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異世界はホワイト企業

 再び黒い壁にエミリアは消えていった。


 この世界の種については自分の持っている知識で何とかなりそうだ。


 もちろん知らない種族や習慣はこれからも出てくると思うが一般的にかけ離れるといったことはないだろう。


 むしろ、本当に自分が異世界に行くことが出来ると思うとワクワクしてくる。


 ラノベやゲームを通じて慣れ親しんだ世界。


 何度行ってみたいと思い、ゲームの主人公に憧れたことだろう。


 それが今、現実になろうとしている。


 まぁ、自分の首を、天秤にかけてではあるが。


「おまたせしました、シュウイチ様。コーヒーはブラックでよろしいですか。」


 今度はコーヒーか。近い物は何でもあるわけだし、食べ物にもそんなに困ることはないだろう。


 好き嫌いはないし、食べられるならあまりこだわりはない。


「ありがとうエミリア、ブラックで大丈夫です。今度はコーヒーもあるんですね。」


「コーヒーはシュウイチ様の世界の物をご用意しました。私が好きなのでそちらの世界に出張へ行く際にいつも買って帰るんです。本当は専用の書類を提出しなければいけないんですけど、こっそりと。」


 海外に行くときに自分もしたことがある。入国するときに自己申告する量よりも少し多くの酒を持ち帰ったが、ばれることも無くゲートを通過できた。生態系や危険物でなければあまり言われることはないのかもしれない。


「エミリアはコーヒーが好きなんですね。」


「はい。とは言いましてもブラックでは飲めないので砂糖とミルクを多めに入れます。カフェオレというんですよね。苦いのは苦手なので甘くしてしまいます。」


 そこはやはり女の子だった。ブラック好きなのはおそらく鬼のほうだろう。


 いや、意外に苦すぎて飲めない可能性もある。見た目に違わず子供の舌なのかもしれない。


「次は、政治や金融についてお願いできますか。」


「畏まりました。私どもの世界は4つの大陸に分かれています。それぞれの大陸に大小様々な国が存在しますが、シュウイチ様に今回お願いいたしますのは中央にありますユーロレシアン大陸です。ユーロレシアン大陸には王都シュメリアを中心に7つの都市が存在します。それぞれが独立統治されていますが同じ国内になりますので通行や商業などに制限などはございません。」


 首都と周辺都市。イメージは東京を中心として九州・四国・中国・近畿・中部・関東・東北・北海道にそれぞれの行政庁があり統治をしている感じだろう。通行自由、同じ国内なので通貨や法律も共通。あくまで統治地域が違うだけなのだろう。


「その7つの都市と王都が国を運営しているんですね。行政は議会制ですか。」


「現在は国王陛下を長として議会制で運営されています。各都市より無作為に選抜された議員と貴族議員の混成議会です。最終決定権は国王陛下にありますが、大半の議案に関しましては議会と元老三家によって決められます。」


 貴族議員はわかるがほかの議員はランダム選抜か。


 なるほど、こうすることで権力の集中や派閥化などを起きにくくしているのだろう。


 貴族がいかに派閥を組んでもランダム議員の数を多くしてしまえば多数決という民主主義の宝剣でもって貴族の企みを瓦解できる。


 日本のダメダメ議会も見習ってほしい。くだらない足の引っ張り合いをしないでもう少しましな議会をしてくれればいいのだが。


「その元老にメルクリア家が属しているんですね。」


「はい。現当主様が元老議員として活動されています。フィフティーヌ様はあまり政治に興味がないようですので、もしかすると妹君に議員はお譲りになるのではないかという話も出ています。」


