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プロローグ

 友だちと過ごす楽しい日々が、永遠に続くと思っていた。でも、病気は私の体をゆっくりでも確実に蝕んでいったんだ。


「桃ー! 早く行かないと遅刻するよ!」


「はーい!」


 朝。憧れの制服に身を包み、仕度を急ぐ。


「行ってきます!」


 お母さんにそう言って家を出た。


 眩しい太陽と青空に少しだけある雲が、今日から高校生になる私をお祝いしてくれている気がして、胸が躍る。


「桃! おはよう!」


「あ、恵。おはよう!」


 中学からの親友、高橋恵未めぐみが、私を迎えに来てくれた。本当は一人でも行けるって言ったんだけど、最近私はよくこけるようになったし、方向音痴だからどこに行くか分からないって言われちゃったんだよね。実際説明会の時、一人で行って迷ったし。


「今日から私たちも高校生かぁ。桃、絶対素敵な彼氏作ろうね!」


「私は恵といられるだけで充分だよ」


 確かに恋愛とか憧れるけど、まだしたことがないからどういうものなのか分からないし、恵と一緒にいるだけで幸せだよ。


「それは嬉しいけどね、桃。高校生は恋愛するものなんだよ!?」


 恵に思いきり怒られけど、賛成は出来なかった。彼氏、とか正直よく分からないよ。


 しばらく歩いていると、五人くらいの小学生が仲良く歩いている姿を見かけた。懐かしいなぁ。小学生の記憶はほとんどないけど、今思えばあんな風につまらないことで笑っていたことだけは覚えている。


 すると、小学生が私たちに気づかず後ろ向きで歩いてきた。恵が横によけて、私も恵の方に行こうとした。


 ドンッ


「ご、ごめんなさい!」


「桃! 大丈夫?」


 な、何? 今足が……。


「だ、大丈夫! 本当に私ってドジだなぁ」


 小学生と当たった拍子に転んだ体を起き上がらせる。今度はちゃんと動いた。

 でも、さっきのって……。


「いや、今のあの子たちが悪いよ」


 小学生たちに怒る恵を、私はまぁまぁと宥めながらさっきのことがずっと頭に引っかかっていた。


 入学式が終わり、それぞれの教室へ向かう。私たちの教室は三階だから、階段を使わないといけない。


「一年生なのに、何で三階なんだろう」


 そうぼやく恵と教室に向かう。恵と同じクラスになれたから、教室が何回でも、私はどうでも良い。上がるのが大変な階段も、恵と一緒なら登れる気がする。


 教室に一番近い階段を登ろうとすると

 ……あれ?


 まただ。また、足が……。


「桃、どうしたの? もしかしてさっきのあれで怪我でもした!?」


「う、ううん。大丈夫」


 心配性な恵に心配をかけないために、私は笑顔で先に行っていた恵を追いかける。


 足が、動かなかった。さっきと同じように。


 もしかして私、何かの病気なの? 歩けなくなる病気?


 昔ドラマで見たことがある。これとまったく同じ症状が出てくる難病と闘う女の子の話。あれと同じ病気じゃないよね?


 あれこれ考えていると、教室に着いた。


「なんか桃、今日変だよ。緊張しているの?」


「そ、そうかも。憧れの高校だし」


 恵にそう言われて、また笑って誤魔化す。今年で付き合いが三年目になる恵になら、分かってしまうかもしれない。今、私が思っていること。


「そっか。私も少し緊張しているかも」


 でも、恵は分かっていても言わない。私から言うのを待っている。無理矢理聞こうとしない恵の性格には、とても感謝している。


「中原桃果さんだよね? 私中原さんの前の席の中西友美っていうの。よろしく!」


 いきなり声をかけられて戸惑う。初めて会う人なのに、この人凄いなぁ。


「あ、えっと、よろしくお願いします」


 中西さんが出した手を恐る恐る握る。


「えっと……」


「高橋恵未です」


「恵未、よろしく!」


 いきなり呼び捨て!?


 凄い。私なんて恵って呼べるまで半年くらいかかったのに。


「二人とも私のことは友って呼んで。桃果と恵未って呼ぶから」


「う、うん。よろしく。と、友」


「あはは。うん、よろしく桃果」


 明るい友が何だか眩しく見えてきた。私もこんな風に明るい性格だったら、さっきのことも笑い飛ばせたのかな。


 ダメダメ。また考えている。そんなに気にすることじゃないよ。うん、気にすることじゃない。少し脳の伝達が遅れただけ。ただそれだけだよ。


 担任の先生の簡単な自己紹介と、一年間の行事を簡潔に教えてもらって、今日は解散となった。


「ねぇ、桃、友。今から喫茶店行かない? 学校の近くにケーキが美味しいお店見つけたんだ」


 私たち三人の席は奇跡的に固まって、私の前に友、横には恵。ちなみに私は教室の真ん中の席。


「良いね。桃果も行くでしょ?」


「うん!」


 友にふられて、私は大きく頷いた。


 教室を出て、前から私、恵、友の順番で歩いていた。廊下は人が多くて、とてもじゃないけど並んで歩けそうにないんだもん。


 階段を下りようとした次の瞬間。


 ドサドサドサドサッ


 私は何かにつまずいて、階段を転げ落ちてしまった。


「桃果!」


「桃! しっかりして!」


 遠くで聞こえる恵と友の声を聞きながら、私は意識を手放した。


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