ブラックバスを食べる。
特筆すべきことなく、夏休みが過ぎていく。
美沙希はひとりで釣りをし、カズミは毎日水郷釣具店でバイトをしている。
美沙希がウシボリで釣りをしているのを、立花真央が見ていた。
「琵琶さんはどうしたの?」と真央が美沙希に訊いた。
「アルバイト」
「ふうん。あなたたちは何をするのもセットだと思ってたわ」
「私もそのつもりだった。バイトもふたりでしようと思ってた。でもだめだった。対人恐怖症の私にバイトは無理」
「確かに、あなたにはむずかしそうね」
真央が美沙希の隣に立った。
「食べられる魚を釣りたいわね」
「ブラックバスは食べられる」
「そうなの?」
「そう」
美沙希がバスを釣った。
30センチはほどのサイズ。
彼女はバスのえらを引きちぎった。えらぶたから血が流れた。
もう1匹釣って、同じように活け締めにする。
「委員長の家の台所を貸してもらえる?」
「いいわよ」
美沙希はブラックバスをまな板の上に置いた。包丁を使って内臓を取り除き、鱗を剥ぎ取り、頭を落とした。
背骨に沿って包丁を入れ、3枚に下ろした。
水洗いし、ぬめりを取った。
ブラックバスの身に塩と胡椒を振る。
小麦粉をまぶす。
焼くと皮が縮れるので、切れ目を入れておく。
フライパンでオリーブオイルを熱し、そこにバターを溶かす。
魚の身を皮側から焼く。
軽く焦げ目がついているのを確認して、ひっくり返す。
両面に焦げ目がついたら、ブラックバスのムニエルのできあがり。
「食べて」と美沙希が言った。
おそるおそる真央が箸をつける。
口の中に入れて、舌で味わった。
「あら、美味しい」
「ブラックバスは白身の魚で、淡白な味。キタトネ川は水が濁っているから、身に臭みがある。ムニエルにして濃いめの味付けにすると美味しく食べられる」
「知らなかった。食べる魚とは思っていなかったわ」
「海の魚には美味しさでかなわない。でも食糧危機になったら、私はバスを釣って食べる」
バスのムニエルを食べながら、美沙希は言った。
真央と別れて、美沙希はひとりで釣りをつづけた。
カズミがいなくて寂しい。




