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魔物園の魔物達は園主と共に今日も自由に生きている  作者: 海夜 淳
第三章 ドライアド
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ドライアドの目的

 森林区奥深く、トレント達が住む領域近くにティーリウスとガリウス、そしてウィフことワンフェイは駆け抜けていた。足元には木の根が畝っており、普通なら足を取られ歩きにくく、走るなど不可能に近いが、3人は常人が平地を駆け抜けるより早く森を駆けていた。


「で、ワンじいよ。なんか言うことはねぇのかよ?」


「いやいや、面目ないのう。まさか、ドライアドの2人がキャストに見つかるなんてヘマするとは思わんでのう」


「そっちじゃねぇよ!なんで戻ってきてすぐに顔ださなかったんだよ!」


 ガリウスがワンフェイに走りながら詰め寄るという器用な事をしてみせる。


「大体なんだよ!戻ってきてんのに手紙だけで済ませたくせして、なんで問題起きた時に限って執務室に来るんだよ」


「いやぁ、なにか嫌な予感がしてのう。ナイスタイミングだったじゃろ?」


「確かに、事情はすぐわかったけどよ」


「ワンさん、キャストが見つけた親子っていうのは、本当にドライアドで間違いないんですね?あの偽物ドラゴンの木細工を売っていた」


 ティーリウスが尋ねる偽物は、おそらく偽物の木細工、ではなく偽物のドラゴン、と言う意味であろう。


「あぁ、間違いないぞ。ティーから依頼された調査対象に間違いないわい」


「そうか…。彼女たちが異世界情報録を持っていた、というのも?」


「そちらはおそらく、じゃがな。話を聞いた様子じゃと異世界情報録で得た情報を元に動いておった」


「危険性はない、ってことだったからしばらく放っておいたけど…。まさかキャストに見つかるとはね」


「ちょちょちょ、待てって。ティーとワンじいって連絡取り合ってたのか?しかも調査を依頼って」


「当たり前じゃないか。うちの従業員だよ?従業員への給与は僕からの手渡しが基本だし、会わないわけ無いじゃないか。ちなみに、ミリィも会ってるよ」


 ドラゴンの木細工がドライアドの作ったものである、ということがわかった日の夜。ティーリウスは執務室に給与(すぐに使い切ってしまうため日払い)を取りに来たワンフェイに、園内に怪しい親子がいれば調査するように依頼していた。

 その為、ワンフェイがドリュリシオ達に出会った時、彼は2人の正体について、おおよその見当が付いていたのである。あとは会話の中で木細工作りの事、人とは異なる要素について聞き出し確信を得ていた。


「えー!今まで顔合わせてなかったの、俺だけかよ…」


「ガリ坊はいつもソファで寝とるじゃろが。何度か執務室行っとるが、寝とって会うとらんだけじゃ」


「まじかよ~。寝てても大抵気配で起きれるってのに…。ワンじい気配無さすぎだろ…」


「ふぉふぉふぉ。で、2人が見つかったのはこの辺かの?」


 3人が足を止めると、数メートルほど先に目的の親子が倒れているのが見えた。母親と思われる女性は、木の根に額を預けうつ伏せに、子供の方は母親の足に後頭部を乗せ目を閉じている。傍らには1冊の本が開かれて落ちている。

 外傷があるようには見えないが、ピクリとも動かず、一見すれば死んでいる様にも見える。

 ガリウスが落ちている本に目をやり、肩をはねさせる。ティーリウスも同様に目をやるが、すぐ親子に視線を戻す。


「これはキャストが大慌てで連絡してくるはずだよ」


「うむ。じゃて、魔力は流れてるようじゃ。死んじゃおらんじゃろ」


「そうだね。むしろ魔力が溢れるぐらい元気いっぱいに見えるね」


 死んでいるわけではなさそうな事に安堵したティーリウスは、ゆっくりと2人に近付き母親の肩を揺り動かした。


「ドライアドクイーンのドリュリシオさん?起きてもらえるかな?」


 名を呼ばれた母親、ドリュリシオは寝ぼけ眼でティーリウスを見つめる。ドリュリシオの足を枕にしていたエリュシオも同時に目を覚ます。


「貴方は・・・?あら、ウィフさんもいらっしゃるのね。ということは、貴方がティーリウス様かしら?」


「えぇ、そうです。このプロディジィウムでまとめ役をしているティーリウスです。ドリュリシオさんはどうしてこんな所で寝てたんですか?」


「あぁ…。ごめんなさいね。ここの腐葉土があまりにも美味しくて…。堪能しているうちについ、ね」


「まじか!この腐葉土って美味いのか!なら俺も…」


 美味しいという言葉に反応したガリウスが、足元の土を掬い上げ口元へ運ぶ。その様子をティーリウスとワンフェイは苦笑いしながら見つめ、ガリウスがしっかりと口に含んだのを確認して


