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巨巌の洞窟

 冒険者達に一番必要なもの。それは『情報』である。

 ダンジョン内の構造や詳しいレベル分け、魔獣の出現条件や弱点などを知っておく事は、冒険者にとって自分と仲間の命を守るために重要である。


 どれだけ武装しようが、ダンジョンの構造を知らなければ迷い込んで出口に辿り着けず、命を落とす可能性もある。情報があれば本来の実力ですんなり倒せる魔獣に、苦戦を強いられる事もあるだろう。


 そして、沢山ある冒険者パーティーの内部情報や冒険者個人の力量や性格もまた、敵対パーティーの行動を把握したり、新たなメンバーを探すときの基準として必要となる。

 どれだけ実力のある人物をパーティーに入れようが、事前の情報収集を怠るとパワーバランスが崩れ、パーティーが崩壊する可能性もある。それがダンジョン攻略中で起きたなら死活問題だ。

 

 装備に力を入れようが、実力のある冒険者をパーティーに引き入れようが、『情報』には敵わないのである。

 そして、その情報を生業としているのが『情報屋』だ。


 港町の宿場街にある、こじんまりとした佇まいの酒場『魔女の便り』にて、カリアスはこの国一番の情報屋として名高い魔女、ビネット・クロウと取引をしていた。


「それで、何が聞きたいの?」


 薄暗い店内、カウンターの向こう側で大人の魅力溢れる風貌のビネットが、感情のわからない表情でそう言った。


「ここ1ヶ月で新しくできたダンジョンを教えてほしい」


「それは、旧大帝国全土でという認識でいい?」


 カリアスはビネットの問いにコクリと頷いた。

 店内に数十秒の沈黙が訪れる。目の前のビネットは真剣に考えている様子で、彼女を取り巻く冷気が先程より一層強くなっている。そのせいで、カウンターに並んでいるお酒のボトルがピキピキという音をたて、一気に凍っていく。

 そして、結論が出たらしきビネットは閉ざしていた口を開いた。


「巨巌の洞窟だね」


 そう言い切ったビネットは、変わらぬ表情に少しだけ強い意志を纏わせた。しかし、カリアスはそれだけでは納得がいかず、ビネット聞き返す。


「巨巌の洞窟? ビネット、本当にあそこだけ?」


「そうよ、ここ1ヶ月で新しくできたダンジョンは私の知っている限りあそこしかないわ」


 ビネットはそう断言する。この国一番の情報屋が言うのであれば本当だろう。しかし、カリアスはそのダンジョン名に拍子抜けであった。旧大帝国の土地は広大である。カリアスはここ1ヶ月と指定しても、何箇所か該当するだろうと身構えていた。


 それなのに、ビネットは1箇所のみだと言う。

 なによりも、カリアスはそのダンジョンの場所を知っているのだ。

 なぜなら、新ダンジョン『巨巌の洞窟』はここマリゴナ島にある。


「良かったじゃない、近くて」


「いや、それはそうなんだけど……」


 カリアスはそう言いながら、隣に座って話を聞いていたセレネに顔を向ける。話が読めていない様子のセレネは、カリアスに説明を求めるような視線を向けてきた。


「新ダンジョン『巨巌の洞窟』はね、このマリゴナ島にあるのよ。それも、ユリニアの森を抜けたこの国の果てにね」


 しかし、その視線に応えたのはカリアスではなくビネットだった。


(また戻らなくてはいけないのか……)


 ビネットの言葉に、カリアスは2日かけて来たこの道のりを思い出し、嘆きたくなるのだった。


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