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釣りガールズ  作者: みらいつりびと
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闖入者

 お腹がいっぱいになったふたりは、自転車でキタトネ川とマエ川の合流点に行き、のんびりと座って釣りを再開した。

「朝まずめと夕まずめって言って、魚の活性は朝と夕方に上がるの。お昼のこの時間帯はあんまり釣れないから、ゆっくりしよ」

「うん。あたしは美沙希とおしゃべりしているだけで楽しいよ」

 カズミの言葉を聞いて、美沙希の頬が紅潮した。

「友だちってすごいね。私もそう思っていたとこ。いつもひとりぼっちだったから、カズミと話しているだけでなんか気持ちが楽になるの」

「いっぱいお話しよ」

「うん!」


 キタトネ川の岸には遊覧船が数隻停泊している。ここは十二橋めぐりの出発点だ。1組の親子連れが乗船しようとしていた。

「釣りってお金がかかるのよ。釣り具を買うだけじゃなくて、よく釣れる場所へ行くための旅費もかかる。大人になったら車もほしいし、ボートもほしい。でもさ、きっと私、ちゃんとした大人になれないと思うんだ」

「どうして? 美沙希は大丈夫だよ」

「大丈夫じゃない! 私はコミュ障で対人恐怖症の社会不適合者だよ!」

「ちゃんと話せているじゃない。美沙希はコミュ障なんかじゃないよ」

「それは相手がカズミだからだよ。私はだめな人間なの……」

 美沙希が沈黙してしまう。

 カズミも軽々しく慰められなくて、どう言えばいいんだろうと悩んだ。


 ふたりの隣に男の子の釣り人がやってきて、ルアーを投げ始めた。

「あれ? おまえら、琵琶と川村じゃん!」

 男の子が言った。

 1年1組の男子だ、と気づいて美沙希は緊張した。名前は覚えていない。

「佐藤くん」とカズミが言った。彼女は男子の名前を覚えていた。

「へえ、ふたりは釣りするんだ。バスだよな。釣れた?」

 佐藤は気軽に話しかけてきた。美男子というわけではないが、笑顔に愛嬌がある。小柄で痩せているが、話をしながらもルアーをスパスパと投げ続けていて、体力がありそうだ。

「釣れたよ。美沙希がハードルアーで45センチのを!」

「すごいじゃん。写真撮った?」

「撮ったよ」

「見せてくれよ!」


 カズミと佐藤が話していると、美沙希の表情がどんどん強張っていった。

「カズミ、行こう!」

 美沙希が突然立ち上がり、スタスタと歩いて、自転車に乗った。カズミが慌てて追いかける。

 美沙希は自転車を漕ぎ始めた。

「おーい、急にどうしたんだよぉ。写真見せてくれよー」

 佐藤の声が後ろから響いてくる。

 美沙希はぐんぐんと自転車を走らせ、カズミが懸命に追った。

 1キロほど走って、唐突に止まった。


「わかったでしょう。私、人間が怖いの。特に男子が」

 美沙希の顔は蒼ざめ、冷や汗をかいていた。

「学校ではなんとか我慢しているの。でも私的なときになれなれしく話しかけられたりするのは、絶対にだめ……」


 俯いている美沙希の両手を、カズミは握った。

「あたしがいるよ!」

「カズミ……」

「つらくても、あたしがそばにいるから!」

「うん、ありがとう……」

 涙ぐむ美沙希。この子はあたしが守らなきゃ、とカズミは思った。

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