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釣りガールズ  作者: みらいつりびと
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琵琶カズミの憂鬱

 その日の夜、カズミは食欲がなく、夕食を半分以上残した。

「カズミ、どうかしたの?」とお母さんが訝しがる。

「なんでもない……」

 説明する気力もなかった。


 取材でノーフィッシュって、想像以上に落ち込むものだな……。

 7月の取材で、美沙希は1匹も釣ることができなかった。

 オカッパリのプリンセスがノーフィッシュ。

 プライドがあるだろうから、相当に落ち込んだんだろうな。

 あたしは初級者で、買ったばかりのベイトリールの扱いに慣れていなかったし、ハードルアーを1日投げつづけたのも初めてだから、釣れなくてもおかしくはない。

 それでも落ち込む……。

 次は釣らないと。

 それも、ベイトタックルで釣らないと、リベンジにならない。

 練習しないと。

 文化祭で忙しいから、なかなか練習時間が取れないかもしれないな……。

 文化祭か……。西湖ちゃんと毎日顔を合わせなくちゃならないのがつらい。


 カズミの落ち込みには、もうひとつの理由があった。

 そちらの方が、釣りよりも深刻な問題だった。

 西川西湖が猛烈に邪魔だ。

 美沙希への接近ぶりが尋常じゃない。


 あたしの美沙希に触らないでよ。

 あの子を取らないでよ。

 西湖ちゃんはきっと、レズビアンだ。

 あいつの美沙希を見る目は本気だ。恋している目。

 あたしの恋敵だ。

 絶対に負けられない。

 まあ、やさしくて魅力的な男の子が美沙希に接近してくるよりはマシなのかもしれないけれど……。

 落ち込んだ顔を美沙希に見られたくない。

 いつも元気で頼りがいのあるあたしでいたい。

 西湖ちゃん、負けないよ。

 

 翌日、カズミは笑顔で「おはよう」と美沙希に声をかけた。

「おはよう。昨日は釣れなくて残念だったね。あんまり気にしないで」

 美沙希が気遣ってくれている。

 カズミは震えるほどうれしかった。

 彼女が人間関係において進歩していると感じられたのも喜びだった。

 4月の美沙希は、教室内でこんなことを言える子ではなかった。


「美沙希ちゃーん、昨日はお疲れさまでしたっ。カッコよかったですっ」

 西湖が美沙希に絡んできた。

 気にしないようにしようと思っているけれど、イラッとする。

「西湖ちゃん、40アップすごかったよ。タナゴルアーを投げつづけたの、すごいと思う。ふつうは飽きちゃうもん。尊敬する」

「うふふふふっ。ボクも美沙希ちゃんを尊敬しますっ。スピナーベイトで釣ると宣言して、きちんと釣ってのけた。バスプロみたいですっ」

 美沙希がニコニコして西湖と話しているのを見ると、マジで嫉妬してしまう。

「あたしも次は釣るわよ。必ずリベンジするから」

「オカッパリの侍女は釣れなくてもいいんですよ」

「オカッパリの侍女言うなっ」

 本当にコイツはあたしの敵だ、とカズミは思った。 

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