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魔物園の魔物達は園主と共に今日も自由に生きている  作者: 海夜 淳
第一章 魔物園「プロディジィウム」
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ホバーチェアーと退園

「お食事はいかがでしたでしょうか?」


 ランチを終えたシャルルは、いささか不満ゲージが上がっている様子だった。入園からこれまで、驚きの連続だったものの、ランチ自体は極ありふれた一般的な物だったためだ。と言っても、最高級素材を超一流シェフが料理したものなので、味は満足いくものだった。


「てっきり魔物の肉や希少な素材が出てくるかと思ったが…。料理は普通なのだな」


「はい。当園は魔物をご覧頂く場所であり、素材として利用して頂く場所ではございませんので」


「なるほど…。コンセプトを統一することにより、本来の目的を見失わないだけでなく、顧客に楽しんでもらう要素を明確にしている、というわけか。あれもこれも、というわけではない所には好感が持てるのう」


 当初の不満気な態度はどこへ行ったのか、国土娯楽繁栄担当大臣らしい見解をつぶやき始める。どうやら、入園からの衝撃続きで、気持ちはプロディジィウムを認める方へ傾き始めているようだ。


「では、これより草原区へご案内させていただきます。既に表に移動用のホバーチェアーをご用意させていただいております」


 ミコトに促され、一同がレストランから出ると、そこには円形の板の上に椅子が乗った不思議なものが19台並んでいた。先頭の4台の椅子は他のものと比べると豪華な作りになっている。


「ホバーチェアーと言ったか…?これは何じゃ?車輪もついておらんし、壁も何もない。板と椅子ではないか」


「こちらは、プロディジィウムで開発された、風魔法を付与した乗り物でございます。念じるだけで少し浮き上がり、好きに移動することが可能です。指輪を使って行き先を指定することで、同行者の方も含めて自動で移動することもできます。プロディジィウムでは、転移魔法を制限しておりますので、長距離の移動は全てホバーチェアにて移動していただいております」


 このホバーチェアーに風魔法を付与したのも、【盾壁主】ガリウスだ。曰く「風魔法が苦手な俺に、こんな複雑な魔法付与を簡単に依頼するティーリウスはおそらく影の魔王」とのこと。結果、付与魔法のレベルが1上がったので、言わずもがな、といったところであった。

 ちなみに、移動に関する魔法は、あまりにも複雑だったため、【賢者】ミリティアが魔法陣による刻印を施すことで制御している。


「これであれば、単純な移動だけでなく、乗ったまま魔物を観察できる、というわけか。うまく考えられておるな。園内での転移魔法を制限しておると言ったな。それも安全性の為か?」


「いえ、どちらかと言うと防犯上の理由からでございます。園内には希少な魔物の幼体などもおりますので、盗難などの危険性から転移魔法を制限しております」


 プロディジィウムでは、希少な魔物の保護・繁殖も行っている。開園当初、転移魔法が自由に使える状態だったため、何度か幼体が盗まれる事件が起きた。どれも、貴族が珍しいペットが欲しがっている、といった理由からの盗難であったが、ティーリウスが全て取り返しに飛び回る羽目になった。それ以来、園内での転移を制限することになったのだ。


 一通り、ミコトの説明を受けたシャルルは、回答に満足したのか、先頭のホバーチェアに乗り込んだ。それに、フリール、マルコル、リリシアが続き、セドリックを含む従者たちもホバーチェアに腰掛ける。


「草原区までの移動は、私が操作させていただきます」


 ミコトがそう言うと、「インフォ」を使い指輪からマップを表示させる。マップの草原区に指を当てると、ホバーチェアが浮き上がり移動を始めた。




 草原区に着いてからのプロディジィウムは、一行にとって、まさに夢のような世界であった。最初に見た、ブラックドラゴンの剥製よりも、魔物が生きて動いている姿の方が圧倒的に心が動かされるものだった。例えそれが、小さな魔物であっても、一般的には忌諱されるゴブリンの様な魔物であっても、普段冒険者からの情報や、素材となった体の一部しか見たことのなかったシャルル達にとっては、全てが新鮮で、代え難い興奮をもたらしてくれるものだった。


 それからの3日間は、瞬く間に過ぎ去っていった。


 一行は商業区にある、一泊20万シルの貴族専用宿泊施設のロビーで、各々最後の時を過ごしていた。あと1時間もすれば、入園章は期限切れとなり自動的に全員リリースポイントへと飛ばされる。


「ミコトよ、この3日間世話になったな」


「ドラゴン!すごかったな!」


「リリシアの面倒をよく見てくださいましたわ」


「お姉ちゃん…ありがとう」


 サラグリア一家は、ミコトへの礼を述べていた。(1名ドラゴンとしか言っていない気もするが…)来園時は馬鹿にしていたシャルルも、この3日間で、いや初日で既にプロディジィウムの事をすっかり認め、プロディジィウムを目一杯楽しんでいた。


「サラグリア様御一家及び、その従者の方々が、このプロディジィウムを楽しんでいただくための力になれたのであれば幸いでございます」


「初日はすまなかったの…。実のところ、つまらぬものであればサラグリア王国にも似たような施設を作ってやろうか、とも考えておったのじゃ。しかし、実際に目にしてみて思ったわ。こりゃ真似はできん。できても、相当劣化したものになるだろう」


「父上!また来ましょう!今回、廃墟区と海洋区、砂漠区にも行けませんでした!草原区だって全部は見てないです!」


「そうじゃな。入園は半年に1回までという制限がなければ、すぐにでも入園はするんだがな」


「申し訳ありません。プロディジィウムにもキャパシティがございまして、他のお客様が入園できなくなってしまいますので…」


「わかっておる。これだけのクオリティじゃ。制限をかけねばずっと滞在する者で溢れかえってしまうわい。それに、貴族とその従者であれば半年なのだろう?平民は1年に1回だとか。であれば十分じゃ」


「もったいないお言葉、ありがとうございます」


 ミコトがそう言うと、シャルルの入園章がほのかに点滅し始めた。そろそろ退園時間が迫っているようだ。


「ご来園、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 ミコトの言葉を最後に、一行はふっと姿を消した。








「あー、疲れた。絶対ティーに特別手当に色つけてもらわなきゃ。『転移』」


 と呟くと、ミコトは一行と同じ様に姿を消したのだった。

フリールとセドリックは最後まで空気でした…

出番あげられなくてごめん…

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