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魔物園の魔物達は園主と共に今日も自由に生きている  作者: 海夜 淳
第四章 カラードラゴン
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プロローグ

 その日、プロディジィウムはいつも以上の賑わいを見せていた。特に、山岳部に新たに建設された、とある施設の前には、その時を待ちわびるゲストが長蛇の列を作り上げている。

 1ヶ月ほど前、全世界にプロディジィウム10周年記念式典の開催が伝えられた。これまで、1周年、5周年の記念式典が開催されてきた。その度に、新しい乗り物や魔物公開エリアが追加されている。

 1周年では園内を移動するためのホバーチェアーが、5周年では迷宮区が公開された。そして、10周年の今回も、特別なアトラクションが公開される事が通達されている。


 各国の貴族・王族はこの通達に、即座に式典への参加を表明していった。とは言え、全ての王が式典に参加してしまうと、国政が回らなくなってしまうため、実際に参加するのは王の親族である公爵家や、王太子等が参列することになった。


 貴賓席に用意された豪華な席には、それらの王族や公爵家が着席し、司会の女性の言葉に耳を傾けている。


「本日は、開園10周年記念式典及びプロディジィウム新アトラクション『ウォラートゥス』のオープンにお集まり頂き、ありがとうございます。間もなく、園主ティーリウス様によるテープカットを行います。その後、順次お楽しみいただけますので、しばらくお待ち下さい」


 司会の女性の後ろには、列車の様な乗り物が並んでいた。10人が座ることができる車両が5つ。それぞれの車両に、屋根はなく壁も腰ほどの高さまでしかない。木で作られたそれらの車両は、一見すると大きな箱にしか見えないが、プロディジィウムがただの箱を大々的に紹介するはずはなく、何か特殊な仕掛けが施されている事は間違いない。


 今の所、参列者にその乗り物『ウォラートゥス』の詳細は伝えられていない。山岳部をこれまでにない形で観光できる乗り物、とだけ知らされている。もちろん、一般の来園者にもそれだけの情報しか伝えられていないが、乗車待ちの列は既に数百人を超えていた。


「うおー、すげぇ列だな」


「それだけ、僕たちの魔物園が期待されてるってことかな」


 テープカットセレモニーを行う舞台の袖で、ガリウスとティーリウスは若干の驚きを持って列を眺めていた。


「来賓以外が乗れるのって、明日からだよな…?」


「その予定だよ。今日は来賓の王族と公爵家だけ。所謂徹夜組ってやつだね」


「へぇ~…。1年に3日しか入園出来ないうちの1日を並んで潰すのかよ…」


「まぁ、少しでも楽しんでもらえるように、今日はちょっと面白い事を考えてるよ」


「なんだよ。そんな話聞いてねぇぞ」


「そりゃ、僕一人で計画したからね」


「それ、ミリィに怒られねぇか?」


 そのミリティアはと言うと、現在貴賓席でミコトにスイッチして王族の相手をしている。


「ミリィはガリウスと昨日までウォラートゥスの調整があったからね。相談できる状態じゃなかったし」


「まぁな。やっとこさ例のあれがお披露目ってか」


「さて、そろそろセレモニーかな。じゃ行ってくるよ」


 ティーリウスが舞台に上がると割れんばかりの拍手が鳴り響いた。音が鳴り止むとティーリウスは『拡声』を使い、挨拶の声を響かせる。


「本日は様々な場所からお集まり頂きありがとうございます。今年でこの魔物園プロディジィウムも、開園から10年が経ちます。開園当初は魔物の危険性を訴える方も多数いらっしゃいました。しかし、皆様のご協力もあり、今ではそんな声を聞くこともほとんどなくなりました。プロディジィウムはこれまで以上に、皆様に楽しんでいただけるよう、魔物達の事を知っていただけるよう、最大限の努力をしていきます。そして、その一つが今日オープンするアトラクション『ウォラートゥス』です。間もなく皆様にもご利用頂けますが、その前に1人特別なゲストをご紹介したいと思います」


 ティーリウスが手を広げ視線を上空にやると、そこには小さな点が。その点は徐々に大きくなり、太陽の光を隠し始める。


「あ、あれは!」


「でかい!ブラック!?いや!」


 貴賓席はざわざわと騒がしくなる。ミコトはそれをなんとか治める。


「皆様御安心ください。園主様によるセレモニーの一つでございます(ティーリウス様、あとでご覚悟ください…)」


 大きくなった影は、両翼を広げ周囲を旋回し、貴賓席でなくウォラートゥスの乗車を待つ一般列の上も飛び回る。翼をはためかせる度に、金に近い白い鱗に太陽の光が反射し影の下に幻想的な明かりを灯す。


 その大きさは、入園門前にあるブラックドラゴンを遥かに上回り、その美しい色からもブラックドラゴンはもちろん他のレッドドラゴン、ブルードラゴンではないことがはっきりと分かる。


「エンペラードラゴン…」


 誰かがポツリと呟く。その言葉を聞き、周囲の人々は息を飲む。プロディジィウムにて飼育されていることはわかっていたが、普段は全く姿を現さず2~3年に1度しか目にすることが出来ないドラゴン。それが今日、プロディジィウムの10周年を祝うかのように上空を飛び回っていた。


「皆様!驚いて頂けましたでしょうか?本日は特別にエンペラードラゴンに上空を旋回してもらいました。この後、2時間おきに上空に登場しますので、しっかりと目に焼き付けてください。それでは、『ウォラートゥス』のオープンです」


 そう言うと、ティーリウスは目の前にあったテープを手刀でスッパリと切った。ただ、全てのゲストが空を見上げていたため、誰一人としてそれを見てはいなかったが…。

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