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魔物園の魔物達は園主と共に今日も自由に生きている  作者: 海夜 淳
第三章 ドライアド
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エピローグ

 特殊区執務室にて、いつものようにガリウスが寝転びながらソファ越しに、執務机で異世界情報禄を読むティーリウスに声を書ける。今日はミリティアは、ガリウスが手がけている施設の最終確認の為不在だ。

 ドライアド達がプロディジィウムへの移住を希望してから、既に1ヶ月が経過していた。


「なぁ、さっきから読んでるのってあれだよな?」


「ん?そうだよ、ドライアドから回収した異世界情報禄」


「それって、禁書だろ?なんでドライアドが持ってたんだ?」


「クリーン…、ドリュリシオの話だと、森に落ちてたのをエリュシオが拾ったんだって」


「なんでんな所に落ちてたんだろうな?てか、禁書なのに読んで良いのか?」


「構わないよ。だって、僕は異世界文化禄の編纂に関わってるし。一度は全部読んでるからね」


「へぇ。そんな事もやってたんだな…。って、異世界文化禄が編纂されたのって、最近だっけ?」


「そんなわけ無いじゃないか。ん~…80年ぐらい前の話かな」


「はぁ?さっき編纂に関わってたって…」


「うん。僕が25歳ぐらいの頃かな?」


「え?ティーってそんなジジイだったのか!?ワンじいよりジジイじゃねぇか」


「言ってなかったっけ?僕、元勇者だからね。プロディジィウムの開園までは18ぐらいから成長してないよ。だから、実質28じゃない?」


「いや、不老だったのは知ってたけどよ。そんな任期が長かったってのは知らなかったぜ」


 この世界には勇者と呼ばれる者が存在する。しかし、勇者とは女神に選ばれた魔王討伐の任を負った…といった類のものではない。

 教会が選出する人より秀でた力を持つものを、人の守護者として飾り立てる為の存在である。通常は、1世代に1人任命し、長くて30年程の任期を持って退任する。その際、特殊な術式により不老化し、退任時に解除する事になっている。

 ティーリウスの場合、後任が見つからなかった事や、ティーリウス自身が有能すぎたこともあり、70年程着任していた。が、プロディジィウムの開園をきっかけとして退任したのである。

 この辺りの事情はガリウスももちろん知っていたが、着任時期については生まれる前の話なので詳しくは知らなかったのだ。


「あと、ワンさんは僕より年上だよ」


「いやいやいや、そうなるとワンじい110歳以上になるぞ?」


「うん、150歳ぐらいって言ってたかな?ワンさんは僕の先代の勇者だよ。にしても長生きだけどね。前に聞いたら、気がどうだとか言ってたけど、ワンさんが勇者に選出されたのもその力を持ってたかららしいよ」


「そういや、ワンじいも元勇者だっけか?それより、その禁書だよ。俺も読んでもいいか?」


「駄目だよ。というか、前に読んだことあるんでしょ?」


「あ~…。どうだったかなぁ~…。あ!そうだ。そういや、ドライアドの移住は上手くいったのか?」


「また誤魔化したね。後でしっかり聞くから。移住については無事完了したよ。全員転移させて、今森林区で暮らしてるよ」


「おぉそうか。これで、プロディジィウムの希少種が増えたな!また観光客増えるんじゃないか?」


「そうだね。ドライアドの公開が来週だから、行動展示が始まったらまた増えそうだね」


「目標には到達できそうなのか?」


「どうだろう…。そもそも、あれは人の気持が変わらないとどうしようも無いからね」


「人と魔物の垣根を無くす…か。なかなか難しいもんだな」


「まぁ、それも手段だから、彼女の為なら違う方法でも良いんだけどね。やっぱり、今の所他の方法は見つからないね」


「そっか・・・。早く達成できると良いな」


「そうだね。僕も不老じゃなくなったから、早くしないとね。っと、でガリウスはどこで異世界情報禄を読んだんだい?」


「あ~…。ま、魔王城で…」


「やっぱりあそこか。仕方ないなぁ。君たち暇だったから仕方ないけどさ。禁書なのは知ってただろ?」


「一応な。でも、興味あるじゃねぇかよ。違う世界の話とか。しかも、禁止されるような情報なんて」


「わからなくはないけどね。でも、禁止された理由なんて、俗物的なものばっかりだよ。ほんと、教会の年寄り達には困っちゃうよね。どうでもいい理由つけて、なんとか情報を制限しようとするんだから」


「それには同意できるな。ちなみにティーが編纂の時に禁止した情報とかあるのか?」


「あるよ。僕が禁止したのはこれ」


 ガリウスに差し出した項目には「動物園」「水族館」と書かれていた。


「これと同じことを魔物でやろうとすると、人にとっても魔物にとっても良くない事が起きそうかな、と思って。でも、結局僕が真似してるんだけどね」


「なるほどな…。確かにこれを見て、ティー以外がやろうとしたら大変な事になってただろうな」


 ガリウスは、ティーリウス以外の金銭目的の人間が魔物園を開園した世界を想像して、少し身震いさせた。それは、制御できず人が襲われる、という可能性より、人が魔物を奴隷の様に扱う様を想像したためだ。


「当時はそこまで深くは考えてなかったけどね。彼女とも出会ってなかったしさ」


「そうなのか?俺は最後にパーティーに入ったからな。そういや、その辺の事情は聞いてなかったな」


「ガリウスは過去の事はあまり興味持たないもんね」


「いえ、彼は記憶力が高く無いため、単純に覚えていないだけだと思いますよ」


 ガリウスが異世界情報禄から目線を上げると、いつの間にかリールがそこに立っていた。


「おう。戻ったのか。で?どうだった、例のアレは」


「どうもこうもありません。言ったじゃないですか。上昇時の制御に加速度判定と速度制御が必要だと。あのままだと大量のミンチが出来上がるだけです」


「え?そうだっけ?でも、防御魔法の付与でなんとかなるんじゃないか?」


「それだと一度の利用で魔力が底を付きます。それも言ったはずです」


「ん~…。すまん。また調整してくる」


「ティーリウス様。やはり、単純な記憶力の問題ですよ」


「あながち否定もできないね」


 苦笑いを浮かべるティーリウスに対して、ガリウスは流石に今回はリールへ言い返す言葉もなく、頬を掻きながら執務室を後にした。


「ティーリウス様。彼、異世界情報禄を持っていきましたよ」


「ほんとに?あぁもう。反省してるかと思ったらこれだよ…。まぁ、個人的には彼が見て困る情報は無いから構わないけど、教会や国に見つかって投獄されても知らないよ…」


「一度檻の中で頭を冷やせばいいんですよ」


「いやぁ、そうなると僕らも困るしさ」


「そうですね…。仕方ありません。調整を手伝いがてら取り返してきます」


「あぁ、頼むよ」


 了承の意を頷きで返すと、リールは転移で山岳区へと向かった。おそらく、ガリウスより先に調整をしつつ待つつもりなのであろうが、ガリウスがサボって異世界情報禄を読んでいたため、2人が合流したのは数時間後であった。


 執務室に1人残ったティーリウスは、天を仰ぎながら目を細める。


「あれって、出版された写本じゃなくて、間違いなく原書だよね…。無くしたとは思ってたんだけど、ドライアドの森にあった、って事はあの時落としたのかなぁ…」



これにて、ドライアドの話はおしまいです。

次は幕間でスライムの話を1~2話挟んで、やっと登場ドラゴンです。

幕間が1/23、次章が1/28投稿開始予定です。

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