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魔物園の魔物達は園主と共に今日も自由に生きている  作者: 海夜 淳
第一章 魔物園「プロディジィウム」
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エピローグ

 【園主】ティーリウスは、特殊区にある執務室の中、シンプルな木製テーブルで何やら難しい顔をしていた。少し細めのタレ目は書類に向けられ、金色の美しい長髪は一つに束ねられている。

 ティーリウスは、ふと何かを思いついたかの様に立ち上がり、部屋の中央へ向かった。羽織っている緑のローブが、少し邪魔そうではあるが、繊細な意匠が凝らされたその服装も相まってか、王族の様なオーラを纏っている。さすが、プロディジィウムのオーナーといった雰囲気である。


「どうした、ティー?」


 執務室の中にあるソファに寝転んでいた男が、その太い首だけを持ち上げ尋ねる。


「そろそろ、ミリィが戻ってくる頃だと思ってね。ガリウスは暇そうだね。もう少し仕事振ろうかな」


「勘弁してくれ。体も動かさずに、次から次へ魔法付与していくのは精神的に死ぬ…。そう、まさに刺身の上にタンポポを乗せる工場の仕事の様な…」


「なんで君がそれを知ってるのか置いといて、戻ったみたいだよ」


 執務室にノックの音が響き、タキシード姿の女性が入室した。


「失礼します。無事任務を終了しましたので、ご報告させていただきます」


「あれ?ミコトかな?」


「報告は私の方が正確かと思いまして」


 正直な所、ミコトの硬い雰囲気を苦手としていたティーリウスにとっては、ミリティアの方が有難かったが、ミコトの言うことも一理あったため、続きを促す。


「そうか、じゃ、報告を頼むよ」


「はい。シャルル・ド・サラグリア様は、無事満足してお帰り頂きました。おそらく、当園の真似をして魔物園を作ろうとは、もう思わないかと」


「それは良かった。僕以外には魔物園なんて作れないからね。下手に真似されたら制御できずに大惨事になるところだったよ」


 そう、ティーリウスはシャルル一行が来園することも、ティーリウスのことを下に見ていたことも、プロディジィウムを模倣しようとしていた事も知っていた。更に、シャルルがサラグリア王の命を受けて、プロディジィウムの調査を行おうとしていたことも。

 ティーリウスは、下に見られることも、勝手に調査されることも全く問題視していなかったが、模倣だけはまずかった。その為、シャルル達が目一杯楽しみ、模倣なんてできやしないと思い知れるよう、そのサポートをミリティアに依頼していたのだ。


 ティーリウスは園内でのシャルルの様子を一通り聞くと、満足し


「その様子なら、下に見て模倣するどころか、良いリピーターになってくれそうだね。何にせよお疲れ様。希望通り特別手当に色付けておくよ」


 とミコトを労った。ミコトは一瞬「聞かれていた?」と驚いたが、ティーリウスならありえなくはないか、と思い素直に礼を述べた。

 すると、緊張の糸が切れたかのように、ミコトの雰囲気が一気に柔らかいものに変わっていく。表情にあった硬いものは取れ、親しげな表情を浮かべ始める。


「いやー、緊張したわ。やっぱ、貴族の相手は疲れるわね」


 言葉遣いも先程とは打って変わって、非常にフランクなものになっていた。





「お、ミリィにスイッチしたな。俺もミコトはちょっと苦手だからな。ミリィの方が楽でいいや」


 それまで、ソファに寝転がりながらミコトの報告を聞いていたガリウスは、起き上がりミコトの事をミリィ、即ちミリティアと呼んだ。


「あら?ミコトも私よ?感情は同じなんだから、あまり苦手とか言わないでよね」


 そう、彼女こそが【賢者】ミリティア・コール・トゥルースその人である。そして、ミコトの存在こそが、彼女が【賢者】の二つ名を持っている所以である。


 ミリティアの中には、いくつもの「思考者」が存在している。魔法やスキルに関する知識を持つミリティア、王族・貴族の歴史や扱いに長けるミコト、経営や経理能力に長けるリール等、様々な知識・技術をそれぞれの「思考者」に割り当てることで、全ての分野を極める事を可能としている。

 これは、一般的な多重人格とは異なり、人格そのものが変わるわけではなく、思考する存在が複数いるだけなので、彼女自身の感情や思い出などの記憶は1つだけしかない。性格が変わったように見えるのは、各者の知識に性格が引っ張られているためである。

 その為、彼女を知る者は、「入れ替わり」ではなく「モードの切り替え」としてスイッチしたという表現を使っている。

 王族・貴族の知識が豊富なミコトは、何事も硬く捉え、ティーリウスとの関係も上司と部下と捉え、敬語で話す。それ対し、様々な魔法の知識が豊富なミリティアにスイッチしている時は、大規模魔法の様に自由奔放な性格になる。


「ミリィの方が話しやすい、というのは同意できるね。僕もミリィと接する機会が一番多いから、気が楽だよ。でも、ミコトも苦手ってわけじゃないよ」


「あら、ありがとう。でも、最近は秘書としてのリールの方が、接する機会は多いんじゃない?」


「確かにね。でも、これまではミリィの方が多かったから」


「それはそうね。魔王のところまでは、魔法を使うことが多かったし。あの頃は5人で何も考えずに『魔王を倒す』って息巻いてたっけ…」


 ミリィが遠くを見つめると、同じ様に昔を懐かしんでいるのかガリウスも一点を見つめる。


「そういや、ワンじいは見つかったのか?」


「いや、まだだね。あの人は1箇所には留まらないから、見つけるとなるとね」


「あのジジイ、何してるのかしらね」


 世間一般で言われる、英雄の4人パーティー最後の一人【老師】ワンフェイ。ワンじいと呼ばれた老師は、プロディジィウムには残らず「儂に手伝えることは無かろう。死ぬ前に、もう少し世界を見ておくとする」という書き置きを残して、3人の前から姿を消した。


「殺しても死ぬようなたまじゃねぇのに。何が死ぬ前にだよ」


「もう10年近くなるから、案外本当に死んでんじゃないの?」


「いや、目撃情報はたまに上がってくるから、死んでるってことは無いと思うよ。そのうちひょっこり帰ってくるんじゃないかな。案外、普通に入園章つけて観光してるかもよ」


「ありそうで怖いな。『入り方が分からんかった。チケット高すぎるじゃろ』とか言ってそうだな」


「あのジジイ、基本文無しだものね」


 3人は懐かしそうな目をしながら、思い出話に花を咲かせた。

ガリウスもティーリウスも転生者ではありませんが、転生者はいるため地球の知識が若干あります。

刺し身にタンポポのくだりは、転生者が言っていたのを聞いたってことで。



次章から、魔物を中心とした物語になっていきます。

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