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釣りガールズ  作者: みらいつりびと
33/78

ランカーとの格闘

「雨の日は魚の活性が高まって、釣れるのよ」と美沙希は言った。

 天気が悪くても、釣る気満々だ。

「今日こそ50アップを釣るわよ!」

「がんばるねえ」とカズミは言った。

 もう何日ノーフィッシュが続いているのか。

 ダウンショットやノーシンカーなどのライトリグを使えば釣れるのに、美沙希はストイックにビッグベイトを投げ続けている。

 カズミはその姿勢に驚愕していた。

 釣れなくても釣れなくても投げ続けるその姿勢は、もはや趣味ではなく、修行や求道みたいだった。


 ヨコトネ川から釣り始め、キタトネ川へ移動した。

 カズミは最近得意技になったノーシンカーリグで魚を2匹手にしていた。

「やるわね、カズミ」という美沙希の声は、我が事のようにうれしそうだ。

 しかしカズミは、美沙希に釣ってほしいという気持ちでいっぱいだった。


 雨がしとしと降っている。

 釣り人の数は少ない。

 水面で跳ねる魚の数は多い。

 雨の日が釣れるという美沙希の言葉は本当のようだ、とカズミは3匹目を取り込みながら思った。

 でも美沙希のビッグベイトにあたりはない。


「本湖に行きましょう。でかいバスがいるはずだわ」と美沙希は言った。

 茫漠としたカスミガウラよりも、川や水路の方が釣りやすく、魚は多い。

 しかし求めるのがデカバスならば、本湖に行くのは正解かもしれない。

 カズミはうなずいた。


 カスミガウラでのランガンが始まった。

 広い湖に向かって、美沙希は相変わらずビックベイトを投げる。

 カズミは杭や人工構造物や葦などの変化のある場所を狙って、ていねいにワームを沈めた。

 4匹目、5匹目と彼女はバスを釣ったが、美沙希はノーフィッシュのままだった。

 あのビックベイトにランカーが食いつきますように、とカズミは祈った。


 ゴールデンウイーク初日にキャットフィッシュを釣った港に来た。

 雨が激しくなってきていた。

 風も強くなり、本湖の白波は高まっていた。

 美沙希はテトラポッドに足を踏み出した。

「ねえ、今日は滑りやすいし、危険じゃない?」とカズミは言った。嫌な予感がする。

「だいじょうぶ、気をつけるから。この風、この雨、デカバスを釣るチャンスよ。釣れる気がする」

 美沙希の目はランカーだけを見つめていた。

 危ういな、とカズミは思った。


 美沙希はテトラポットの上に立ち、ビックベイトを投げ続けた。

 デカバスを取り込むためのランディングネットを背負っている。

 カズミはその横に座り、釣りをしないで、ただ美沙希を見つめていた。

 雨に濡れたテトラポッドの上で釣りをする気にはなれなかった。明らかに危険行為だ。

 

 美沙希は黙々と巨大なルアーを投げ続けていた。

 何十投目だろうか。

 水面をうねるように泳ぐブルーギルを模したビッグベイトに、魚が飛びつくのが見えた。

 それは黒々としたキャットフィッシュではなく、ダークグリーンのブラックバスだった。

 それも並みの大きさではない。単なる大物でもない。化け物のようなビックバスだ。

「ついに来たわ、まちがいなくランカーよ!」

 美沙希は竿にしっかりと魚の重みが乗るのを待って、大きくあわせを入れた。

「かかった。絶対に取り込んでやる!」

 美沙希とデカバスとの格闘が始まった。

 ロッドが限界までしなり、リールが鳴って、ラインが引き出されていく。

 カズミは息を飲んで美沙希のファイトを見つめていた。

 

 美沙希は時間をかけて魚を弱らせ、テトラポッドの近くまで寄せた。

 彼女は右手に竿を持ち、左手にネットを持った。

 巨大なバスはテトラポッドの際でさらに抵抗し、暴れ回った。

 竿を高く掲げて、バスを水面に上げようとする美沙希。

 ついにバスは疲れ切って、その巨体な背びれを現した。

「でかい……」とカズミはつぶやいた。

「50アップ、もらうわよ」

 美沙希はネットをバスに向けて伸ばした。

 そのとき、突風が吹いた。

「あっ!」

 美沙希はバランスを崩し、テトラポッドで足を滑らせ、落水した。

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