港町『ポルトゥス』
かつて大帝国と呼ばれた、大きな二つの大陸とそれらに囲まれたメディウス海に浮かぶ九つの島国。
そして、九つの島国の一つである小国『マリゴナ島』は発展途上の国であり、様々な国と貿易を交わしている。
活気に溢れた港町『ポルトゥス』は、そんなマリゴナ島に一つだけある貿易港として栄えてきた。
メディウス海に面した周辺国から遥々やってきた大きな船が、何隻も港に停留している。どの船も色や形が様々で、青い海にそれらが並んで浮かんでいる光景はとても華やかだ。
港の端の方は漁港にもなっており、小型の船からマリゴナ島の漁師達が今日獲れた魚をせっせこと運んでいる。
異国の服を身に纏った客人や、この国のダンジョンで腕試しをしに来た冒険者が、目を輝かせて視線を向ける先には、栄えた港町の光景がある。
「いらっしゃいませー、今日獲れたての新鮮な魚だよー」
「長旅で疲れているだろ? うちで酒を一杯どうだい? マリゴナ島原産の美味しいエールがあるよ!」
「さー寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 他国から仕入れた美しくて珍しい品物ばかりだよ!」
「旅人さん、宿がないならうちによっておくれ! 宿代サービスするから!」
小さな露店から少し大きな酒場まで、ズラっと軒を連ねて訪れた人々を出迎えている。少し島の奥の方に進むと、そこそこ大きな宿屋が数軒あり、長旅で疲れ果てたであろう旅人達を今か今かと待っていた。
賑わった声はそこら中から溢れかえっている。
そんな中、一人の冒険者風の青年と異国調のマントを着た小柄な人物が歩いていた。
「カリアス! あの露店の食べ物美味しそう!」
「セレネ、食べ過ぎだよ。ここに着いてからずっと食べているじゃないか」
たくさんの旅人達や港で働く人々の姿で町が賑わっている中、カリアスとセレネは違和感もなく紛れ込んでいた。
セレネは香ばしい匂いを発している露店を名残惜しそうに見つめながら、スタスタと歩くカリアスについていく。そんな彼女の様子を見て、カリアスはため息を溢したくなる。
セレネの異常な食欲には前から薄々気付いてはいた。が、それにしてもこの港町についてからの彼女の食欲は度を超している。
様々な露店が立ち並び、セレネにとっては誘惑の多い場所である事は間違いない。だが、端から端まで全てを食らい尽くす勢いで食べ物をねだってくるセレネには、驚きから呆れを通り越して、もはや怒りが湧いてきそうだった。
カリアスの作る味気の無い料理だけをずっと食べてきた為、美味しそうな匂いを漂わせる料理を前にしてセレネの食欲が一時的に増幅しているのか。それとも単に、彼女の食欲が本来の姿を出し始めただけなのか。
(一体、どれだけ食べるんだ。俺の貯金の方が先に底をつきそうだ)
前カリアスが所属していた冒険者パーティーでも、ドロシー・リードという大食らいの魔女がいたが、セレネはさらにその上をいくかもしれないなとカリアスは思った。
そんなカリアスの気も知らず、セレネは露店に向かっていた顔をカリアスに向けて問いかける。
「カリアス、どこに行くつもりなの? ダンジョンがこの近くにあるの?」
「いや、ダンジョンじゃない」
そう、ここに来た目的は二つ。
一つは、セレネという規格外の存在が、この国の人たちに紛れて違和感もなく過ごす事が可能なのかどうかを確認する為だ。異国から来た観光客や冒険者の中には、ドワーフやエルフ族などの亜人も多い。より多く様々な人達が出入りしているこの港町は、最初の実験にもってこいの場所だった。
そして、今のところその試みは成功している様に見え、カリアスは手応えを感じていた。
二つ目の目的は、情報収集だった。
一刻も早くダンジョンに向かうべきところだが、ここで重要な問題があった。それは、セレネの母が囚われたダンジョンがどのダンジョンであるのかが分からない点だ。
ダンジョンは旧大帝国の至る場所に存在する。
この島国でさえ一つの攻略済みダンジョンと、二つの未攻略ダンジョンが存在する。周りの大きな国々には、それ以上にたくさんのダンジョンが存在しているのだ。
どこに行けばいいのか分からないまま、手当たり次第に旅をしたところで時間の無駄になる。
そして、その答えを探すためにカリアスは港町『ポルトゥス』を訪れていた。
「この港町は沢山の国と繋がっている。つまり、世界中の新しい情報が集まる場所でもあるんだ。きっと君のお母さんに近づく手がかりがあるはずだよ」
セレネの期待に溢れたエメラルドグリーンの瞳に視線を向けたまま、カリアスはにっこりと笑って見せる。
「それに、他の国にあるダンジョンだとしても、この港からすぐに船で向かう事ができるよ」
他の町を一切経由せず、ユリニアの森の中だけを歩いてこの港町にたどり着くまで、約二日かかった。
ここからが勝負だと、カリアスは心をより一層引き締め、活気に満ちた町を歩くのだった。




