ダンジョンは召喚士
「さて、どんな面白い話を持ってきた?」
相変わらずニヤニヤとした表情でジェイソンがそう話を切り出した。
先ほどまで汚れていた身なりは清潔になり、白髪混じりの伸びた髪の毛を後ろで一つに束ねている。よく見える様になった顔は目鼻立ちが濃く、男らしい凛々しさがあった。
(綺麗にしていればいいのに……。本当に残念すぎる)
髭を剃った事で先程よりも若く見える様になったジェイソンを見て、カリアスはそう心の中で思った。
しかし、そんな弟子の気持ちなど知らないジェイソンは、好奇心に満ちた瞳でセレネをずっと見つめている。ジェイソンの熱い視線に困ったセレネが、苦笑いを溢しながら助けを求める様にカリアスと視線を合わせてきた。カリアスはその視線に応えるように頷くと、早速本題に入っていった。
カリアスがパーティーから追放された話から始まり、森の中でセレネと出会い、ジェイソンを頼ってここに辿り着くまでを順を追って説明していく。その間、ジェイソンは軽い相槌をするだけで、真剣な顔をして聞きに徹していた。正直、すんなり理解してもらえないと思っていたカリアスは、ジェイソンの反応に拍子抜けしていた。自分が逆の立場なら、訳がわからず質問攻めにしているだろう。しかし、ジェイソンはカリアスの話を一回聞いただけで理解し、受け入れている様に見えた。これが知識量の差なのか。それとも年の功というものなのか。カリアスは話ながらそんなことを考えていた。
「と言う事なんだ。正直、俺の情報だけじゃこの先には進めないと思って。知恵を貸して欲しい」
全て話し終えたカリアスは最後にそう締めくくった。
目の前のジェイソンは少し難しい顔をしながら、腕を組んで考え込んでいる。カリアスとセレネは、そんな様子を静かに見守りながら、ジェイソンが話し出す事をひたすら待った。
「なるほどな。これは興味深い話だなぁ」
しばらく経った後、目を輝かせながらジェイソンがそう呟いた。どうやらある程度頭の中で、情報の処理が済んだ様子だった。
「何か分かった事があれば言って欲しい」
「そうだな、お前の判断は正解だよ、カリアス。このままダンジョンに行くべきでは無い」
ジェイソンは真面目なトーンの声でそう言い切った。自分の判断が正しかった事にカリアスは安堵すると同時に、何故行くべきではなかったのかその根拠が知りたくなった。
「ジェイソン、どうしてそう言い切れる?」
「単純な話だ。ダンジョンの魔力には逆らう事ができないからだ。たとえ最強魔獣であるドラゴンでもな」
一見簡単な答えに思えるジェイソンの回答は、どこか含みのある言い回しにも聞こえた。
ジェイソンは昔から全てを話そうとしない。行き着いた真実があるにも関わらず、そこに行き着く道筋をあえて教えようとしない。ジェイソンはいつもカリアスに自分で答え合わせをさせるかの様に、上手く話を誘導していくのだ。
カリアスは幼い頃、ジェイソンに『何で全て教えてくれないの?』と聞いた事があった。その時、ジェイソンは『自分で考えて答えを見つけた方がワクワクするだろ?』と、笑いながら答えたのを今でも覚えている。
当時のカリアスはそんなジェイソンに不満もあったが、今では何となくその考えが理解できる。きっと答えに自分でたどり着いた時の爽快感やワクワク感が、探求していく事の醍醐味なのだ。研究者としてジェイソンはその過程を大切にしている。
実際、そんなジェイソンの教育のおかげで、カリアスには自分自身で答えを見つける癖が染みついていた。そして、カリアス自身もいつの間にか答えを導き出す事に楽しさを見出していた。
今回もいつもの様に自分自身の頭でジェイソンが示している答えを導き出す。
「ダンジョンの魔力……逆らえない……そっか! そういうことなのか!」
「カリアスも気付いたか」
スッキリした頭で声を発したカリアスに、ジェイソンは満足げな顔でそう言葉を返した。
「どういう事なの? ダンジョンには逆らえないって? 私にも分かる様に説明して」
一人だけ全く分からないといった表情であたふたしているセレネが、そう言いながら必死な目で訴えてくる。
「ああ、そうだね。セレネ、もう一度確認なんだけど、ドラゴンはダンジョンに選ばれるんだよね?」
「そう……だけど」
「あーやっぱり。何でこんな単純な事を気付かなかったんだ、俺は……」
「だから、何に気づいたの?」
必死に聞いてくるセレネの姿が、まるで幼い頃の自分にそっくりだとカリアスは思った。ジェイソンにしつこく聞いていたあの頃の自分を見ている様で、少し恥ずかしい様な面白い様な感情がカリアスの中に湧いてくる。
「簡単に言うと、ダンジョンは召喚士なんだ」
そう答えた自分が、何だかジェイソンに似てきたなとカリアスはふと思った。
セレネがキョトンとこちらを向いている。カリアスはそんなセレネの姿を見て、思わず笑ってしまった。と同時に、何か暖かいものが胸を包み込んでいく。
きっと、ジェイソンも必死に答えを探そうとする自分を見てこんな風に思っているのだなと、カリアスは思い至ったのだった。




