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眷属

「どうすればいいんですか!」


 エメラルドグリーンの瞳を輝かせながら、セレネはすがるようにジェイソンのに問いかけた。


「ダンジョン内に入ってもその膨大な魔力にまったく干渉されず、行き来ができる魔物達がいる」


 ジェイソンの言葉を聞いた瞬間、カリアスの脳内にとある事実がまるで閃光のように駆け抜けた。

 確かに、ダンジョンに干渉されず自我を保ったまま出入りが可能な魔物達がいる。しかも、彼らは()()()()()()()()にいる。


「まさか!」


「もう分かっただろ?」


「眷属達……」


「正解だ」


 召喚士の眷属になった魔物は、その命が尽きるか契約を交わした召喚士が死なない限りは自由になれない。どうあがいてもそれ以外の方法では一度してしまった取り決めを破棄できないのだ。

 逆を言えば契約中は他の召喚士に干渉されることもない。

 つまり、もうすでに召喚士と契約を交わしている眷属であれば、ダンジョンの膨大な魔力を持ってしても、干渉できないという事になる。


 現に、冒険者としてダンジョンに日々潜っている召喚士は大勢いるが、その眷属がダンジョンに影響される話は聞いた事がない。そして、カリアス自身も経験した事がなかった。


 確かに、一番安全で手っ取り早い方法になるだろうとカリアスは思った。

 しかし、そうなると誰かがセレネと契約を交わさなくてはいけない。この状況だとカリアスがそうするべきだが、どうしても頭の中には「不可能」という文字が浮かんでくる。


「私がカリアスの眷属になればいいのね!」


「それが一番簡単な方法だな」


 二人の目線がカリアスに突き刺さる。

 ジェイソンに至っては、面白いとでもいいたげにニヤニヤと笑っている。多分、召喚士がドラゴンと契約を結ぶこと自体に興味があるのだろう。そのニヤつく目は完全にカリアスを研究対象として見ている。


 しかし、最強魔獣のドラゴンであるセレネと契約を交わす事に、カリアスは大きな問題を抱えていた。


「それはできない……」


「なぜ!」


 セレネの困惑した顔が迫ってくる。カリアスは申し訳なさと自分の非力さを痛感し、セレネと視線を合わせる事ができずにいた。


 眷属を召喚する代償として、召喚士はそれに見合った分の魔力を消費される。

 つまり、召喚したい眷属の魔力量や強さの位が高ければ高いほどほど、召喚士はより多くの魔力を差し出さなくてはいけない。そしてそれは召喚している間、常に行われるのだ。


 カリアスの魔力量は凡人以下だ。

 セレネが()()()()ドラゴンであることを考えると、一瞬でも召喚できたらいい方だろう。

 カリアスがセレネと契約を結ぶことは全くもって意味をなさない。そればかりか、どちらかが死ぬまでは一生契約を破棄できない為、仮にカリアスと契約を結ぶと他の召喚士とはもう出来なくなってしまう。


「俺には魔力が……」


 つい心の中で燻っていた言葉を、カリアスはポロっと口に出してしまった。するとこちらを見ていたジェイソンが「またか」と言わんばかりに肩をすくめる。


「まだそんなことを気にしているのか? お前の場合は……」


「いい、いい、それ以上言われると余計虚しくなる」


 魔力量が無いことにコンプレックスを抱いているカリアスに、ジェイソンはいつも同じようなことを言って励ましてくる。が、「無能な家畜番」と言われパーティーを追放された今、どう励まされても埋める事のできない穴がカリアスの心にポッカリと開いてしまっていた。


「ったく……。拗らせてるなー」


「しょうがないだろ」


 ジェイソンが困ったとでも言いたげに鼻息を漏らす。


「お前は研究者として美味しい話だと思わないのか?」


 ジェイソンが言いたい事は分かるが、カリアスにとってはそれ以前の問題だ。

 せっかく解決策が分かったというのに、自分のせいでダメにしてしまう。

 カリアスが肩を落とし、ため息をつく。


「だいたいなカリアス、魔力消費は……んっ?」


 落ち込むカリアスの様子を見て、ジェイソンが何かを言いかけるが、途中でふと止めた。

 ジェイソンは視線を森の奥の方に向けている。カリアスもそちらに視線を向けると、爽やかな風が頬を撫でていった。


(何かがやってくる)


 ものすごいスピードで迫ってくる魔力の存在を直感的に感じた、その時だった。


「……カ……リーアースぅーーーーーー!」


 響く声が森の中から風のように吹き込んでくるのだった。



 

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