表の仕事と裏の仕事
こんにちは。僕、悪いスライムじゃないよ。なんでか知らないけどガリ君が、「スライムならこのセリフは絶対に言えなきゃ駄目だぜ!」って言ってたんだ。なんでも、禁書に載ってたんだって。異世界にもスライムがいるのかな?
実は僕と仲間のスライム達は、プロディジィウムの商業区って所に住んでるんだ。魔物の中で、商業区に住めるのは僕たちだけなんだよ!すごいでしょ。それで、僕はその仲間をまとめてるんだよ。
これは、ティーリウス様しか知らないことなんだけど、僕って元々はスライムの王さまのスライムキングだったんだ~。もう、20年ぐらい前かな?僕がティーリウス様に負けて、ティーリウス様が僕たちの王さまになったんだよ。
え?テイムされてないのかって?テイムって何?
そんなことよりさ、僕たちが商業区で何をしてるのか、知りたくない?大体想像が付く?そんな事言わずに聞いてよ~。僕たち普段人とおしゃべりしちゃ駄目だって、ティーリウス様から言われてて、お話できるの楽しみにしてたんだよ~。
そりゃ、商業区を歩いて来たなら、僕たちが働いてる所も見てきてるだろうけどね。でも、君が知らない所でも働いてるんだよ。例えば、君の足元の更に下。下水道とかね。
少し興味が湧いてきたかな?え~、全然興味ないって?確かに下水道とか汚いもんね…。まぁ、下水道でも道でも、やってることはそんなに変わらないかな。結局の所ゴミ掃除なんだよ。僕たちスライムは、何でも溶かして栄養にしちゃうからね。だから、プロディジィウムで出たゴミは、全部僕たちが処理してるんだ~。すごいでしょ?
え?結局、思ってたとおりだって?君って賢いね。今まで話した人たちは、ゴミ掃除を僕たちがしてるって聞いて、すごく驚いてくれたのに…。うん。そう。ゲストが出したう◯ちだって溶かしてるよ~。下水道だからね。あー。。。うん。汚いよね…。ごめん。
あ!じゃあさ、こんなのはどう?こうやってこうやって…。できた!ほら、地面に水でドラゴンの絵描いてみたんだけど。他にも、ゴブリンとかイエティとかカッパなんてのも描けるんだよ!
え?似てない…?そりゃ、ちょっとデフォルメしてるけど、ドラゴンっぽいでしょ?えー!もっとかっこいいドラゴンが良いって…。水で描くのってすごく大変なんだよ?仕方ないなぁ、じゃあとっておき!
ほら、このお花をどうぞ~。どこから出したかって?そりゃ、僕の中からさ!取り込んだものは溶かすかそのまま持っておくか、自由に決められるんだ。すごいでしょ?こうやって、たまにゲストに花をプレゼントしたりしてるんだよ。
えー!要らない?そりゃ、下水を処理するのと一緒のところから出したけどさ…。中ではちゃんと別れてるよ?それでも要らないの…?あぁ、そう。うん。いや、こちらこそごめん。
なんか、しんみりしちゃったね…。せっかく楽しくお話しようと思ったんだけど…。え?ティーリウス様の話が聞きたい?いいよ!何が聞きたいんだい?
そう!ティーリウス様が魔王様の所に行ったのは、10年くらい前かな?その時僕もいたよ。だって、僕はティーリウス様の魔物の中で、本当に最初の方に仲間になった魔物だからね。特別なんだ!ガリ君より先輩なんだよ!
魔王?強かったって話だけど…。僕は一緒に戦って無いからよくわからないんだよね~。ガリ君たちと一緒に応接室?でお茶してたし。でも、ティーリウス様笑って帰ってきたから、きっと勝ったんだよね!ブラックドラゴンも飲み込んだ事がある僕が負けたんだもん。そりゃ勝つさ!
ありゃ…。眠くなってきちゃった?それじゃ、ちょっとお昼寝しようか!
あ!あと、これだけお話したんだから、僕と君はもう友達だね!ちゃんとお友達にならないと、ティーリウス様から怒られちゃうんだ…。それと、今日の話は秘密の話だからね。絶対に他の人に喋っちゃ駄目だよ。約束ね!じゃ、おやすみ…。
「あの?娘はいい子にしてましたでしょうか?」
「はい。とてもいい子で、今はスライムと一緒にお昼寝してますよ」
「そうですか、良かったです」
ここは、商業区にある託児センター。両親が2人でプロディジィウムを見学したい、子供が小さく魔物を怖がってしまう、等特定の理由がある場合に、子供を預ける事ができる施設だ。預けると言っても、子供が喜ぶ遊び場がたくさん用意されており、子供は子供で楽しめる施設になっている。その為、5歳ぐらいまでの子供はセンターに行きたいとせがむこともあるぐらいだ。
そして、その中でも特に魔物を怖がらず、年齢も低い一部の子供達は、スライムと秘密のおしゃべりを楽しむ事ができる。
「あのね~。ミーちゃんとお話してたすらいむさんね~。王さまだったんだって!」
「あらあら、それはすごいわね」
「でもね、てぃーりうすさまが、今の王さまなんだよ」
「【園主】様はすごいのね」
「うん!まおうさまに勝っちゃうぐらいだからね!」
「魔王…さま?」
「すらいむさんがそう言ってた!でも、これはミーちゃんとすらいむさんのひみつのお話だから、言っちゃいけなんだって」
「あら、ママに話しても良かったの?」
「ままだからだいじょうぶだよ!」
まさか、スライムが会話できるとは思っていない親達は、子供の"空想"を微笑ましげに聞いている。こうして、子供は秘密の会話を、おしゃべり好きなスライムは人との会話を楽しむ事ができる。
スライムとの会話を経験した子供たちは、魔物への意識を少し変えることになる。恐怖の対象から、親愛なる友達へ。これも、ティーリウス達の目的へ向かう、手段のための手段の一つである。




