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私からわたしへ  作者: toki
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「私」の始まり

 最後のその瞬間が好きだった。それまでの空気を()へと一変させる明かり、はっきりと見えるお客さんの顔、“自分”として照らされながら「終わったんだ」という寂しさにも少し似た達成感を感じるその瞬間が好きだった。あの感覚に代わる感情は未だに見つかっていないし、見つかる気もしていない。


 初めて“舞台”というものを見たのは小学生の時だった。大好きなアニメが声優陣そのまま自分の役を演じて舞台化するという話を聞いて、ただ単純なミーハー心で友人達と見に行ったのが最初だった。そして私は、そのまま“舞台”というものにすっかり魅了されてしまったのだ。一歩ずつ、少しずつ現実からその世界に足を踏み入れていくような、覗き見をしているような、空間まるごとを包み込んでいってしまう熱量に私は激しい衝撃を受けた。大好きなアニメが題材だからというだけではないという確信があったし、こんな世界が世の中にあったなんてという感動で涙が止まらなかった。帰り道では、頭が働かず付き添いで来てくれていた母とうまく話せなかったことを覚えている。


 それからは舞台の世界について考え、思いを馳せる毎日だった。小学生ということもあって携帯電話やインターネットを自由にできる環境ではなかったがせめて今の自分にできることはないかと思い、見に行った舞台のDVDを買ってもらうと毎日繰り返し見た。DVDについていた台本のレプリカを広げてテレビに映る役者と一緒にセリフを言い、まだアドリブというものすら知らなかった私はその一言一句まで台本に書き込んで覚えた。セリフが頭に入ると今度は一人で舞台ごっこをする日々で、毎日「今日はこの役」と決めて役者の動きに合わせてリビングを動き回った。私だけの舞台を家のリビングに作り出すのが楽しくて仕方がなかった。

 そんな毎日を過ごしていたせいか、中学に入った頃、両親に役者になりたいという話をした時はすんなりと受け入れてくれ、結婚するまでは映像関係の仕事をしていた母と映画好きの父は全面的に私に協力してくれた。実際に役者として勉強するのは中学を卒業してからという約束をして、それまでは父が勧めてくれた映画のDVDを一緒に見て感想をわいわいと話合ったり、母が見つけてくれた面白そうな舞台を見に行ったりした。父からワードくらいしか使えないようなおさがりのパソコンをもらうと、気に入った映画のセリフを自分で台本におこして映画ごっこをして楽しんだりもした。


 楽しみにしていた中学の卒業と同時に、私は母に連れられて某事務所のオーディションに行くことになった。オーディションをパスしてレッスンというものに通うようになると、私は違和感を覚え始める。講師の先生から出てくる言葉は「カメラ」「カット」「撮影」などといった映像関連の事ばかりで、舞台という言葉がほとんど全く出てこないのだ。今となっては芝居をするという根本的なところは一緒なのだからと思えるが、当時の私は楽しみにしていた分だけ落胆し、両親に何も言わずに事務所を辞めてしまった。後から聞いた話では、母としてはまずは自分の知る映像の世界にで学んでもらった方が親としては安心だったかららしいが、私は映画すら見ないくらいに落ち込んでしまった。


 そしてこの後、そんな姿を見た母が私に持ってきた一枚の紙が私の人生を大きく動かした。

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