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第一話 出会い

沖縄県


人口146万人の小さな県。

南西諸島にある沖縄本島を中心にその県域を置いている。

青い海に青い空、暖かい気候に、温かい人がいるすばらしい県だ。


時に観光で沖縄を訪れた人は、この地を「楽園」とも呼ぶ。

小さな島々にその県域を置きながらも繁栄を遂げた、日本でも有数の人口増加県である。


しかし今から75年前、この「楽園」とも呼ばれる沖縄を舞台に「ありったけの地獄をひとつにまとめた」とも形容される凄惨な地上戦「沖縄戦」が行われたのをご存じだろうか。





2020年1月 沖縄県某所の中学校  

放課後の時間だった。


「おい!トオル!肝試し行くぞ!」


いま、友人を肝試しに誘った少年は兼城(かねしろ)アラタという。中学三年生で15歳。やんちゃな割には成績がとてもよく、すでに県内屈指の進学校に推薦入試での合格を決めていた。


「え!いいよ僕はぁ…ひとりでいきなよー」


この臆病な方の少年は松田(まつだ)トオルという。眼鏡をかけていておとなしそうな顔をしている。その外見通り成績がよく、アラタと同じ高校に推薦ですでに合格を決めていた。


「まぁまぁ!ついてくるだけでいいから!な!」


「わ、わかったよぅ…」




深夜になり二人は親の目を盗みこっそりと肝試しに向かった。


二人が肝試し場所に選んだのは戦時中に防空壕として利用されていた洞窟だ。


戦時中に亡くなった人々が霊となって出てくるという噂のある洞窟だった。



深夜の辺りはとても静かで、草木の揺れる音でさえも鮮明に聞こえる。



まずはアラタから洞窟の入り口に入った。


「なぁ…アラタくんやめようよ~」


洞窟を前にし、恐ろしくなったトオルがアラタを制止する。

しかし、アラタは聞かなかった。


「なんでよ!お前、ビビリだな!」


アラタに馬鹿にされ悔しくなったトオルは洞窟に入ろうと試みる…

しかし、トオルにはどうしても無理だった。


「やっぱ僕には無理だよぉ…アラタ君一人でいってこいよー…」


「もうわかったよ。じゃあ、トオルは入り口でまっとけなー」


そう言ってアラタは一人で洞窟の中に入っていく。





「暗いなぁ…」


自然洞窟でとても足元が悪い。おまけに懐中電灯以外の光源もないため見通しも悪く、油断したらすぐにでもなにかに躓いて、転んでしまいそうだった。


コツ…コツ…

アラタしかいないその洞窟では、その足音以外の物音はなかった。

恐怖と緊張による激しい心臓の鼓動も、アラタの耳にはしっかりと伝わってきた。


「本当に何もないんだな…昔の人はこんなとこに避難してたのか…」


しばらく単独で奥に進むと、アラタは何か硬いものを踏んでしまった。


「うげっ…なんか踏んじまった…」


その瞬間、洞窟の様子が一変する。


アラタ一人しかいないはずの洞窟で、だれかがすすり泣くような声が聞こえてきた。


「な、なんだ…?」


アラタはだんだんと怖くなってきた。


(助けて…)


今度はかすかながら、きちんとした声が聞こえた


「や、やばい。そろそろ帰ろう」


アラタがそう言った瞬間だった。


ゴーッと洞窟が鳴り響き、地面揺れはじめたのだ。

これまでかすかにしか聞こえなかった声がはっきりと聞こえる。


(お母さん!お母さん!)


(痛いよぉ…)


(もう…おうちに帰りたいよぅ…)



