少女の憂鬱
とある豪邸にて
穏やかな風が流れ込む一室に作業を行う少女が居た
少女は1つ1つ手に持ちそれを眺める、その一連の動作を繰り返し鞄に詰めて行く
鞄の中には服の他に使い古した魔導書や小物などが丁寧に納められている
どこか浮かない顔をしている少女は荷造りを終えると鞄を机から下ろし、辺りを見回す
ベッドの横の小さな鳥籠が目に入り、そちらへと近づいて行く
鳥籠の中には鮮やかな緑色の小鳥が嬉しそうに主人へと駆け寄って行く
その様子を少女は愛おしげに眺めると小さく笑みを浮かべる
するとそこに扉をノックする音が響く
少女は驚きから肩を震わせる、緊張した表情を浮かべた後短く応じる
扉を開けた召使いから用件を聞き、少女は書斎へと向かう
扉をノックし、部屋の主からの返答を受け、少女は書斎へと入って行く
「失礼します」
少女は習った通りに淑女の礼をし、部屋の主へと用件を尋ねた
部屋の主はアーネの方に顔を上げると口を開く
「来たか。まずは祝いの言葉からだな、魔導学園に入学おめでとう。アーネ。そして、これからはこの家を離れ寮生活が始まる。問題は無いとは思うが念の為だ。我が家名を背負う者として恥ずかしく無いように振る舞いなさい。学園生活を楽しむのも良いが、魔導の研鑽は必ず積む事を忘れるな」
「はい」
「それと同時に婚約者を見つけなさい。魔導学園には身分問わず受け入れられる。そこでより優秀な人物を見つけ出すのだ」
「はい」
「そして、他にもーーー」
「もうその辺にしてはいかがです?」
部屋の主の言葉を遮るように女性の言葉が部屋に響いた
書斎机の前に応接用のソファーとテーブルが置かれており、そこに座っていた女性が和やかに微笑む
「今日はアーネの入学祝いを伝えに来たのに、貴方は心配ばかりして祝うどころかお小言ばかり。それではアーネも心が休まらないではありませんか」
女性の言葉に部屋の主は押し黙ってしまう
女性は少女の方へと視線を移し、側に近寄ると優しく抱きしめた
「私の愛しい娘、アーネ。入学おめでとう。家を離れてしまうのは寂しいですが、お休みになったら帰って来なさいね。あの人はあんな事言っていますが貴女を心配してのことだから、貴女は貴女の好きな事をしなさい。婚約者なんて早いわ。でも、好きな人が出来たら母には教えてくださいね?」
そう言って少女の頭を優しく撫でる
突然ノックも無しに扉が開き、女性が2人慌ただしく入って来た
「アーネ!!!大丈夫!?頑固オヤジに泣かされてない!?」
「ちょっと!ミーリャ!無礼にも程があるんじゃない!?」
2人の女性達は騒ぎ立てながら少女に近寄り、あれやこれやと質問してくる
部屋の主は頭痛を堪えるように手を頭に当て、立ち上がると騒ぐ女性達に小言を言う
それに対し、女性達は更に騒ぎ立てて反抗しその場は喧々轟々の大騒ぎとなった
少女を抱きしめていた女性は少女の耳元で囁く
「アーネ。もう大丈夫よ。ここは貴女の家なのだからいつでも帰って来なさい」
その言葉に少女は笑顔をみせたのだ