第七章~隠していること~
光人さんが出してくれた手を、少し控えめに握った。
だって、もしこんなの病院の関係者に見られたら大問題だもん。
でも、それでも光人さんと一緒にいたい。ずっと、ずっと一緒に。
「桃果、今度行きたい所また考えとけよ。そうしておけばリハビリが倍頑張れるだろ」
信号待ちの時、光人さんが言った。私の顔は見てないけど、耳が真っ赤だから多分顔も真っ赤。
大人なのに、時々見せる子どもっぽい所を見せるのが可愛い。
「うん。じゃあ、今日帰ったら考えておくね」
「おう」
デートスポットとか、調べておかないと。
というか、やっぱり恥ずかしいな。手繋ぐの。
「あ、光人さん。やっぱり手離してくれない?」
「え、何で?」
私がそう言うと、光人さんは不思議そうな顔で私を見た。
光人さんは恥ずかしくないのかな。
「そ、その恥ずかしくて……」
「……へえ。意外に照れ屋なんだ?」
光人さんは悪戯な笑みを浮かべて、私の顔を覗き込む。
そんなことされたら心臓が止まりそうになること、どうして分からないかな。
ていうか、意外って何よ。
「まあ良いや。恥ずかしいなら無理矢理手を繋いでも俺のポリシーに反するし。でも、気
を付けろよ」
怒りなのか照れなのか分からない感情を抱えていると、今度は光る人さんが優しく言った。
「うん。ありがとう」
やっぱりお医者さんなんだな。
たまに見せる優しさが大人っぽい感じがするし、私の病気のこと分かってくれている気がする。
「おう。あ、信号青だ。渡ろうぜ」
光人さんに言われて、私も歩き出そうとした。
だけど、足が上手く動かなくて……
「桃果!?」
頭を打って、何か温かいものが地面に流れた。
「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」
それが血だと分かった時に、光人さんの私の名前を呼ぶ声を遠くで聞きながら意識を手放した。
鼻を刺す消毒液の匂いで目を覚ました。
「あ、桃果! 目を覚ましたのね、今お医者さん呼んでくるから!」
お母さんの声が右の方でして、遠くなった。
そして、ドアを閉める音がする。
そうか、ここ病院なんだ。
確か、光人さんとデートしてて……。
「桃果! お医者さん呼んできたわよ!」
お母さんが呼んできてくれたお医者さんに、体や頭を診てもらった。
「脳挫傷ですね。明日には退院できますよ」
「そうですか、良かった」
「ねぇ、お母さん」
安心しているお母さんに、恐る恐る聞いてみた。
何だか嫌な予感がするんだ。
もう、光人さんに会えないような……そんな気がして。
「新崎……先生は?」
「っ……」
私の質問にお母さんとお医者さんは何も答えなかった。
何かを隠しているような顔をしてる。
「あ、あのね、新崎先生は仕事が忙しくなかなかここに来られないみたいなの」
そして、誤魔化すように言った。
「そう……なんだ」
でも、何も言うことができなかった。
これ以上、何も聞かないでって顔をしてたから。
「二日間も眠っていたから、心配してたんだ。桃果ちゃんの病気は、次第に進行するもので、こういうこともこれからは珍しくない。気を付けてね」
お医者さんはそう言って、その場を去った。
何だか、話をはぐらかされた気がする。
翌日。私は無事に退院できた。
昨日の夜も、遅くまで起きていたけど光人さんは病室に来てくれなかった。
「じゃあ、桃果ちゃん。次のリハビリの日は明後日だからよろしくね」
「あ、はい」
私を見送ってくれる主治医の先生が言ったのに、返事をして車に乗り込んだ。
光人さんに会いたい。
でも、会えない。
今日、お母さんが迎えに来た時に会いたいって言ったらダメって遮られるように言われたから。
お母さんもお医者さんも、みんな私に隠してるよ。
はっきり言ってよ、分からない。
どうして会えないの? 他の患者さんは光人さんを見て、騒いでいるのに私はそれすら許されない。
光人さんに、会いたいよ。