとりはいつものことなのでフィンレーはスルーした。
そして、一人会話に入ってこない新人のヘレナは、「絶壁ですみません、すみませんっ」と、見当違いな事をブツブツと繰り返し謝っていた。
カリアスがいた頃はよく、二人の喧嘩の仲裁をし、気弱なヘレナを慰めていた。が、今はいない。
二人が喧嘩を始め、その隣で無駄に謝り続ける一人というカオスな状態に対し、完全に無視を決め込むフィンレーもまた自分の世界に浸り、新しいパーティーの事で頭がいっぱいだった。
「僕らのパーティーはもっと強くなれる!」
フィンレーは一人で盛り上がり、酒の入ったグラスを片手にそう叫んだ。
(そして僕はもっと人気者になる!)
心の中でフィンレーの本心がそう叫ぶのだった。