「な…なんなんだよぉ…俺が悪かったよ…」


アラタは腰が抜けてその場に尻をついた。

震えが、動悸が止まらない。


「や…やばい…肝試しなんか来るんじゃなかった…」


アラタは後悔した。しかし、時すでに遅し、という状態だった。


ゴーッという響音がだんだんと大きくなっていく。


そして大地震が起きたように洞窟が揺れ始めた。

それと同時に洞窟が大きな音を出して崩れだした。



「う…うわぁああ!」


アラタは死を覚悟し、目を瞑った。













「痛たたたた…」






「…あれ、俺、生きてる…?」



不思議なことに、アラタは多少の傷を負っているものの、洞窟の崩落に巻き込まれた割には比較的無事だった。


ただ、周りの様子がおかしかった。


洞窟にいたはずのアラタだったが、起き上がったアラタの目の前に広がったのはサトウキビ畑と青い海と青い空だった。


「なんだ…?ここ…」


突然のことに混乱するアラタ。


それもそのはずだ。さっきまで肝試しで深夜の洞窟の中にいたのに、気づいたら白昼下のサトウキビ畑の中にいるのだ。

状況を理解できるほうがおかしいだろう。


すると、怒鳴り声にも似た声が聞こえてきた。


「おい!そこのお前!なにをしているか!」


初老の男性がアラタのほうに向かって走ってくる。


「お前か!いつもうちのサトウキビを盗んでる畑泥棒は!」


「ち、違います!誤解です!」


驚いて逃げようとするアラタだったが、足に怪我をしていて動けない。

「う…痛い…」


「お前、ケガしとんのか!」


初老の男性がアラタのほうに駆け寄る。


「俺、泥棒なんかじゃないですよ…」


「もういいよ。そんな傷だらけの人間が泥棒なんかするわけがねぇよな…」



初老の男性…金城(きんじょう) (たつ)はアラタを支えながら立ち上がらせた。


「歩けるか?俺の家にいって傷の手当てをしよう」


「あ、ありがとうございます」


龍の持ってきていたリヤカーに乗りアラタは龍の家に向かった。


「そういえばさっき、俺のこと泥棒と間違えましたけど…泥棒多いんですか?」


「そうだなぁ。このご時世、国からの配給も減ったしなぁ」


「は、ハイキュウ?」


聞きなれない言葉が龍の口から出てきた。


(ハイキュウってあの配給?そんなの、歴史の授業でしか聞いたことがないぞ…

まさか!?)



アラタはある嫌な予感がした。


「あの…このご時世って…」


「あ?何言ってんだ、お前。今は国あげて米英と戦っとるじゃないか。お前、まさか知らんのか?」


「え…?す、すみません、今何年ですか?」


アラタは恐る恐る聞いてみた。自分の予想が当たらないことを祈りながら…


「今は皇紀2604年、昭和19年の9月だ」


アラタの嫌な予感が的中した。


どうやらアラタは戦時下の沖縄にタイムスリップしてしまったらしい。


昭和19年といえば西暦に直すと1944年


戦中末期の日本だ。


アラタの顔色が悪くなっていった。

それに気づいた龍は心配になり、アラタに話しかける。


「どうしたんだ?急に顔色が悪くなって。嫌な事でも思い出したか?」


アラタは龍に自分が未来から来たことを話すことにした。

そのほうがいろいろと都合がいいと思ったからだ。

「あの…龍さん…信じられないと思うんですけど、俺未来から来た…らしいです…」


「は?何言ってんだ、お前!ケガしたときに頭でも打ったのか?」

本当に信じてもらえない。

「ほんとなんです!俺、2020年…皇紀2680年の世界からやってきたんです!」


嘘つけ(ゆくさーや)!お前、面白いこと言うな!」


龍は笑いながらそう言った。それはそうだろう。いきなり自分の畑にいた傷だらけの少年が未来から来たと言っても信じるわけがない。


(でもまてよ…昭和19年の9月って言ったら…)


「来年米軍が沖縄に上陸する…!?」


「だからさっきから何言ってんだお前!冗談もほどほどにしろよ!こんな前線からかけ離れた沖縄に敵が上陸するわけがないだろう!」


アラタの度重なる奇言に龍が口調を荒げた。


「いや、本当なんです!」

なかなか信じてもらえない。


龍さんは大きくため息をつき、一息置いてこう続けた。

「まぁ、冗談はそれまでにして…お前、未来…ップ…から来たんなら身寄りはあるのか?」


(あれ?今この人笑った?)

「いえ…ここがどこすらもわからなくて…」


「そうか、だったら軽く説明してやった方が、お前の…設定に…ップ…沿って…ククク…やれるな…」

(笑ってるよな…この人…)


龍さんがいまアラタのいるこの時代と場所について説明してくれた。


龍さんは現在で言う那覇市にあたるところに暮らしており、那覇市から歩いて1時間くらいするこの場所に畑をもっているらしい。(その畑にアラタがいた)


