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プロローグ

 イルラナは、腕がいいと評判の錬金術師だった。、もう三十になるはずだが、その辺りの若い娘よりも魅力的に見えた。真っ赤な丸い耳飾り。白いシンプルなドレスの大胆に空いたスリットから、細い足がのぞいている。

 あくどい錬金術師も多い中で、イルラナはその力を動物や人間の治療、強固な防具の生成など、人の役に立つことにしか使わなかった。その上、王族、貴族からも適性な金しか取らず、時には無一文の貧乏人に無償で体の治療を施すということで、ちょっとした崇拝者もいるくらいだった。

 そんな有名人に私が酒場であったのは、本当に偶然だった。隣に座る時に軽くあいさつを交わしたのをきっかけに、私はもしも会えたら聞いてみたいと思ったことを聞いてみた。

「イルラナさんは、なんで錬金術師に?」

 まるで子供みたいな私の質問に、イルラナは微笑んだ。

「それは話せば長くなるのよ。最初は錬金術なんて興味なかったんだけどね」

 ここまで評判になるほどの腕を身につけるには、きっと子供の時から錬金術師となるべく勉強していたのだろうと思っていたので、少し意外だった。

「そんなことよりも、あなたはひどく落ち込んでいるようね」

「ああ、やっぱり分かりますか」

 私自身、はたから見ればとても幸せそうには見えない様子をしているだろうとは分かっていた。

「実はね、妻が亡くなったのですよ」

「お気の毒に」

 それがただの社交辞令ではなく、心から痛ましいと思ってくれているのはその表情で分かった。

「私は、錬金術師です。普通の人間より、人体の造りに通じている。それなのに、妻を助けることもできないで、今までなんのために知識を磨いてきたのか」

 グラスを握る手に自然と力が入る。

「だからここで一杯飲んだら死に場所を探しにいこうと思っているんですよ」

「……そう、それもいいかも知れないわね。人間には、不幸になる権利だってあるわ。幸せになる権利と同じにね」

 止められることを無意識に予想していた私は拍子抜けした。もしそうされたらなんと応えようかと考えていたのに。

「少しあなたがうらやましいわ」

「え?」

 驚いて私はイルラナの顔を見つめていた。

 イルラナもまた私の顔を見つめていた。

「私は、絶対に逃げることができないから」

 そこでイルラナは微笑みを浮かべた。淋しそうな笑顔だった。

「私がなんで錬金術師になったかって聞いたわね」

 そういって、イルラナは奇妙な物語を話し始めた。


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