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二兎を追ったら三兎を得ることになった

「受けるべきだ!」


「その話はこの間したじゃないですか。」


「だがお前は受けないのだろう?」


「えぇ、ですが手助けをしないとは言っていません。これまで同様村の一人として手助けはしていくつもりです。」


「だがそれじゃダメなんだ。シュウイチが長の一人として名を連ねなければ納得しない者が多すぎる。」


「それがそもそも間違いなんです。私はあくまでもシュリアン商店の一店主、そもそもの話をすれば村の住人ですらないんですから。」


あの日以降毎日のようにシルビアに受けろと言われ続けている。


もちろん返事はさっきの通りだ。


これまで同様村の一人としてやっていく。


それがいい。


それがいいんだ。


「まぁまぁシルビア様、シルカちゃんも見ていますしこのぐらいにしましょう。」


「シュウイチが中々考えを曲げないのは分かっていたが、これほどまでとは思わなかった。」


「致し方ありません、ご主人様ですから。」


ユーリがシルカをあやしながら諦めたような顔をする。


なんだよ致し方ないって。


「私は受けるべきだと思います。イナバ様はそれだけの事を成さって来たじゃありませんか。」


「その通りだ。今の村があるのはシュウイチのおかげと言ってもいいんだぞ。」


「私だけの力じゃありません、皆が力を貸してくれたんです。」


「あぁシュウイチだから力を貸したんだ。それはお前もわかっているだろう?」


「もちろんわかっています。わかっていますが・・・。」


「まぁまぁ二人共。」


親の喧嘩を子供に見せるなとはよくいった物だ。


シルカの視線を感じてシルビアも強く言えなくなってしまった。


リュシアはというと何も気にせず積み木のおもちゃで遊んでいる。


マイペースな子だ。


「明日は一緒村へ行ってもらうからな。」


「ですが店が。」


「お店でしたら私が出ますので大丈夫ですよ。最近は調子がいいのでお昼までは出れますから。」


「ですが・・・。」


「頼まれた仕事をやりもしないで断るのはどうかと思うわ。いい加減覚悟を決めたらどうなの?見苦しいわよ。」


何とも言えない空気が場を支配しようとしたその時だった。


その場にいないはずの人の声が部屋にこだまする。



「いきなり出てきて開口一番それはどうかと思いますがね。」


「仕方ないじゃない、聞いていられなかったんだもの。」


「フィフティーヌ様!」


「ごきげんようエミリア、リュシアちゃん。」


「あい!」


突然出て来たエルクリア女史に驚くこともなくリュシアが返事をした。


シルカはというと何が起きたのかわからずキョロキョロと声の主を探している。


「シルカちゃんも元気ね。」


「あーい。」


「いい返事だこと、父親にも見習わせたいわね。」


「どういう事でしょうか。」


「頼まれた仕事を受けもしないで断るなって言ってるの。悪い話じゃないでしょう。」


「今はそうかもしれません。ですがその先は・・・。」


「先の事など誰にも分らないわ。」


まぁそうなんだけど・・・。


今日は随分と突っかかってくるなぁ。


まぁ今に始まった事じゃないが。


「メルクリア殿、あまり強く言わないでやってくれ。」


「あら、シルビア様が受けろとせっついているのではなくて?」


「もちろんだ。だがシュウイチの言い分もわかる。誰かの上に立つというのは非常に難しく大変な事だからな。」


「だけど貴女はその仕事を夫にさせようとしている。」


「あぁ、それが村にとって一番だからだ。シュウイチが長に名を連ねてくれればどれだけ心強い事か。」


「受けろと言ったり受けるなと言ったり、貴女も大変ね。」


うーむ、やっぱりおかしい。


俺にあたるのはともかくこの人がシルビアに当たることはなかったはずだ。


同じことを感じているのかエミリアも不思議そうな顔をしていた。


目を合わせるも首をかしげるだけ。


何かあった、そう考えるべきだろう。


「ともかくこの話はおしまいです。それで、なにか用があってきたんじゃないですか?」


「そうなんだけどやっぱりやめたわ。」


「どうして?」


「だって期待に応えてくれそうにないんだもの。」


「誰の期待にですか?」


「私のよ。」


わからん。


付き合いは長いが今日はいつも以上にこの人の考えていることがわからん。


何かを俺にさせたいのは間違いない。


でもそれをやらせないと言い出した。


やらせたいのにやらせない。


まるでシルビアのようだ。


「頼もうとした仕事を言いもしないで断るのはどうかと思いますがね。」


そう言った途端にメルクリア女史がピクッと固まってしまった。


そしてさび付いた人形のようにゆっくりとこちらを向く。