そして現在、帝国は中国、アメリカ、イギリスをはじめとする連合国と戦争をしている。


一応龍さんが言うには、戦局は悪くない…らしい。


ただ…ここ最近になって県と軍が県民の疎開を推し進めているという。

しかし、先ほどの龍さんの言葉からもわかるように、県民の多くが沖縄は前線から離れているという意識がある(事実、沖縄を標的とした直接的な攻撃も少なかった)うえに、県内疎開だと当時のマラリア蔓延地である本島北部に疎開することになる。もう一方の県外疎開となると、船に乗って九州をはじめとする地域への疎開となるのだが…先月の1944年8月、沖縄からの疎開児童たちを乗せた船が米軍に撃沈され、千人を超す人が亡くなった大事件が発生したのだ。


これらの理由から、県民のほとんどはリスクの高い疎開を拒んでいるという。


…………


……



「とりあえず、身寄りがないならうちのもんになれ!狭いけどあったかい布団に

少ないけどおいしいごはんもある!」


「い、いいんですか!でも悪いんじゃ…」


アラタは遠慮しようとしたが、龍さんが「大丈夫!ゆいまーるぬ心(助け合いの心)さ!遠慮するな!」と言ってくれたのでお言葉に甘えて、金城家のお世話になることになった。



こうした話をしているうちに、龍さんの家に着いた。


「おーい!今帰ったぞー!」


「父ちゃん!おかえりー!」


小学校中学年くらいの女の子がこちらに向かって走ってくる。

そして思い切り龍さんに抱きついた。


「おぉー!那奈(なな)!いい子にしてたか~?」


龍さんが女の子…那奈の頭をなでながら柔らかい声を出した。


「うん!那奈、いい子にしてたよ!ところで父ちゃん、このお兄ちゃん、誰?」


那奈がそう言ってアラタのほうを見る。


「あぁ~こいつはアラタっていうんだ!」


一旦間をおいて龍さんは身を震わせながら続けた。


「どうやら…ププッ…こいつ…ククク…未来から…来たらしい…ブッ!!」


我慢できずに吹き出す龍さん。


「何笑ってんですか!龍さん!」


「いや!悪い悪い。というわけで身寄りがないらしいから、こいつ今日からうちの家族になるぞ!」


「そーなの!那奈のお兄ちゃん二人になるの!!!」


「そうだぞー!那奈!」


龍さんが笑顔で答える。


「二人?」


「あぁ、俺には二人子供がいて、那奈とあと一人、お前より少し上くらいの息子がいるぞ。今は出かけてるみてぇだな」


「そうなんですね!早く会ってみたいなぁ」


「おう!弟を欲しがってたから、きっと気に入るはずだ!…よし、ツネ子!こいつケガしとるから手当てしてやってくれ!」

「はーい!」

ツネ子さんが玄関のほうに医療箱を持ってきた。

「んじゃぁ、消毒するわね…」

「はい…痛ってぇ!」

「男なんだから消毒くらいでそこまで騒ぐんじゃねぇよ!」

龍さんがガハハハハと笑いながらアラタの頭をガシガシと撫でた。




そうして、アラタは金城家の一員となった。



その夜…金城家はみんなで食卓を囲んでいた。

金城家は四人家族で、今日の夕食から(アラタを含め)五人で円卓を囲んでた。


龍さんが十二時の方角にいるとすると、時計回りに龍さんの隣が奥さんのツネ子さん。40歳らしいがそう見えないほど若く、とてもおしとやかで美人だ。


次に長男の勝男(かつお)。16歳とアラタより1つ上だ。志願兵を目指しているらしく、日ごろから鍛えておりガタイがとてもいい。龍さんの言っていた通り弟が欲しかったらしく、アラタのことを弟としてすぐに気に入り、仲良くしてくれている。とても面倒見がいい正義感の強い少年だ。


勝男の次が那奈ちゃん。10歳で、もうすぐ11歳らしい。国民学校の(現在の小学校)5年生らしい。5年生にしては少し小柄で幼く見える。ただ、幼いながらもツネ子さんに似て将来がとても期待できる美形の顔をしている。


そして最後がアラタだ。


「皆!一人増えたから少し飯が少なくなるが、苦しいのはこのご時世、みんな一緒だ!ここを乗り越えればおなか一杯にご飯が食べれるから、兵隊さんが鬼畜米英を倒すまで頑張ろうな!よし!いただきます!」


