一方その頃 〜『炎の凱旋』パーティー側2〜
フィンレー・メルクーリは目の前に立つ青年から出る異様な圧を体全身で感じ、柄にもなく怖気付いていた。
体格は普通。身長はフィンレーとさほど変わらないだろう。漆黒の様な黒髪に、燃える様な緋色の瞳を持つ。日焼けひとつない白い肌の顔には、丸いフォルムをした黒縁の眼鏡をかけている。白いシャツの上に髪色と同じ黒いマントを纏い、茶色いズボンの膝から下は黒い革製と思われる少し光沢感のあるブーツが覆っている。
一見か弱そうなインテリ魔術師に見えるが、そんな青年から放たれるオーラが只者では無いことを表していた。
(なんていう圧、いや魔力量なんだ!)
唖然としながらフィンレーは目の前の青年、アルバート・デュークを見つめていた。
そう、この青年こそ新しく『炎の凱旋』に加わる召喚士である。
炎の精霊サラマンダーを使役し、戦場を炎で埋め尽くす。彼の通った道は墨しか残らない死の場所と化す、ともっぱら噂されている若き天才召喚士。
フィンレーは流石にその噂は言い過ぎだと思っていたのだが、本物を前にして思った。
(こいつなら、本当にやりかねない……)
「今日から光栄ながら『炎の凱旋』の召喚士を務めさせていただくアルバート・デュークです。よろしくお願いします」
「あっああよろしく。僕はこのパーティーのリーダー、フィンレー・メルクーリ。ポジションは前衛アタッカーの剣士だ」
好青年らしいかしこまった口調で挨拶を述べたアルバートに、若干冷や汗をかきながらフィンレーはなんとか普通の調子を演じ切る。が、アルバートがまるで品定めをするかの様にフィンレーを足元からじっくり観察し始めた為、フィンレーの取り繕った爽やかな笑顔が引きつり始めるのも時間の問題だった。
(あいつらいなくてよかった……)
今は外出中である他の個性豊かな面々を思い浮かべながら、フィンレーはそう心の中で呟いた。きっとフィンレーの柄にもない表情を見たら、当分の間は笑い話とされるだろう。向こうからしたらただのお遊びのイジリでしか無いだろうが、プライドが人一倍高いフィンレーにとったら屈辱でしかない。
「で、早速なのですが荷物を置きたいので、僕の部屋へ案内していただけませんか?」
「あっああ、そうだな。君の部屋はこの宿舎の二階に上がって右手にある部屋だ。申し訳ないが、前うちのパーティーにいた者の荷物がまだ片付いていない。元々そんなに荷物は置いていないと思うが、気に入らないものがあったら遠慮なく処分してくれ」
申し訳なさそうな顔を取り繕いながら、フィンレーはアルバートにそう話す。が、アルバートは気にするそぶりも見せず、共有スペースであるこの部屋の内装をじっくり見渡しながら「そうですか」と一言でこの話を終わらせた。
あまりにもドライな返しにフィンレーのプライドに一瞬雷が落ちた様な気がしたが、そこはフィンレー得意のスルースキルで記憶を抹消した。
自分に不都合な事は無かったことにしてしまう、なんともいい性格をしている所がもはやフィンレーの最大の武器である。
「そう言えば、前にいた方はどんな人だったのですか?」
部屋の観察を一通りし終わったのか、無表情のまま視線をフィンレーに向けてそう問いかけて来た。
フィンレーは思わずあのムカつく奴の顔を思い浮かべて苦笑いを溢す。
「あー魔力が凡人以下しかない使えない奴だったよ。一様君と同じ召喚士だったが、僕からしたらただの無能な家畜番だった」
(そう、あいつは使えない奴だった)
フィンレーはそうもう一度心の中で呟いた。
最強パーティーと呼ばれている『炎の凱旋』に、いてはいけなかった存在。今や目の前から去って行き、顔もしっかり思い出せなくなったその存在を一瞬だけ思い出した後に、フィンレーは腹の底から笑いが込み上げて来た。
そして、新しい理想のパーティーに生まれ変わった『炎の凱旋』の今後の飛躍を想像し、自分の世界に入り込んでいく。
「召喚士……」
フィンレーの心が違う世界に昇天して行く中、アルバートは表情を変えずにポツリとそう呟いた。
そして、
「あなたに言われてしまうという事は、相当使い物にならなかったのですね、その方」
「んっ? ああ、そうだな」
アルバートの言葉を正直ほとんど聞いていなかったフィンレーは思わず適当に受け答える。が、なんだか妙に引っかかる物を感じたフィンレーは、しばし無駄に考え込んだ。
結局、その正体は分からず、やはりその違和感を無かった事にしてしまうフィンレーであった。




