表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/57

腹ごしらえ

 夜になった港町の『ポルトゥス』はオレンジ色の街灯で照らされ、その光は港に近づくにつれ更に輝きを増していた。

 オレンジの光は停泊中の船達をもライトアップし、昼間に見えた豪華さとはまた違う煌びやかさで港を彩っている。

 屋台からは光だけではなく賑やかな声が昼間と同じように聞こえ、夜の街を出歩く人達を誘惑している。

 まるで王都のお祭りのような情景が、この眠らない街ポルトゥスでは日常となっていた。

 

 カリアスとセレネはそんな賑やかな屋台街で、軽く夕食を取るつもりで目についた店に入ったはずだった。

 目の前に並ぶ空になったお皿の数々と、セレネの幸せそうな顔を見比べ、カリアスは苦笑いを浮かべるしかない。

 これから先を急ぐ為、ちゃんとした食事は当分取れなくなる。それを考えると、セレネに控えて欲しいとは言い出せなかった。


「すべて食べ終わったらすぐ出発するよ」


 もぐもぐと口を動かしていたセレネに、カリアスはそう話しかける。セレネはコクコクと首を振ってそれに応えた。まるで幼い子供の様な仕草に、カリアスの頬が緩む。

 セレネの実年齢をカリアスは知らないが、見た目的にはそんなに歳は離れていないだろう。そんな彼女が食べ物の前では、まるで幼子の様に目を輝かせ無邪気になるのだから面白い。

 

 セレネの小さな体に、どんどん食べ物が吸い込まれていく。そんな光景を黙って見届けながら、頭の中では今日の出来事を振り返る。


(にしても、予想外だな……)


 カリアスは先程まで、この国一番の情報屋であるビネット・クロウから必要な情報を教えてもらっていた。

 特に、彼女がサービスだと言って教えてくれた情報には、頭が痛くなる思いだった。


(アルバート・デュークねぇ……)


 炎の精霊サラマンダーと契約を結んだ天才召喚士。

 確かに、炎の精霊サラマンダーはカリアスが契約を結んでいる風の精霊シルフと同じで、上級魔獣に分類される。

 カリアスの場合、契約とは名ばかりであり、実際は魔力が足らず未だに召喚したことがない。その一方で、噂の召喚士は精霊の力を上手く使えているのだろう。それだけでもカリアスよりも数段格上であることが分かる。


 その上、ビネットは彼についてこう言った。


『彼の加入した冒険者パーティーは、その直後に悲惨な目に遭っているらしいわ。冒険者として再起不能になる様な怪我を負ったり、怖い幻覚に悩まされたり、ダンジョンに入ったきり戻ってこなかったパーティーもいたそうよ。一部ではアイツに関るなと言われる程、こっちの世界じゃ彼は要注意人物としてもよく知られているわ。噂では、とあるドラゴンを探す為に渡り歩いているとかいないとか』


 ビネットの話を聞いた時、並々ならぬ危機感を感じた。そんな曰く付きの人物など、普通は関わらない様に努める。

 が、『炎の凱旋』として三年間一緒に過ごしていたカリアスは思った。


(あの人達ならやりかねない)


 実力主義である彼らのことだ。きっと必要な下調べも行なわず、単純に強さのみで引き入れたのだろう。

 馬鹿だと憐れむ気持ちや、自業自得だという思いがカリアスの中に湧いてくる。


 しかし、たとえ追放された恨みがあったとしても、心の何処かで彼らの身を案じてしまう。やはり、昔慣れ親しんだ人達が不幸になる結末など、カリアスとて、できれば見たくないのだ。


 それに、彼がドラゴンを探しているという噂も、楽観視出来ない。彼に先を越されるのは、何としてでも避けなければならない。


 どちらにせよ、これはカリアス達にとって由々しき事態だった。先を急がざるを終えない。

 ダンジョン攻略の調査は明日から始まるらしい。対して、カリアス達がダンジョンに行く為にはおよそ四日かかる。


(なにか、もっと早くダンジョンに辿り着けるいい方法はないだろうか……)


 着実に前に進んでいる旅路だが、次から次へと問題が絶えない。カリアスは思わず天井を見上げる。オレンジ色に光るランプが、海から吹く風で時より揺れ動く。スパイスの香ばしい匂いが鼻を刺激し、賑やかな声が穏やかな日常を感じさせる。


(次ここに来る時はもっとゆっくりしたいものだな)


 カリアスは心からそう思った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