 メルクリア家おそるべし。


 政治の舞台に商家が絡むのもすごいが、全く興味がないというのもまたすごいな。


 政治と金の問題で批判される可能性のある場所に入り込んでいるということは、言い替えればそれだけ自らの家に透明性と自信があるのだろう。


 現当主がいかにすごい人なのかそれだけでもわかる。


「お忙しいようですから、そういったことに目を向ける暇がないのかもしれませんね。」


「お休みの日はしっかりと休むようにいつもお話ししているのですが、フィフティーヌ様はなかなかいうことを聞いてくれなくて困っているんです。」


 上司が働き詰めだと下の者が休みにくい。


 それはどの世界でも同じだろう。


 働くときは働く、休む時は休む。


 オンオフの切り替えができる人間が実は優秀だという話はよくある話だ。


「そういえば、シュウイチ様のお休みや労働条件などの説明がまだでしたね。このままお話させて頂いてもよろしいですか。」


 スッカリ忘れていた。


 週休1日毎日がサービス残業。


 給料は最低限しかもらえずボーナスはなし。


 有給は使えず、そもそも存在するのかすらわからない。


 福利厚生といえば勝手に使用しているパソコンぐらいだろうか。


 ブラック企業の代名詞のような今の会社から比べたらどこでもホワイト企業に見えてしまう。


「よろしくお願いします。書類があればサインもしてしまいますので。」


「それではこちらを。読み上げますのでご一緒にご確認ください。」


 そう言って渡された一枚の書類。


 そこに書かれていたのは信じられないような内容。


 こんなことがあっていいのだろうか。


 これは夢ではないのだろうか。


 否、これは現実だ。



 労働条件


 1、就業時間は日の出から日没までを基本としそれ以降は個人の裁量での勤務を認めます。ただし、宵の入り以降の就業は禁止。


 2、定休日を定め、その他、聖日ファレン陰日ダレン休息日ノーバスの休日を厳守する事。


 3、本人並びに従業員、奴隷、商店にかかわるすべての人間に上記の休日を順守させること。


 4、特例としてダンジョンの整備ならびにモンスター召喚のみ休日利用を許可する。


 給与形態


 1、毎休息日に銀貨20枚を支給する。


 2、住居は商店上部に用意し、必要に応じて拡張、転居を認める。ただし、転居場所は商店より半刻以内の場所とする。


 3、給与とは別に食費並びに諸経費として銀貨10枚を支給する。従業員が増えた際には従業員の給与を別途追加支給する。


 4、夏と冬の節二回にわたり最終聖日には成績に応じた恩給の支給する。恩給に関しては担当者もしくは担当部署より別途連絡するものとする。


 福利厚生


 1、商店の商品を半値にて購入することを認める。


 2、社員購入の必要が出た場合には商店連合より三分の一を経費として支給する。


 3、年度末に行われる合同研修への参加を認める。


 4、他のダンジョンもしくは商店に赴く際の転送陣使用を認める。


 以上の条件に不服ない場合には下記に承諾の記名をし、担当へ提出する事。



「以上が労働条件、給与体系、福利厚生になります。よろしければ記名をお願いします。」


 異世界はホワイト企業だったのか。


 いままでの環境が劣悪すぎてなにをみてもホワイトに見えるというレベルなどではなかった。


 完全にホワイトである。


 真っ白だ。


 純白すぎる。


 まぶしすぎて直視できないレベルだ。


 労働条件がすごい。


 残業の禁止、休日厳守、週休何日制かはわからないが休みも多そうだ。


 休日出勤したら怒られるなんて聞いたことがない。


 銀貨20枚の価値はわからないが、衣食住全て用意されている。


 なによりボーナスが出る。


 ボーナス。


 なんという素敵な響きの言葉だろうか。


 あれは夢幻などではなかったんだ。


 父さんは言ったんだ、ボーナスは絶対にあるって。


 本当にあったんだ。


 父さんは嘘吐きなんかじゃなかった。


 ムスカもびっくりだ。


 福利厚生は、いまいちわからない。


 わからないが、とりあえず社割があることだけは分かった。


 おいおいエミリアに聞いていけばいい。


 そうだ。サインだったな。


「この条件で大丈夫です。こちらをお納めください。」


「確かに受け取りました。わからない単語などあったかと思いますが大丈夫ですか。ご質問ありましたらおっしゃってくださいね。」


 さすがエミリア。


 できる女は違うね。


「休日やお金についてちょっとわからないところがあります。教えてもらえますか。」


「もちろんです。大事な部分ですので、できるだけわかりやすくご説明しますね。」


 そういって胸を張るエミリア。


 たわわに実った果実がスーツを押し上げる。


 揉んだら、速攻殺されるんだろうな。


 主に上司や社会から。


 いつか、いつか揉んでみたい。


 だって男だもの。


 そう思わない人がいるだろうか。否、いるわけがない。


 お乳は揉むもの、そして埋もれるものである。


 ただし、自分は巨乳信者ではない。


 つつましいサイズでも構わない。


 なんていうか、お乳であればもうそれだけでいい。


 うん、何を言っているかわからなくなってきた。


 落ち着こう。


 だが、これだけは言わせてほしい。


 乳は偉大である。


 以上だ。

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