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釣りガールズ  作者: みらいつりびと
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川村美沙希という少女

 川村美沙希が初めて釣りをしたのは5歳のときだった。

 お母さんが近所の小川へ連れて行ってくれた。

 流れの穏やかな川沿いにふたりで座って、延べ竿で釣りをした。タマ浮きを浮かべ、釣り針には練り餌をつけていた。

 浮きがぴょこぴょこと動き、ふっと水面下に沈む。

 その瞬間に竿を立てると、クッと抵抗感がある。竿を持ち上げると、小さなフナが釣れていた。

「うわー、すごい!」

 美沙希は夢中になった。

「美沙希、楽しい?」

「うん、釣り楽しい!」

 お母さんはやさしくて、何度も一緒に釣りに行ってくれた。

 

 お父さんは大きな会社に勤めていた。忙しいらしく、夜遅く帰ってくる。休日に出勤することも多かった。

 美沙希にはお父さんに遊んでもらった記憶がない。彼女の1番の楽しみは、お母さんと釣りに行くことだった。


 美沙希が小学生になった頃、お母さんとお父さんがけんかをすることが多くなった。怒鳴り合う声が怖くて、美沙希は耳をふさいだ。けんかはしだいに激しくなっていき、家の中で毎晩のように怒鳴り声が響くようになった。

 お父さんがお母さん以外の女の人と遊んでいるのがけんかの原因のようだった。

 お母さんは思いつめたような顔でいることが多くなり、美沙希は釣りに連れて行ってもらえなくなってしまった。

 美沙希が小学3年生のとき、お母さんはストレスで重い病気になり、辛い闘病生活の末、死んでしまった。もうお母さんとは会えないし、一緒に釣りに行くこともできないのだ。美沙希は泣いた。


 その後、美沙希は父子家庭で育った。

 父と娘ふたりだけの家。

 お父さんは相変わらず仕事で忙しく、お小遣いは多めにくれたけれど、遊んではくれなかった。 


 美沙希は延べ竿を持ち、ひとりで小川に行くようになった。

 通っているうちに、その川でブラックバスという魚が釣れることを知った。

 ルアーでバスを釣っている人が羨ましかった。

 お金を貯めてブラックバスを釣る道具を買おう、と美沙希は思った。


 お母さんが亡くなって以来、美沙希は無口な子になっていた。

 仲の良い友だちをつくることができなくて、男の子に話しかけられるのは怖かった。

 お小遣いのほとんどを釣り具を買うために使った。

 たったひとりで魚を釣るのが、美沙希のほとんど唯一の楽しみだった。

 小学生時代は自転車で行ける範囲の池や川で釣りまくっていた。


 中学生になると、男の子の美沙希を見る目が変わってきた。

 彼女はかわいい女の子に成長していたのだ。

 でも美沙希には男の視線はわずらわしいだけだった。彼女はお母さんとお父さんの怒鳴り合いをけっして忘れることができなかった。

 彼女は軽い対人恐怖症になっていたのだ。


 ひとりで池や川や湖に行き、ブラックバスを釣る。

 川村美沙希はそんな孤独な少女になっていた。

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