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咲けない花
百合子の時間が止まる数分前、彼女は私にこう言った。
「誰かの心に大きな穴を空けられたら、なんかいいよねえ。」
鼻筋の通った百合子の無邪気な横顔を見ながら、私はこう答えた。
「誰かの心に穴を空けた時点で、それは素敵な事ではないんじゃないかなあ。」
田舎の小さな会社で、私は事務の仕事をしている。
本当に小さな会社で、事務員は私の他には2人しかいない。
社長の娘と、それから社長の奥さん。
娘さんも奥さんもあまり仕事をしないので、実質私が一人で取引先のデータやらを管理してる。はぁ。
退屈で代わり映えのしない業務を終えて、中古の安い軽自動車に乗って30分。
家賃3万円の安いアパートへ帰るのが私の日常。
軋む音と供にドアを開けた途端、百合子が目の前に現れて私を出迎えてくれる。
「おかえり桃。今日もお疲れ様だね。」
そう言う百合子の姿はあの頃のままだ。
私の目の前で橋から飛び降りた、中学3年生の姿のまま。