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釣りガールズ  作者: みらいつりびと
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カスミガウラ

「朝イチなのにもう混んでるね」 

 自転車を漕ぎながら、美沙希は言った。

 午前5時にカズミの家に迎えに行き、今はふたりで自転車を走らせている。

 GW初日の水郷には朝早くからたくさんのバサー(バス釣り人)が詰めかけていた。

「人がいっぱいだね。みんなバス狙いなのかな」

「うん。ほとんどがバサーだね」

「バスの数より人の数の方が多いかも」

「あはは。そうかも」


 美沙希はキタトネ川の混雑ぶりを確認して、ここで釣るのをあきらめ、北へ向かった。

「どこへ行くの?」

「本湖で釣ろう!」

「ホンコ?」

「カスミガウラ! 大きな湖だから、どこか混んでない場所があるよ。でも、狙いの場所があるんだよね。空いてたらいいんだけど」

 美沙希はぐんぐんとスピードを上げて走る。

 カズミもそのあとをついていく。

 晴天。

 風薫る5月。

 美沙希もカズミも我知らず笑顔になっていた。

 やがて、目の前に広々とした水面が見えてきた。

 カスミガウラだ。


 知らない人は、海だと言われたら信じてしまうかもしれない。

 それぐらい大きな湖だ。

 カスミガウラ沿いの道を美沙希とカズミは北上していった。

 湖岸には小さな港が点在している。砂浜があり、草叢があり、水門があり、突堤がある。水面を跳ねる魚がいる。

「きれいだねー。サイクリングしているだけでも楽しいや」

 カズミの声は弾んでいた。

「釣りも楽しんでもらうよ。今日はでかいのを狙うから!」

「ゴールデンウイークに釣るのはむずかしいんでしょ。あたし、別に釣れなくてもいいよ。カスミガウラを見ているだけでも楽しい」

「釣れればもっと楽しいよ」

「うん。じゃあがんばるよ」

「ふふっ。大物が釣れるといいね」


 やがて、また港が見えて、美沙希は自転車を止めた。

 キキーっと音を立てて、カズミもブレーキをかける。

「ここで釣るの?」

「うん。やりたいところが空いてる。朝イチだし、期待大だよ!」

 美沙希はロッドとランディングネットを持って港へ歩いていった。カズミも竿を持ってそのあとを追う。

「その網はなんなの?」

「これはランディングネット。これを使わないと取り込めないほどの大物が釣れるかもしれないから」

「ええーっ、そんなのあたしには無理だよ」

「ふふっ。釣りはやってみないとわからないよ」

「この場所はなんていうところなの?」

「秘密の港、という名前で覚えておいて。釣り人には秘密にしておきたいポイントがいくつかあるものなの」

「あたしには教えていいの?」

「カズミは特別だよ!」

 美沙希はにっこりと笑い、カズミもつられて笑顔になった。


 美沙希は港の突端まで歩いていった。

 テトラポッドがゴロゴロと沈められている。

「このテトラの上で釣るんだけど、怖くない?」

「この上で? ちょっと怖いかも」

 カズミは運動神経は悪くはないが、釣りの初心者だ。もちろんテトラポッドの上に乗ったことなんてない。

「だったらやめようか。確かに、絶対の安全は保証できないんだよね。釣りって、危険な遊びだから」

「うーん。やるだけやってみるよ」

「ロッドは私が運んであげる。カズミはなるべく足場のよいテトラに体ひとつで行けばいいよ」


 ふたりは釣り具を防波堤に置き、まずは体だけでテトラポッドの上に立った。

「うん。ここなら大丈夫かも」

 カズミは足場を確認して言った。

「ここで待っててね。仕掛けをつくって、持ってくるから」

 美沙希はカズミのためにダウンショットリグをつくり、自分はランディングネットを持った。

「あれ? 美沙希の竿は?」

「まずはカズミに釣ってもらうよ。私はそのあとでいい」

「なんか悪いよ」

「いいからいいから。ここ、釣れるときはすぐに結果が出るんだよね」

「そうなの?」


 釣り針にソフトルアーではなく、ミミズが刺してあるのにカズミは気づいた。

「今日は餌釣りなの?」

「そうなの。狙う魚はブラックバスじゃない。キャットフィッシュだよ!」

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