無能な家畜番
「カリアス。今日をもってお前をこのパーティーから追放する」
腰に手を当て、反対の手で自慢の金髪をかきあげながら『炎の凱旋』のリーダーであるフィンレー・メルクーリはそう言い放った。
「……はい?」
宿舎の外でグリフォンのブラッシングをしていたカリアスは、急な展開に感覚が麻痺し手に持っていた大きめのブラシを下に落とした。と同時に、思わず間抜けな声で聞き返すのだった。
隣にいたグリフォンは鷲の風貌をしたその首を傾げながら、転がり落ちたブラシを嘴で器用に摘みとった。獅子の様な下半身から伸びた尾がブンブンとリズミカルに揺れ、ギラギラと輝く瞳がカリアスに期待の眼差しを向けている。
そんなグリフォンと打って変わって、目の前にいるフィンレーは整った顔に似つかわしくない、人を見下す様な視線をカリアスに向けていた。
「無能な家畜番はもうこのパーティーには不要だ」
フィンレーは一方的にそう断言して、カリアスに反論させる隙も与えず、颯爽と去っていく。
長年組んできた仲間に裏切られた気持ちと、とうとうその時が来てしまったと言う思いが、カリアスの頭の中を駆け巡った。
自分の実力不足を感じ始めていたカリアスは何も言い返せず、小さくなっていくフィンレーの後ろ姿をただボーッと眺めていた。
隣にいたグリフォンが痺れを切らし、カリアスの脇にグリグリと嘴と頭を突っ込み始める。腕が押される感覚に我に帰ったカリアスは、グリフォンに向き直るとため息を一つ吐いた。そして、苦笑いを溢しながら、その懐っこい頭を優しく撫でる。
「無能な家畜番だって」
フィンレーに言われた言葉をカリアスは自嘲気味にグリフォンに向けて発した。
言葉を理解できなかった様子のグリフォンは、撫でられて満足そうに閉じていた瞳を開き、カリアスに視線を合わせるとまた首を傾けた。その顔はどこか心配そうな雰囲気を漂わせていた。
カリアス・アンドレウは召喚士として『炎の凱旋』という冒険者パーティーに三年前から所属していた。
召喚士は魔獣や精霊などのいわゆる魔物と契約を交わすことで眷属とし、召喚して使役する力を持つ者をいう。才能が必要な為、誰でもなれる訳ではなく、更に治癒魔法の使い手であるヒーラーのように好んでなりたいと思う人もあまりいない為、召喚士の数はあまり多くないのが現状だ。
カリアスは召喚士という珍しい役職であり、魔物などに対しての深い知識が買われ、新しく冒険者パーティーを作ろうとしていた『炎の凱旋』のメンバーたちにスカウトされたのだ。
当初はその珍しさ故に「貴重な人材だ」と、リーダーであるフィンレーやその他のメンバーにも歓迎されていた。
が、カリアスには弱点があった。
それは凡人以下の魔力量だった。
パーティー創設したての頃は、比較的レベルの低いダンジョン層で戦っていた為、そんなに問題にはならなかった。
が、今や『炎の凱旋』は最強パーティーと呼び声も高くなり、当然の事ながらそれに伴いダンジョンのレベルもどんどん上がっていく。
ダンジョン深層を経験する様になった今、カリアスの魔力量の少なさは大きな問題となっていた。
それはカリアスも痛感していることだった。
同時に使役する魔物の数や召喚耐久時間は術者の魔力量によって違いが出る。そして、召喚する魔物の魔力量が多ければ多いほど術者自身の魔力を消費する為、より強い眷属を召喚することにはリスクを伴った。
魔力量は生まれ持ってその人の器が決まっている。
その為、身長と同じでいくら頑張って修行を積んだところで、大きく変わるものでは無い。
他のメンバーは元々魔力量も多く才能があり、それに増して戦闘での経験をどんどん積み重ねてきた為、最強と言われるに値するくらい成長していた。
カリアスも置いていかれない様に必死に食らいつこうと、眷族達の治療の為に持っていた医療知識を更に広げ、ポーションの精製技術を覚えたり、時には自身も剣を使い戦闘に参加したりと、これまでパーティーに尽くしてきた。
が、その努力は一番認めて欲しかった仲間に認めてもらえず、今まさに関係が終わりを告げた。
「頑張ってきたよな、俺」
今までの三年間の日々を思い出しながら、カリアスは目の前にいるグリフォンにそう問いかける。
「フィフィーヒュー」
グリフォンがその言葉に答える様に鳴き返した。
その真意は分からない。それでも、自分の頑張りを認めてもらえた様な気がして、カリアスは少し救われた気持ちになった。
ふと、パーティーを抜けた後の生活を考える。
(どうしたものか……)
カリアスにはまだまだ冒険者としてダンジョンでしなくてはならない事があった。しかし、フリーになった今、一人でダンジョンに潜り込むことは自殺行為に等しい。ただでさえ魔力の少ないカリアスにとってはなおの事である。
頭を抱えたい衝動にかられながら、カリアスは思わずため息を漏らすのだった。




