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氷の魔女のサービス

 カリアスは打ちひしがれていた。

 ユリニアの森から遥々この港町までやってきたのに、次の目的地は反対方向だった。それも、ユリニアの森のさらに先。この島国の果てである。

 ここにくるまでカリアス達は二日かかった。決してゆっくり来たわけではないし、むしろ急いでいた方だ。ここから目的地『巨厳の洞窟』までは、少なく見積もっても倍はかかるだろう。

 せっかく苦労してここまで来たのに、また逆戻りし、更にそのずっと先へと行かなくてはいけない現実がカリアスを憂鬱にさせた。


 しかし、新ダンジョン『巨厳の洞窟』は発見されて間もないこともあり、国営ギルドが厳重に管理し、まだ冒険者達の出入りもできていない状態だったはず。

 ここに来るよりも先に行っていればとも考えたが、無駄足になる可能性もあったのであえて省いていた事をカリアスは思い出した。


「ビネット、確か巨厳の洞窟ってまだ入れなかったよね?」


 確認の為、目の前にいるビネットに問いかけた。すると、この国一の情報屋はその表情を一切変えることなく即答する。


「近々入れるようになると思うわ」


「えっ! そうなの?」


「どうやら国がダンジョン攻略に動き始めたそうよ。調査として冒険者パーティーを送り込むという情報が入ってきてる。しかもその作戦が明日スタートらしくて、王都じゃ大騒ぎらしいわ」


 タイミングが良いのか悪いのか。

 とにもかくにも、これで冒険者の出入りが出来るようになるのも時間の問題だと分かった。向かうべき場所が他国の奥地じゃ無かっただけマシだろうと、沈む自分の気持ちをポジティブに差し替える。


「カリアス、これからどうするの?」


「新ダンジョンに行くしかない」


 セレネもまた戻らなくてはいけない事が分かっているようで、その美しく整った顔をしょんぼりとさせている。


 正直、先を急いでいるカリアス達にとって、今日このままダンジョンに向かうことが一番ベストだろう。

 しかし、体力的には二人とも限界が来ている。ここで一晩泊まり、スッキリした状態で明日再出発するのも悪くない。


 しかし、一つ問題がある。それは、カリアス達はなんとしてでも、誰よりも早くボスの間に行かなくてはいけないということだ。誰かがダンジョンに囚われているセレネの母と戦闘になる前に、カリアス達が会わなくてはいけない。

 まだ調査の段階であれば、最深層まで行き着くことは多分ないだろう。しかし、派遣される冒険者パーティーの実力によっては、ボスに挑む可能性も決してゼロとは言えないのだ。


「調査のために派遣される冒険者パーティーは実力者なのか?」


 カリアスは確認の為にビネットにそう問いかける。すると、いつも表情が変わらないビネットが、面白そうに一瞬だけ笑った。その変化にまずい事でも聞いてしまったのだろうかと、カリアスは内心ヒヤッとしてしまう。なんせビネットは一度怒らせると何をしでかすか分からない。通称『氷の魔女』と呼ばれるほど怖い魔女でもあるのだ。

 しかし、カリアスの緊張とは裏腹に、ビネットは質問にいつも通り答える。


「あなたのよく知っている人達よ、カリアス。誰よりもよく知っているんじゃないかしら」


「まさかっ……」


「そのまさかよ」


 カリアスが誰よりもよく知っている冒険者パーティーなど一つしかない。

 カリアスが三年間在籍し、かつ、ごく最近『無能な家畜番』と言われ追放された冒険者パーティー。

 

「『炎の凱旋』」


 カリアスがそのパーティーの名を呟くと、ビネットは何も言わずに目だけを少し細めて見せる。しかし、そんなビネットの様子は、カリアスがその答えが合っていると確信するには充分だった。


 派遣された冒険者パーティーが『炎の凱旋』だとすると、まず数日以内のダンジョン攻略は難しいだろう。確かにこの国最強と言われるようになったパーティーではあるが、まだ未熟なところもたくさんある。

 何より、カリアスが抜けた事によって魔獣に対する知識が全く無くなった状態なのだ。更に、新ダンジョンになると、どんな魔獣が出てくるかも予測できない分、苦戦を強いられるに違いない。


(今夜少し休憩した所で先を越される心配はないか)


 カリアスはそう考えながら少しホッとしていた。すると、ビネットがカウンターに身を乗り出し、その魅力的な体と顔を近づけてくる。男のカリアスからしたら目に毒でしかない。相手が『氷の魔女』である事を、カリアスは心の中で自分に言い聞かせた。


「そうそう、あなたにサービスでもう一つ情報教えておいてあげる」


 カリアスが目のやり場に困りながら誘惑と理性の間で戦っていると、ビネットがそう話を切り出した。


「もう一つ?」


「あなたが抜けた後釜に新たなメンバーが入ったわ。それも有名な召喚士よ」


「有名な召喚士?」


「炎の精霊サラマンダーと契約を結んだ若き天才召喚士、アルバート・デューク。彼の通った道は墨しか残らない死の場所と化す、と言われているわ」


 緊張感を孕んだ声でビネットがそう言った瞬間、カリアスの周りに緊迫した空気が立ち込み始めた。カリアスは思わずゴクリと喉を鳴らす。


「なぜあなたが新ダンジョンにこだわるのかは知らないけれど、もしこのまま向かうのだとしたら、アルバート・デュークには気を付けなさい」


 ビネットの新たな情報で、カリアスは今夜の宿をどこにするのか考えていたプランを、改めざる終えなくなるのだった。

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