第六章~約束~
行列に並び、やっと観覧車に乗れたのは光人さんが観覧車に乗ろうと言ってから、三十分後のことだった。
「乗車時間以上の時間、並んだな」
ゴンドラに乗って光人さんは不機嫌そうに言った。
確かに、観覧車になかなか乗れなかったのは嫌だけど私はそれ以上に……。
「あ、そういえばここから見えるのかな。病院」
光人さんは私の方の窓の景色を見るために、身を乗り出した。
そんな行動に、私の心臓は騒がしくなる。
密室に二人きり。
そんな今の状況が、落ち着かない。
「どうした? さっきから喋らないけど」
「え、いや、あの……」
どうすればこの胸のざわめきは収まる? それとも、いっそこれも病気のせいだってことにして誤魔化す?
「もしかして具合悪いのか?」
どちらにしても、胸のざわめきは収まってくれない。
「……る?」
「え?」
今しか言うことはできない。
胸がざわついて意識が飛びそうなくらいドキドキしている今しか……。
「私と、また……デートしてくれる?」
無理かもしれない。私は患者で光人さんは医者だから。
本当は今日のデートだって……。
「うん、約束する。またデートしよう」
この胸の高鳴りは、病気のせい? それとも、高い所、だから……?
観覧車から降りると、もう太陽は西に沈みかけていた。
「そろそろ帰るか? 桃果のお母さんも心配してるだろうし」
「……そうだね」
観覧車に乗ってる時はあんなにドキドキしてたくせに、いざ帰るとなるととたんに寂しくなる。
「何? もしかして寂しいの?」
下に向けている私の顔を光人さんが覗き込んできたから、思わず彼を突き飛ばしてしまった。
「いてっ! だから、お前本当に病人か?」
レストランの時みたいに、尻餅をつきはしなかったものの光人さんは私が突き飛ばす時に掴んだ両肩を光人さんは両手で抑えていた。
「ご、ごめんなさい」
「まあ別にそこまで痛くないから良いけど」
さっきまでとても痛そうにしていたのに、光人さんは全然そんな素振りも見せず歩きだした。
「またデートしよう。その時までリハビリ頑張れよ」
光人さんが私の頭を撫でた。
そんな行動に、私の胸はまた高鳴っていく。
「……うん、分かった」
きっと大丈夫。
光人さんがいてくれたら、不治の病であるこの病気も治る気がするんだ。