スーパームーン
美沙希はスマホを見つめていた。
またカズミを釣りに誘ってしまった。
たったひとりの友だち。
行く行く、と答えてくれた。
それだけのことが、天にも昇るほどうれしい。
夕食はコンビニで買ったたらこパスタをレンジでチンして食べた。お父さんはいつも夜遅くに帰ってくる。先に食べて、先に寝ていろと言われている。
カズミの存在で、私がどれだけ救われているか、あの子は知らないだろう。
カズミの存在が、私にとってどれだけかけがえのないものか、あの子には想像もできないだろう。
緊張しないで話せる。
一緒に笑える。
温もりを感じる。
お母さんが死んでから、そんな相手はずっといなかった。
私は闇の中にいた。カズミは私にとって夜の月のようなものだ。見上げることができるあかり。照らしてくれるあかり。最初は三日月みたいだったけど、今ではスーパームーンだよ、と美沙希は思う。
釣りの支度をする。
ゴールデンウイークの釣りをカズミが楽しんでくれたらいいな、と思う。
どこへ行けば釣れるかな。
きっとGWの水郷は激混みで、どこへ行っても魚へのプレッシャーは高いだろう。
キタトネ川?
ヨコトネ川?
マエ川?
ヤスジ川?
ヨタウラ?
どこへ行っても釣るのはむずかしい気がする。
車があれば、ボートがあれば、と思うが、ないものは仕方がない。
釣れなければ、初心者は釣りが嫌いになってしまう。
カズミがそうなってしまうのは嫌だ。
彼女に釣ってほしい。
そして笑顔になってほしい。
カズミと友だちになれたのは奇跡だ。
初めて話したとき、まったく怖さを感じなかった。
やさしそうな垂れ目で、ふわっとした雰囲気で、かわいらしくて、こんな子と友だちになれたらいいだろうな、と思った。
釣り場で会えたのがよかったのかもしれない。
自然に話せた。
あれはたぶん、奇跡的な瞬間だった。
世界が色づく。そんなことが私に起こるなんて。
一度満ちた月が欠けるのは怖い。
永遠に輝いていてほしい。
カズミとのチャットが残るスマートフォンを胸に抱いて、美沙希はベッドの上で目をつむった。