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幼馴染

皇紀2584年(1924年)9月8日 島根県 広瀬


 上京陳情団からの電報を受け取った広瀬鉄道期成会は蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。元々この日、上京陳情団から免許交付の電報を受け取る前提で祝賀会が鷺の湯温泉にて開かれる予定だった。


 だが、事態は急変。免許交付というお墨付きがあった話が急転直下の免許不交付となり、祝賀会どころではなくなったのである。


「そげな話、聞いちょらんが!」


 あちらこちらで異口同音の怒号が聞こえる。彼らの怒りは尤もである。だが、怒りに任せて叫んだところで事態は変わらない。


「いい加減にしろっ!」


 凛とした声が響く。若い女性の声だった。彼女の声には怒気が含まれ荒っぽいものだったが、育ちの良さそうな気品ある声だ。


「それが、大の大人のなすべきことか! 地方議会の議員、地元の名士として恥ずかしくないのか!」


 再び、彼女の鋭い声が飛び、祝賀会上……もとい対策本部は静まり返る。


「落ち着いて、事態の把握と、追加派遣人員の手配を……上京陳情団へ夜行に間に合わないと電報を! 早く!」


 機能停止、機能不全に陥った期成会の面々の代わりに矢継ぎ早に指示を出す彼女の姿は凛として美しい。


「さすがは山陰中央銀行の頭取の娘だ」


 彼女は声がした方を振り返る。彼女のサラサラで美しく長い髪が宙を舞う。


「君っ! 今はそんなこと関係ないじゃないか!」


 顔を赤くして文句を付ける。


「ははっ。怒らない。褒めているのだからね」


 声の主に彼女はさらに機嫌を悪くする。ただでも機能不全に陥って役に立たない議員や名士たちに苛立っている状況にある中で、のんびりと構えている彼は火に油を注いでいるも同然だ。


「さて、それで宇山沙織さん。君は旅支度をしなくても良いのかな? 上京すべきはここにいる議員や名士ではなく、君自身じゃないのか?」


「大和さん。私は父の、いや頭取の名代としてここにいるだけだ。頭取秘書でしかない私がでしゃばる立場じゃない」


「そうかな? 君の差配で人が動いているんだ。であれば、尚更、恐慌状態の陳情団に必要なのは君の様な冷静な人物じゃないか? それに、なんで君の父君、いや頭取が君をここに来させたのか、その意図を考えれば尚更ね」


「誠一郎、君は何が言いたいんだ?」


「おや、外向きの呼び方はもういいのかい?」

 

 誠一郎の揶揄いを帯びた言葉に沙織は反応しそうになったが我慢した。


「では、大和さん、貴方は私に何を期待しているんだい?」


「さて、なんだろうね?」


 誠一郎は沙織にニヤッと白い歯を見せながら笑い掛ける。


「君はいつもそうだ。答えがあるのに、私に必死に答えを探させる……嫌味な奴だ」


「君が可愛いからさ。必死に答えを探す君が……ね」


 誠一郎は目を細めてそう言う。同時に立ち上がると大声で叫んだ。


「追加の人員は山陰中央銀行の宇山さんに行ってもらいます。他は、町長の息子である私が行けば十分でしょう。現状、ここでは情報が入りませんから、追って帝都から必要な人材を招集することにしましょう」


 誠一郎と沙織の戦いは始まったばかりだ。

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