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対価を払ってもらおうか

 マリゴナ島の港町『ポルトゥス』を訪れたカリアスとセレネは、賑わっている屋台街を抜け、港から少し離れたところにある宿場町の方に向かっていた。

 活気に満ちた港の方とは違い、旅人の疲れを癒す宿場が立ち並ぶこの場所は、少しゆっくりとした雰囲気が漂っている。また、この区画には宿以外の酒場や食事処も点在しており、夕食などをそこで済ませる旅人も多い。


(やっと着いた)


 カリアスはそんな宿場町の端にひっそりと建っている、とある古びた酒場の前にいた。こじんまりとした佇まいの店先には『酒場 魔女の便り』と書いてある看板が掛かっており、その下に『対価を払うべし!』と手書きの力強い字で付け足してある。

 他の国から来た旅人が何も知らずにこの店の前を通りかかったら、まず入ろうとは思わないだろう。そんな得体の知れない圧が、その看板、正しくはその文字からひしひしと伝わってくる。


 だが、前に何度も足を運んだことのあるカリアスは、迷うことなく酒場のドアを開ける。ドアについていた鈴の様なものが、来訪者を告げるように「カランッ、カランッ」と音を鳴らし、店の中から「いらっしゃい」と、なんとも気怠げな声がカリアスの耳に届いた。

 

 カリアスは後ろで挙動不審に店の中を見つめていたセレネに店の中に入る様に促し、後に続く形で自分も店に足を踏み入れた。

 店内はテーブル席が三つにカウンター席が五つあり、ぐるっと見渡すが先客は誰もいなそうだった。

 先に入ったセレネは緊張しているのか体を固まらせつつも、エメラルドクリーンの瞳を輝かせながら店内を見つめている。

 そんなセレネの様子を横目に見た後、カリアスはカウンター席で食器を磨いている人物に声をかける。


「久しぶりだね、ビネット」


 カリアスが声をかけた人物は無表情のまま、なんだお前かとでも言いたげに目だけを細めてこちらを向いた。

 少し癖のある艶やかな黒髪が、女性らしい品の良さを醸し出している。少し目尻が上がり気味の目で大人の色気を帯びたその顔は、男性からしたら魅力的な女性である事は間違いないだろう。

 今はカウンターで隠れてしまっているが、彼女がいわゆるボンキュッボンのスタイル抜群である事を、カリアスはこの店に何度も訪れているので知っている。


「カリアス、あなた大変だったみたいじゃない」


「やっぱり、俺がパーティーを追放された事はすでに耳に入っていると」


「当たり前よ、私を誰だと思っているのかしら」


「もちろん、分かっているよ。美しい魔女であり、この国一番の情報屋ビネット・クロウ」


 カリアスの言葉に、無表情だったビネット表情が少し満足げに揺らいだ。

 彼女はこの国一番の情報屋と、冒険者の一部では名の知れた美しい魔女である。しかし、そんな彼女は性格にややクセがあり、他の冒険者達からは「氷の魔女」と影で呼ばれていたりもする。


「で、あなたは冒険者やめてデートに勤んでいると」


「違うよビネット。彼女は新しい俺の作ったパーティーメンバーの一人、セレネだ。セレネ、こちらはビネット・クロウ。俺が冒険者になった時から度々世話になっている人だ」


「はっ初めまして。私はセレネと申します」


 セレネは緊張しながらも挨拶をした。そんなセレネをまるで品定めするかの様に、ビネットは無表情のままじっと彼女を見つめる。世界中のありとあらゆる情報を手にしていると噂のビネットの事だ、もしかしたらセレネの正体を見抜いてしまうのではないかとカリアスは焦る。なんとも心臓に悪い光景だ。


 しかし、しばらくしてセレネから視線を外したビネットはカリアスに顔を向け直すと「まー頑張りたまえ」と一言だけ告げ、また食器を磨き始めた。

 なんとも感情が読みにくいのがビネット・クロウの不気味なところであり、情報屋として優れている才能だったりもする。


「それで、今日はどんな情報がお望みで? まさかただここにお酒を飲みに来た訳じゃないでしょ」


「そうなんだ、教えて欲しい事があってきた」


 そう言いながら、カリアスは目の前のカウンター席に座った。セレネもそんなカリアスを見て自然と隣の席に腰掛ける。カリアスが本題を話始めようとしたのを察したのか、ビネットはカリアスが先に言葉を発する前に、冷たい口調で言葉を言い放つ。


「じゃーまず対価を払ってもらおうか」


 ビネットの表情は無表情のまま変わりはないが、先ほどまでとは違った有無を言わさぬ圧を感じる。ビネットの周りには冷気が集まり始め、彼女が磨いていた食器は一気に氷漬けになってしまった。これが「氷の魔女」と言われる所以である。

 彼女は氷魔法を得意とした魔女であり、仕事のスイッチが入ると決まって周りをひんやりさせてしまう。

 そして、偽の情報屋を伝えたり、ここで知り得た情報を許可なくベラベラ話してしまうと…………。その先は言わなくても想像がつくだろう。

 それも全ては、この情報屋と言う職業に誇りを持っているからこそなのだが、お得意様であるカリアスでも正直怖い。


「対価はダンジョンについての新たな発見と、俺が知り得る元パーティーの情報全てだ。それで足りなければ金も払う」


 ビネットの言う対価というものは、新たな情報もしくはお金にあたる。カリアスが出せる対価としたら、それぐらいしかないだろう。元パーティーメンバーには申し訳ないが、今のカリアスにとってはどんな情報でも使えるものは使いたい所だ。

 セレネに関することは一切話せない事を考えると、新たな情報に関してはビネットにとって価値があるかどうかすら分からない。あとはカリアスのお財布事情とビネットの機嫌にかかってくる。


(ビネットに教えてもらう情報は、最小限で重要なことだけに絞らないとな……)


 頭の中でそう考えながら、カリアスはダンジョンについての新たな情報をビネットに説明していくのだった。

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