少年は旅に出る
地図に名前も載らないような小さな村にて
「さっちゃん、本当に行くんかい?」
1人の男が少年に話かける
それに対して少年は満足そうに笑って答えた
「ああ!俺はあの物語の英雄になる為に冒険者になるんだ!」
「そりゃあ、いいがよぉ……。さっちゃんの所の婆さんには話したんか?学園都市はここからじゃ、かなり遠いし帰って来たくても簡単には帰って来れんぞ」
「ちゃんと婆ちゃんには話はついてる。それに約束したんだ。俺も五聖賢みたいな勇者になって帰ってくるって!」
その言葉に男はため息を吐きそうになる
少年を幼少から見てきた男にとってこの言葉が嘘偽りが無いのは知っているが、それでも現実を知らない少年の夢がどれだけ無謀であるかは理解出来た
何度周りの人間が諭してもその夢を曲げない少年の意志の強さに次第に周りの人間が諦めてきたことか
それでも少年を思って声をかけ続けてきたが少年の意志は固かった
朝日も登る前なので辺りは薄暗く、少年の旅立ちを見守る人は男以外居なかった
少年は普段着の上に少年のお婆さんから貰った赤色のマントを羽織るだけの余りにもお粗末な格好に男は内心心配でしょうがなかった
背中に村の鍛治師が作った鉄の両手剣を背負い、肩には少年の旅立ち用の荷物が入った袋が担がれていた
「ここら辺は森に入らん限りは魔物も出ないし、近隣の町まで出れれば学園都市に迎える馬車が出てるだろうから、それに乗って行けば迷わずに行ける。お前のことだちょっとやそっとの魔物じゃあ、ドジさえしなきゃ倒せるだろうがまあ用心するこったぁ大事な事だ。気い付けな」
「おう!ありがとな!婆ちゃんからも困った時の為に秘伝の書を貰ってるから大丈夫だと思う!」
それを聞いてもやはり心配が拭える訳では無い
それでも少年が自分の意志で決めた事だ
男に止める術は無い
男は少年の頭を思いっきり撫で回すと満面の笑みを浮かべて別れの挨拶をする
「んじゃあ、行ってきな!男なら夢の1つや2つ叶えてなんぼだ!無理だけはすんじゃねぇぞ!死んじまったらあの世までぶん殴りに行くかんな!」
男の言葉に少年は嬉しそうに笑って頷く
手を振り、少年は村から離れて行く
それが平凡な少年の旅立ちの始まりだった