龍さんがそういうとみんな「いただきます!」と大きな声で言い、量が少し心許ないごはんを食べ始めた。


「アラタ兄ちゃんは未来から来たのー?」


那奈がアラタに尋ねる。


「あ、あぁ。信じてくれるかな?」


「うん!那奈、アラタ兄ちゃん信じる!」


那奈が無邪気で元気いっぱいの笑顔をみせる。


続けて龍さんが冗談交じりでアラタに聞いた。


「ところで、本当に未来から来たんなら、将来日本はどうなるんだ?戦争は?」


「いやぁ…その…」


アラタは心の中で葛藤していた。


本当は戦局が既に絶望的であること。前線はもうすぐそこまで来ていること。沖縄で大きな戦いが起きて大勢の人が亡くなったこと。


そして…帝国は…日本はこの戦争に敗戦してしまうこと。

それを打ち明けてもよいのだろうか…と。


そうして少し間を開けてアラタはこう言った。


「繁栄してますよ!未来の那覇もたくさんの建物がありますし、帝都の東京なんて、もう摩天楼だらけですよ!それこそアメリカの都市なんかよりとても!一時期は東京の土地を全部買うお金があればあの広大なアメリカ全土の土地を買い占めれるって言われるくらいに!そこまで日本は発展しましたよ!」


「おー!そうかそうか!帝国の未来は明るいな!ガハハハハハ!」


龍さんは大きな声で笑った。


(ひとまずはこれでいいかな…)


少し切ない顔をしたアラタを勝男はじっと見つめていた。






「ごちそうさまー!」


「アラタ君!勝男と一緒にお風呂入っちゃいなさい!」


ツネ子さんがそう言ったので、アラタと勝男は二人でお風呂に入った。


「あぁ~、いい湯だなぁ」


二人は気持ちよさそうに風呂に浸かった。


「なあ、アラタ。お前、さっきなんか隠してなかったか?」


「え?」


「いや…未来の話。なんか、明るい話題の割にお前の顔が曇ってたから…」


勝男が心配そうに尋ねた。



(勝男には本当のことを言うか…)


アラタは決心して口を開いた。


「実はさ…日本…負けるんだ…この戦争…」


「は!?日本が負ける!?」

勝男は驚き、思わず大声をあげる。


「あぁ…しかも、沖縄に敵が上陸してきて大きな戦いになって…住民が巻き込まれて…大勢の人が…」

アラタがこう続けると耐えられなくなった勝男が浴槽から立ち上がり、アラタの話を途中で遮った。

「お前!冗談でも言っていいことと悪いことがあるぞ!帝国が!世界最精鋭の軍が負けるわけないだろ!実際沖縄だってまだ攻撃を受けていないじゃないか…!」


勝男はそういってアラタを睨みつけた。


しかしそんな中でもアラタは下を向いて表情を変えなかった。


「そうか…」


自分が睨みつけても表情一つ変えないアラタを見て、悟った勝男はまた浴槽に浸かった。


「どおりでな…勝っているはずなのに、疎開を始めるなんておかしいよな…」


しかし、勝男はそうつぶやいた後、フゥーっと息をはいてこう言った。


「でも、俺は絶対に兵隊になる。負けるかもしらんが、俺はこの手で父ちゃんを、母ちゃんを、那奈を…そしてお前を。家族を守りたいんだ。絶対アメリカには指一本触れさせん!」


グッと左こぶしを握り締めた勝男は元気を取り戻したように意気揚々と話した。

その前向きな勝男にアラタも思わず笑顔を取り戻す。


「ハハッ、俺までも守ってくれるのか。ありがとよ、兄貴!」


「兄貴って…よせやい!照れるだろ!ばか!」

照れ隠しに勝男はアラタの頭をはたいた。


二人はこの後も楽しげに風呂に浸かって、語り合った。




そんな束の間の平和も1944年10月のあの日、沖縄戦が始まる少し前に、早くも壊されることになるのだった。





初投稿です。

国語力があまりなく、今後どのような展開になっていくのか自分でもよくわかっていませんが、頑張って最後まで書きたいと思います。週一程での投稿にはなると思いますが、よろしくお願いいたします。


重ねて、この作品は史実を基にしたフィクションであり、いかなる政治的意図も、特定の民族・人物を中傷する意思もございません。

また、沖縄県内では18歳未満のみの夜10時以降の外出は原則禁止されていますし、悲劇があった戦跡には決して安易な気持ちで立ち入らないでください。

危険ですし、不謹慎なのでアラタたちのマネは絶対にしないでください!


では、今後ともよろしくお願いいたします!

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