一方その頃 〜『炎の凱旋』パーティー側5〜
「どうしてこうなった……」
フィンレー・メルクーリは目の前の光景に打ちひしがれていた。
自分の視界いっぱいに広がる炎、そして、こちらに背を向け静かに佇む一人の青年。
『アルバート・デューク』
初めて会った時からその禍々しいオーラに、只者ではないと直感的に感じていた。
実際、その力は規格外であり、圧倒的であった。
ダンジョンに入って幾度と見てきた、魔獣達が炎に飲み込まれていく姿。
『炎の精霊サラマンダーを使役し、戦場を炎で埋め尽くす。彼の通った道は炭しか残らない死の場所と化す』
噂は本当だった。
フィンレー達が戦う事なく、魔獣達はほとんどが焼け死んでいった。
逃げ出した魔獣も何匹かいたが、あの焼けただれた体ではそう長くは持たないだろう。
周囲は焦げ臭い匂いが充満し、舞い上がった煤がフィンレーや他のパーティーメンバーの体や顔に付着する。
序盤の方は、その強さに「頼もしい奴が仲間に入ってくれた」とみな喜んでいた。
しかし、進むに連れてその大きな力は暴走し始める。
魔獣の強さや数がレベルを上げていく事に、アルバートが放つ炎はさらに威力を増し、敵味方関係なく飲み込もうとし始めた。
『アルバート! こっちにも炎が迫ってくる! 気をつけてくれ!』
『その程度で焼け死ぬのなら、あなた達はその程度の人間だったと言う事です』
アルバートはそう言うだけで、何も変えようとはせずにより一層炎を撒き散らして進んでいった。
唯一、水魔法が使えるドロシーが、懸命にこちらに襲いかかってくる炎を消火していくのだが、深層に到着する頃には限界が訪れた。魔力切れを起こしてしまったのだ。
アラスターが身を張って盾になるが、物理攻撃に特化している為、相手が炎では全く意味を成さない。
焼けただれる体をヘレナが治癒魔法で治していくのだが、魔力には限りがあるのでこれも時間の問題である。
持ち込んだポーションも底をつき、満身創痍のパーティーはもはや壊滅状態であった。
(なぜ引き返さなかった……)
アルバートが暴走し始めた時に、アルバート以外の四人だけで引き返す選択肢もあった。
しかし、今やこの国一番のパーティーと言われる様になった『炎の凱旋』が、深層に到達することも出来ず、仲間一人を置いて途中断念など、プライドが許さなかった。
何よりも、自分達は強いと言う傲りがあったのだ。
そのままズルズルとアルバートの後を付いて行った結果、もはや四人で引き返す事も困難な状況となってしまう。
八方塞がり。今更、後悔の念がフィンレーに押し寄せて来た。
「フィンレー! お前だけでも逃げてくれ!」
「そんな事はできない!」
「お前の力なら、一人で外に戻れる!」
「できない!」
アラスターの言葉に、フィンレーは声を荒げて抵抗した。
仲間を置いて自分だけ逃げるなど、そんな事はできない。
ここまでアルバートに圧倒的な格の違いを見せつけられ、全く役に立たない自分の存在が浮き彫りになり、既にフィンレーの自尊心はズタズタに引き裂かれていた。
それでも、人間として、このパーティーのリーダとして、譲れないプライドがある。
(一人逃げて生き延びるくらいなら、死んだ方がマシだ)
この地獄が終わるとしたら、それはアルバートがボス討伐を終える時だ。
なぜか知らないが、アルバートはボス討伐に強い執着心を持っていた。
冒険者からしたら最終目標であるのだから当然の話ではあるが、それにしても取り憑かれた様に真っ直ぐボスの間に向かって歩いていく彼は、異常としか言いようがない。
しかし、こちらとしても好都合である。
それまで耐え抜きさえすれば、全員で外に戻れる可能性がまだ残っているのだ。
ダンジョン攻略の成功。
それはフィンレー達からしたら、大きな賭けであった。
しかし、アルバートの実力を目にした今、その可能性は大いにあるのではないかと思えてしまう。
もっとも、その力のせいで死にかけているフィンレー達にしたら皮肉な話なのだが。
「みんなで出よう! 全てが終わるまで耐え抜くんだ!」
熱された空間の中で、フィンレーはそう声を張り上げるのだった。




