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異変と怒り


「一体、何が起こっているんだ!」


 薄暗い世界の中で、カリアスは思わず声を張り上げた。


 ダンジョンに潜ってから数十分。

 やっと目の前に二体の魔獣が姿を表した。

 正確に言えば、()()()()のヘル・ハウンドである。


 狼の様な見た目をしたヘル・ハウンドは地獄の番犬とも言われ、その鋭い牙と鋭い爪で獲物を襲ってくる。

 本来であれば、剥き出しの牙からよだれを垂らし、時より口から火を吹いてこちらを威嚇してくる姿は、まさに地獄に番犬にふさわしい威厳を持っている魔獣なのだ。


 が、目の前にいるヘル・ハウンドは、その漆黒の毛並みを持つ体を半分以上損失しており、口から煙を漏らしながら、弱々しく呻き声を上げていた。

 魔石が破壊されていないのか、失われた体から赤黒く光る石が半分ほど剥き出しになっている。

 何よりも、焦げ臭い匂いと、今もなお魔獣の体をじわじわと蝕んでいる赤い光。

 それはまるで石炭がジリジリと燃され続けているような、静かな燃焼である。

 カリアスは目の前の光景にいたたまれなくなり、自身の短剣をベルトに差した鞘から抜き取ると、その二体に向かって駆け出した。


 剣のレベルは他の冒険者達と比べると平均、ごく普通である。

 それでも、瀕死の魔獣二体にとどめを刺すぐらいは造作も無い。


「グルルゥ……」


 向かってくるカリアスに対し、ヘル・ハウンドが最後の力を振り絞った様に呻く。

 その叫びの様な苦しげな声で、カリアスの心にギュッと掴まれる様な痛みが走る。


 それでも、カリアスの振りかざした短剣の軌道はぶれること無く、真っ直ぐにヘル・ハウンドの心臓にあたる魔石へと向かって行く。


「すまない」


 カリアスはそう言葉を溢し、立て続けにヘル・ハウンド二体の留めを刺した。

 ジワジワと赤い炎に蝕まれていた体は、魔石の破壊と共に白い光の粒となり、次の瞬間消えていった。

 魔獣達の姿が無くなってからも、カリアスは前に歩みを進めることなくその場に佇む。


 このダンジョンに入ってから、カリアスはなんとなく違和感を感じていた。

 そして、異様な光景を目の当たりにした今、頭の中にあった引っかかりの正体が掴めた気がした。


 集団行動を取ることが特徴でもあるヘル・ハウンドが二体だけ、それも瀕死状態である。

 これらの状況から推測するに、彼らが何かしらの襲撃を受け、生き残った二体も深傷を負ったというシナリオが一番しっくりきた。

 

(襲撃……焦げ臭い匂い……燃える……) 

 

 そう考えて、ふと氷の魔女こと情報屋ビネットの言葉を思い出す。


『あなたが抜けた後釜に新たなメンバーが入ったわ。それも有名な召喚士よ』


『炎の精霊サラマンダーと契約を結んだ若き天才召喚士、アルバート・デューク。彼の通った道は炭しか残らない死の場所と化す、と言われているわ』


 カリアス達以外でこの場所を通った者は『炎の凱旋』しかいないだろう。

 そして、炎系の魔法の使い手など、カリアスが知る限りメンバーには存在しない。

 となると、犯人は自ずと決まる。


「アルバート・デューク……」


 カリアスは聞いたことしかないその名を口にする。

 同じ召喚士である者がこの惨劇を生み出したと思うと、カリアスは深い怒りを覚えた。


 冒険者はダンジョンに潜り、魔獣と戦い倒す仕事。

 世間一般ではそう認識されている。

 カリアスもそれは否定しない。

 だが、召喚士という仕事柄なのか、どうしてもダンジョンに囚われている魔獣達の事を考えてしまう。

 哀れで悲しい生き物だとカリアスは思う一方、そんな彼らすら救ってやりたいと思ってしまうのだ。

 

 だからこそ、カリアスは無駄に彼らを痛めつけることを嫌悪した。

 殺すときは一思いに。

 苦しむ事がない様に、できる限り一瞬で楽にしてあげる。

 それがカリアスができる、唯一の救済である。

 

 それだけに、命をなんとも思わず留めも刺さない様な残忍なやり方に、カリアスは吐き気がした。

 全く面識がないアルバート・デュークという人物が、自分とは相対する感覚の持ち主であるという事を強く認識する。

 しかも、カリアスと同じ召喚士だというのだから、嫌悪感はさらに増すばかりだ。

 同じ魔獣を使役する者だからこそ、彼には魔獣の命にもっと尊厳を持って欲しかった。


『アルバート・デュークには気を付けなさい』

 

 カリアスの頭の中で、ビネットのありがたい忠告が警報の様に響く。

 これから進むにつれて会う事になるだろう『炎の凱旋』のメンバー。

 その中にいるであろうアルバート・デュークという人物の存在に、カリアスは会いたくない様な、でも会わなくてはならない様な複雑な感情を持った。


「カリアス……?」


 ふと後方からセレネの声が聞こえた。

 カリアスが振り返ると、セレネの綺麗に整った顔が不安げに歪み、少し怯える様な動揺が見て取れる。


「これくらいは俺にもできるからさ」


 努めて気さくに、険しく固まっていた表情筋を動かして笑顔を作りながら、カリアスはセレネにそう声をかけた。

 

「さあ、前に進もう」


 カリアスはそう言葉を付け加え、短剣を腰のベルトに差してある鞘にしまうと、重々しくなった空気を払拭するかの様にもう一度セレネに笑いかけた後、前方に視線を戻しスタスタと歩き始めるのだった。




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