「ガリ坊や。彼女らは腐葉土を食べてるわけではないぞ。腐葉土に含まれる栄養を皮膚から吸収しとるだけじゃ」


 と間違いを指摘した。ガリウスは口に含んだ腐葉土を吹き出し、ワンフェイに激高した。


「じじい!てめぇ俺が口に入れたの確認してから言いやがったな!知ってたなら早く言えよ!」


「ふふふ。楽し方達ですね。やはり、ここが良いですわ。ティーリウス様、折り入ってお願いがございます」


「お願い?一応ワンさん…ウィフから事情は聞いてるけど、話してもらっていいかな?」


「はい。私達、いえ、私の森に居るドライアド30体をこの森に住まわせては頂けないかしら?」


「ん~…。それ自体は構わないよ。ドライアドは希少種でまだプロディジィウムに居ないし。トレントの縄張りを侵さないなら大丈夫かな」


「トレントの皆とは、もう話をつけてあります。母さまに言われてお話して回りました」


 ドリュリシオの足元に居たエリュシオが小さい胸を大きく張って自慢げに説明する。


「元々、トレントはドライアドクイーンの配下に付く魔物です。ここのトレントをまとめていたクイーンは、人に襲われて居なくなってしまったです。なので、母さまがクイーンとしてまとめる、とトレントは了承してくれました」


 エリュシオの説明にティーリウスは目を細め、彼女の頭を優しくなでた。


「うん、彼等のクイーンが居なくなってしまった事は知ってるよ。僕もいずれクイーンを連れて来たいとは思ってたんだ。君は、将来のクイーンかな?」


「はい!母さまの種から生まれたドライアドプリンセスです」


「そっか。で、ドライアドがうちに来てくれる事は嬉しいんだけど…。その理由を聞いてもいいかな?」


「えぇもちろんですわ」


 ティーリウスの問に了承したドリュリシオは、足元にあった本を手に取り、ティーリウスに差し出した。


「これは、異世界情報禄だね。どこで手に入れたかは後で聞くとして…」


 ティーリウスは開かれた項目に目をやる。そこにはこう書かれていた



 ■NEET■

  異世界における特殊な職業の一つ。特定の労働に就かず、学業に専念することもなく、訓練を受けることなく、何もせずとも生活が保証されている特権階級。全ての人が憧れ、できうる限り早くNEETになれるよう努力を怠らない夢の職業。

  なお、何もしていない事で侮蔑の対象と論ずる、極限られた者も居るが、全ての論拠が嫉妬由来である為、少数意見として取り扱われている。



「なるほど…。君たちはNEET、ニートになりたかったわけか」


「はい…。こんな夢の職業があるなんて!元来ドライアドは土の養分さえあれば生きていけますわ。その為、その本質はこのニートに近しいものです。ニートこそ、全てのドライアドが目指すべき職業ですわ!」


「まー、わからなくはねぇけどな~。俺も、最初それ読んだ時、これだ!って思ったしな」


「ガリウスは、どこで読んだんだい?ちょっと詳しく聞きたいな。これ禁書だって知ってるよね?」


「あ・・・。いやぁ、どこだっけかな?忘れたなぁ~…。あ!それより、土の養分があれば生きていけるなら、どこの森でもニートになれるんじゃないのか?」


「誤魔化したね…。まぁいいや。おそらく、そう上手くはいかないんじゃないかな?」


「えぇ、そうなの。森の養分には限りがありますわ。それを吸収して生きるには、養分がうまく生成されるように、土をかき回したり、落ち葉なんかを養分に変えてくれる生き物に力を貸したり、色々とやることがあるのよ」


「なるほど…。毎日、畑仕事みたいな事をしなきゃいけねぇのか。そりゃニートとは程遠いな」


「そうですわ。ですが、ここは素晴らしい場所ですわ!森の養分が少なくなればキャストの方が、とても美味しい腐葉土を持ってきてくれる!それに、たまに養分以外が食べたくなったら、商業区のレストランもあって、こんな素晴らしいところはないわね」


「うん。喜んでくれてるのは嬉しいんだけどね。うちに来るのは構わないけど、君たちをニートにする気は無いよ」


「えぇ、わかってますわ。トレント達に話を聞きましたもの。"行動展示"とお土産作りよね?最初はここでも労働が必要なのかと、ひょっとしたら無理やり働かされているのか、と思いましたわ。けど、トレント達に話を聞いて、そうではないと知りましたわ」


「そうだね。ちゃんと魔物達と話をして、みんながやりたい事だけやってもらうようにしてるよ。展示されている子達も、人を見るのが好きで、自分たちの動きに人が驚いたり笑ったりするのが楽しくてやってくれてるしね。彼等にとっては遊びみたいなものかな。まぁ一部の魔物にはお願いして働いてもらったりもしてるけど、無理やりってことはないね」


「ドライアドにも、人に興味がある子たちが何人も居ますわ。木細工作りなら私も趣味で作るぐらい好きですわ」


「なら問題ないかな。ちなみに、ニートって本当は親の脛を齧って生きる穀潰しの事だからね。もう絶対に目指しちゃ駄目だよ?」


「え!?まじかよ!それってあれじゃねぇのか?極少数の嫉妬由来の意見って言う…」


「いや、その本を書いた転生者に直接聞いたから間違いないよ。なんでも、その人が元ニートだったらしくて、最初に周りに職業をニートって紹介しちゃったから、本当の事が書けなかったとかなんとか」


「うわぁ…。知りたくなかったぜ」


「だから、ガリウスもニートになろうとかしちゃだめだよ?ガリウスみたいな人が出ないように、異世界文化禄には写されなかった項目なんだし」



 その後、ドライアド達が森林区へ移住する手順などをティーリウスを一通り説明し、無事ドライアドがプロディジィウムに展示されることが確定した。



「あれ?そういえばワンじいは?」


「あー。ガリウスが腐葉土を吹き出した後に、すぐに居なくなったよ」


「まじかよ!全然気付かなかった…。現れても、消えても気付かないなんて…」


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