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風の精霊

「カーリーアースぅーーーーーー!」


 自分の名前を呼ぶ声が明確に聞こえ始めた時、その声の主にカリアスは心当たりがあった。


(めんどくさいぞ、これは……)


 それが分かった途端、ただでさえ疲れ切っているカリアスの体に、更にどっと心労が押し寄せる。

 なんてタイミングが悪いのだろうか。

 ふとセレネの方を見ると、カリアスの名を叫ぶ不思議な声に困惑していた。困った顔でも変わることのない美しさに、カリアスはまた一つため息を吐いた。


(コレは幻聴ではないだろうか)


 そう自分に言い聞かせようとしていた所に、ジェイソンと視線がぶつかる。ジェイソンは憐れみのような表情を浮かべ、首を横に振った。

 諦めろと言いたいようだ。

 が、その本心はこれから起こる事に対して、好奇心に満ち溢れているだろう。ジェイソンはそういう人だ。


(ひとでなし爺ィめ……)


 そう思っている間にも、声は近づいてくる。

 遂にすぐそこまで迫ってきた声は、カリアスが育った小屋のあるこの開けた空間に響き渡った。


「いたぁー!!!!」


 そのどこまでも響いていくような声色が聞こえた瞬間、カリアスの顔にものすごい衝撃が走った。


「ぐぉほぉっ」


 思わず言葉にならない声を上げる。

 そしてそのまま受身をとる暇もなく、カリアスの体は地面と激突した。森の豊かな土地がクッションの役割を果たし、多少の衝撃を和らげてくれたが、それでもここ数日の疲れと相まって体が悲鳴を上げていた。


「いったぁー……」


 衝撃をモロに受けた自分の頬を摩りながら、カリアスは倒木の上に座り直す。

 すると、目の前には腰に手を当て、頬を膨らます()()()()()の姿があった。


 スッと通った鼻筋に、目尻がやや吊り上がった目は金色に輝く瞳が存在感を露わにしている。そんな整った小さな顔の横には、上が尖った独特の形をした耳が左右についている。

 まるで開きかけの初々しい花を逆さにしたような緑色の服を身に纏い、背中では透き通った羽が輝きを放ちながら忙しなく動いている。

 なによりも、手のひら程しかない彼女の大きさが、ヒューマンでも亜人でもない事を物語っていた。


「アリア……何するんだよ」


 カリアスの言葉に、目の前で怒りを露わにしていた彼女が声を荒げる。


「カリアスのバカ! アホ! マヌケ!」


「なんだよ急に」


「パーティーから追放されたってなんで言ってくれなかったの! 私を呼んでくれればそんな目に遭わないのに! 風の精霊シルフであるこの私と契約を結んでいる事をなんで言わなかったの!」


 そう、彼女は魔物の中でも位が高い「風の精霊シルフ」であり、名前をアイオリア、通称アリアという。

 と同時に、彼女はカリアスと契約を結んだ最初の眷属でもあった。


 精霊と契約を結ぶ事のできる召喚士はなかなかいない。その分重宝され、召喚士として名誉なことでもあった。

 確かにアリアの言う通り、契約のことをパーティーメンバーに伝えていたら少しは状況が変わっていたかもしれない。

 が、カリアスがそれを打ち明ける事は最後までなかった。


 カリアスはアリアと契約を結んだ事に対して、たまたま運が良かっただけであり、彼女を召喚するに見合った実力が自分には無いと思っている。だから、カリアスが彼女を召喚した事は、契約してからただの一度も無い。

 そんな状況で、風の精霊と契約を結んでいるなど言えるはずもなかった。


「と言うか、私というお嫁さんを放っておいて、なに他の女と一緒にいるのよ! 信じらんないっ!」


「いや、嫁にした覚えはない」


「最低! 浮気者!」


「だから、俺は嫁にぐぉがっ!」


 もう一度否定しようとした所で、またしてもカリアスの顔に衝撃が走る。

 小さい体で繰り出すアリアのビンタは、物凄い威力でカリアスに襲い掛かる。


「なんで呼んでくれないの! 私、カリアスのお嫁さんよね? どうして私を頼ってくれないの!」


「それは……」


 赤く腫れ上がった頬を摩りながら、カリアスがボソッと呟く。

 アリアの言葉には語弊がある。が、あながち間違っているわけではない。

 魔物が召喚士と契約を交わす事は、生涯を共にすると言う意味では結婚と似ているのかもしれない。

 自分にはアリアを含め契約を結んでいる眷属達の主人である資格が本当にあるのだろうか。そう考えずにはいられなかった。

 全ては見合った魔力を持ち合わせていないのが原因だ。


「俺には魔力が……」

 

 また同じフレーズを呟き、はたと下向きになっていた思考を止める。


 自分には無い魔力の才。そして自分には見合わない位の高い魔物達。

 しかし、眷属であるアリアの姿はすぐ目の前にあり、カリアスの魔力が今現在消費されている訳でも無い。


「アリア、なんで君はここにいるんだ?」


「なんでって、全然呼んでくれないから、()()()()()()来てあげたんでしょ! ありがたいと思いなさいよね!」


 アリアの発言にカリアスは息を呑む。

 とても重要な事実を自分は見落としていたのかもしれない。カリアスの視線は自然と意見を求めるように、ジェイソンの顔に向かっていた。


「カリアス、お前は一人じゃないだろ。それに、召喚士としてもっと自信を持つべきだ。自分自身の為にも、眷属達の為にもな」


 カリアスの気持ちを察したのか、ジェイソンが笑いながらそう言った。

 その言葉がカリアスの心の深くにゆっくりと浸透していくのだった。


 





 

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