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魔物園の魔物達は園主と共に今日も自由に生きている  作者: 海夜 淳
第一章 魔物園「プロディジィウム」
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入園門とリリースポイント

 サラグリア一家は、案内人ミコトを先頭に、15人の世話役を引き連れてプロディジィウムの入園門へと向かっていた。その道中、主人であるシャルルは相も変わらず不機嫌である。


「魔物なんぞ平民の冒険者が狩る対象だろうが。そんなもん見て何が楽しいと言うのだ」


「でも父上。学友のセドリックが言うには、あんなに面白い場所は世界中探しても、他にはない、とのことです。しかも、ドラゴンがいるらしいです。ワイバーンやサラマンダーではなく、最強種のブラックドラゴンだそうです!」


 丸々と太ったマルコルは、興奮して鼻息荒く、「ドラゴン!」と叫び続けている。そんな様子を、母であるフリールは微笑ましげに、父であるシャルルは少し呆れ気味に眺めていた。


 そもそも、今回の旅行自体、マルコルが学校でセドリックに自慢され、シャルルに行きたいと言い続けてなんとか実現したものだった。シャルルも貴族仲間から、プロディジィウムの凄さは聞いてはいたものの、所詮魔物というイメージが抜けずに、大したことはないと考えている。

 それ以上に、ティーリウスという平民風情が作った娯楽施設、という事実が彼の視野を狭めていた。それもそのはず、シャルルの公爵としての政務は、観光庁長官に相当する「国土娯楽繁栄担当大臣」という、娯楽施設を通じて国外からの観光客を増やし、外貨獲得を増やす業務。同じ分野で、貴族である自分より平民であるティーリウスが優れているとは考えたくなかったのだ。


「ドラゴンドラゴンと言っておるが、騒いでおったら食われてしまうかもしれんぞ?テイムされているとはいえ、魔王が統べておった魔物の残党じゃ。何が起きるかわかったもんではないわ」


 その言葉に、フリールの後ろに隠れていたリリシアは、涙目になり


「ドラゴン・・・怖い・・・」


とつぶやいた。


 リリシアは、何故か家族の誰にも似ず、10人中12人が美少女と断定する見た目と、小動物のような保護欲を掻き立てられる性格をしていた。周囲は、シャルルの祖母にあたる、聖母と呼ばれた王弟の母親に似たのだ、と言っている。また、「両親に似なくてよかった・・・」と言う者もいるが、サラグリア一家には一切届くことはなかった。届けば不敬罪として処罰されてしまう。


 ミコトはそんなリリシアに目線を合わせながら歩き、リリシアの不安を拭う様に優しく、園が如何に安全かを説明し始めた。


「大丈夫ですよ。この園は魔王を倒した【園主】ティーリウス様が管理されていますし、魔物とゲストの皆様の間には、【盾壁主(じゅんへきしゅ)】ガリウス様の防御魔法が施された結界が設置されております。魔物たちがゲストの皆さまを襲うことは全くありません。園内での事故も、入園章を身に着けていれば大抵の衝撃は跳ね返すことができます。居場所を感知する機能もあるので、誘拐や傷害などあらゆる犯罪は、当園では意味を成しません。開園から10年間、無事故運営を続けているので御安心ください」


 【盾壁主】ガリウスとは、ティーリウスが魔王討伐の際に組んだ4人パーティーの一人で、盾を持った身長2メートル超えの筋肉の塊。にも関わらず、最も得意とするのが、筋肉要素ゼロの結界魔法と魔法を物質に付与する付与魔法、という男だ。


 プロディジィウムの防災システムは全てガリウスによって作られており、入園章の防護障壁も一つ一つガリウスが結界魔法を付与したものだ。

 ちなみに、本人曰く

「200万個の防壁付与を「よろしく」の一言で任せるティーリウスは、魔王以上に悪魔」

とのことで、盾壁主の二つ名持ちでも簡単な作業ではなかった。しかし、単純作業を繰り返した結果、限界だと思っていた結界魔法のレベルが2つも上がったので、最終的な不満はなくなったようだ。


 リリシアは、ミコトの言う【園主】も【盾壁主】も知らず、後半は難しい言葉が多く半分ほどしか理解できなかったものの、園が安全であるということはなんとなくわかった為、目に溜まっていた涙は綺麗さっぱりなくなっていた。

 何より、ミコトがとても優し気に話しかけてくれたことで、「優しい素敵なお姉さん」に憧れていたリリシアは、3日間ミコトと一緒に過ごせる事が楽しみになっていた。


 ミコトが子供であるリリシアに、理解しづらい言い回しをしたのは、それがシャルルに向けられたものであったからだ。もちろん、リリシアを安心させる、という目的もあったが、ミコトの立場でシャルルに直接「当園は安全です」と主張すると、公爵への反抗と取られる可能性がある。そのため、リリシアを安心させるための説明という形で、公爵の発言を否定したのだ。


 公爵もそのことに気づいたのか、内心不機嫌さは増したものの、リリシアの様子を見て、安全性に対する口撃については鞘に収めることにした。



 ドラゴン!と連呼する少年と、ぶつくさ文句をいう男性、ニコニコ笑顔の少女とそれらを笑顔で見つめる女性という貴族様御一行がしばらく歩いていくと、正面に大きな門が見え始めた。


「こちらが、プロディジィウムの入園門でございます。幅500メートル、高さ10メートルあり、かの有名なデザイナー、ノーマン・ヌーヴェル氏がデザインされた門です。入園章を身に着けていない方は、門の障壁に弾かれる仕組みとなっておりますので、皆様お気をつけください」


「フンッ。高々入園に御大層な魔法を施したもんだ。で、あそこに見える魔法陣は何じゃ?」


 シャルルが指差す方向には、直径50メートルほどの巨大な魔法陣が描かれていた。


「あちらは、リリースポイントと呼ばれる場所で、園内の宿泊施設以外で入園章を外された方、入園章の期限が切れた方が自動的にあそこに飛ばされる様になっております。前者については安全性の為、後者については不正に長期滞在される方への対応の為の措置となっております」


 それ以外にも、園内で問題を起こした場合も、任意でリリースポイントに飛ばすこともできるのだが、それについてはあえて説明を省く。「園側が気に入らない客は強制排除するのか」とシャルルが口撃する要素をあえて追加する必要もない。


「万が一、入園章が外れてリリースされた場合については、期限内であれば再入場可能ですので、はぐれた場合の待ち合わせに利用されている方もいらっしゃいます」


 一通り説明を聞いたシャルルは目を丸くし、プロディジィウムに来て初めて、不満以外の感情を見せた。


「確か、この園の大きさは王都の10倍ほどだったはず…。それほどの範囲に入園章の認識と強制転移の魔法を施したというのか…。なんという…」


 これから繰り返されるであろう、驚きの1回目。


「これらの魔法は【賢者】ミリティア・コール・トゥルースの施した魔法です」


「【賢者】の魔法か…。ならば…。いやしかし…」


 説明を受けても納得ができないのか、ぶつくさとつぶやき続けるシャルル。



 そして、2回目の驚きがすぐそばまで来ていた。

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