感動の再会?
「よお! 久しぶりだな。元気だったか?」
ガタイのいい男がそう話しかけてきた。白髪混じりの髪の毛はボーボーに伸び放題で、同じように髭も伸びきっている。身なりも小汚く、悪臭がぷーんと風に混じってカリアスの鼻を刺していく。
「ジェイソン、また体洗ってないだろ。のめり込むと周りが見えなくなるそのクセ、いい加減直しなよ」
そう、この男こそカリアスを育て上げた師匠であり、魔獣やダンジョンについて研究をしているジェイソン・クラークである。
彼は研究に没頭するあまり、自分の事を疎かにしてしまう癖がある。今回も何日も体を洗わず、着替えもせず過ごしているのだろう。来る前から大体予想はついていたが、相変わらずの様子に少しホッとしつつ、ゲンナリしてしまう。
ジェイソンがこの森に来ているかは、正直賭けだった。魔獣やダンジョンについて調べ回っているジェイソンは、この森の小屋を拠点にしているが、よく一人でふらっと旅に出る。いない可能性も充分あったが、こうして数年ぶりにここで再会できて、安堵とちょっぴり照れ臭い様な嬉しさもあった。
ふと、カリアスを見ていたジェイソンの視線が、自分の斜め後方に移動していく。
「おや、そこの美少女ちゃんは誰だ?」
そこで自分の後ろに隠れている美少女の存在を思い返し、カリアスは振り返る。彼女はそのエルフ族にも引けを取らない美貌をした顔を少し歪め、エメラルドグリーンの瞳を持つ目を大きく見開いていた。
「ほー……なるほど。君とは是非、色々なお話しをしたいところだ」
ジェイソンはセレネを上から下までジロジロと観察するように眺めながら、ニヤニヤと笑みを溢し始めた。セレネはと言うと、その気色悪い視線にすっかり怯えきっている。
二人の姿にカリアスはため息を一つ吐く。
「そう思うなら先にする事あるでしょ……」
「ささ、中に入ってお茶でもしよう、お嬢ちゃん」
「俺の話を少しは聞いたらどうだ、ジェイソン……」
カリアスの話を全く聞きもせず、ジェイソンはセレネを小屋の中に促している。
普段女には興味がないはずのジェイソンだが、何故かセレネには興味を示している。どうやら彼女が魔獣である事に気づいている様だった。
この風変わりなおっさんは、自分が興味をそそられる物を目にすると周りが見えなくなる。自分の身の回りの事を疎かにする事はもちろん、人の話を全く聞かなくなるのだ。
今回はセレネが魔獣である事に気付いた為、彼女の存在に興味が湧いたのだろう。そこに関してはカリアスも同じ探求者なので理解できる。
しかし、仮にそうだとしても、暴走し始めたジェイソンにはうんざりしてしまう。もはや、セレネを見つめる目は、まるで美女を口説こうとするそれである。
いかがわしい視線からセレネを救うべく、カリアスは自分の背に彼女を隠し、ジェイソンの前に立ちはだかった。
カリアスはジェイソンを師匠として尊敬し、育ててくれた父親として心から感謝している。しかし、このどこか浮世離れした変人を人としては全く尊敬できない。
今改めてカリアスはそれを実感していた。
自分の話を聞かず、セレネに入れ込んでいくジェイソンを目の前に湧き上がる苛立ちが収まらず、カリアスは遂に声を荒げる。
「体洗ってこい! このエロ爺ィが!」
セレネをここに連れてきた事に後悔が芽生え始める中、カリアスはそう叫んだ。
辺りに潜んでいた小鳥達が驚いたのか、一斉に飛び立つ羽音が森に響き渡る。空気がピシッと引き締まった中、ジェイソンがやっとカリアスに視線を戻し、正気に戻った瞳で優しく微笑むのだった。