そこには鬼がいた。


鬼女再びだ。


だがそんな事でビビる俺じゃない。


ここまで言われて引き下がれるかってんだ。


「なかなか言うじゃないの。」


「そうですか?それはよかった。」


「何が良かったっていうの?」


「駄目な部下という認識のままでは癪でしたので。」


「それは今も変わってないわよ。」


「ではその仕事を受ければ認識も変わるという事ですね?」


「・・・貴方自分で言っていることが分かっているの?」


「メルクリアさんが仕事じゃなくてお願いを言いに来たのは初めてですからね、それに応えなかったらエミリアになんて言われるか。」


そう言いながらエミリアの方を見る。


ほらみろ、言ったとおりだ。


あそこで断っていたら一週間ぐらい口をきいてもらえなかった所だ。


「ほんと嫌な男ね。」


「ならお願いは無しにしますか?」


「そんなこと言ってないわ。それとごめんなさい、気が立っていただけなの。」


「謝るのは私ではなくシルビアではないですかね。」


「私は気にしていない。メルクリア殿たっての願いだ、きいてやってくれ。」


「ご主人様でしたらこき使って頂いても問題ありません。」


「だってイナバ様にしかできないお願いなんですよね?」


「まったく貴女達夫婦と来たら。」


さっきまでの険悪な雰囲気はどこへやら。


いつもの感じに戻っていた。


とりあえず村の件は後回しだ。


まずはメルクリア女史たっての願いってやつを聞いてみようじゃないか。


「「「「お見合い?」」」」


「そうなのよ。先方が新しい元老議員でね、お母様も断れなかったみたいで。」


「出席するだけ出席して断るのではだめなのか?」


「ダメならその理由を言えと煩いのよ。メルクリア家に入り込みたいっていう魂胆が見え見えだから断りたいんだけど・・・。」


「断ればご当主様の立場が危うくなる?」


「いいえ、あの人は面白がっているだけ。娘二人が身を固めないものだから遊びたいだけなのよ。」


まぁあの人ならありそうなことだが、今回はどうも違うようだ。


スッパリ断ればいいのに断らない。


恐らく何か事情があるんだろう。


「で、私に何をさせたいんです?」


「恋人がいるという事にしたいんだけど、出てくれないかしら。」


「はい?」


「向こうも恋人のいる相手を無理に引き裂くことはしないと思うの。ほら、貴方の件であの法律が廃止になったでしょう?その流れもあってそういうのにはうるさいのよ。」


「話は分かりました。ですがどうして私なんです?」


「シュウイチさん」「シュウイチ」「ご主人様」「イナバ様」


全員がじろりと俺を睨む。


違う違うって、最後まで話を聞いてくれ。


「わ、私じゃないといけない理由が他にもありますよね?それを聞かせていただけますか。」


「貴方が一番納得させやすいのよ。今までの功績も仕事内容も王都での評判もね。」


「それだけじゃないですよね。」


「・・・相手がダンジョン商店の御曹司なのよ。つまりダンジョンの玄人。普通の相手じゃ太刀打ちできないの。」


「そういう事でしたらお受けします。」


「あら、随分とあっさり引き受けてくれるのね。」


別に嫁たちに睨まれたからじゃない。


ちゃんとした理由があって俺が選ばれたんだ。


それに応えたいと思ったからさ。


加えて俺の女に手を出す奴の顔が見たかったっていうのもある。


正式に発表したわけじゃないが、これを機に結婚させたいというご当主の思惑もあるんだろう。


ようは年貢の納め時というわけだ。


お互い大人だしな、子供のように色恋がどうの言う年齢じゃない。


もちろん好きか嫌いかで言われたら好きだ。


だがこの人とはそういうのとは別の何かで惹かれ合っている気がする。


それが分かっているからこそ、エミリア達も何も言わないんだ。


もちろんさっさと結婚しろとも言わない。


俺達のタイミングに任せて黙っていてくれるなんて本当に出来た嫁たちだよ。


「先に言っときますが式は挙げませんよ。エミリア達もまだなんですから。」


「仕方ないわ。」


「それと、関係は今と変わらず上司と部下です。」


「当たり前よ。結婚して贔屓してもらえると思わない事ね。」


「あと、順番は守ってください。エミリア達も結構揉めたんです。」


「その辺は諸先輩方に伺うわ、よろしく頼むわねエミリア。」


恋愛結婚出産の先輩という意味ではそうなるな。


それが一気に四人もだ。


まぁこの人なら問題なくやっていくだろう。


「お任せください。フィフティーヌ様と家族になれるなんて夢のようです。」


「未来がどうなるかはわからないのは私達も通った道だ。二年前のあの日、メルクリア殿と執務室で会った時には想像もしていなかった未来だからな。」


「本当ね。」


あの時は俺が騎士団に身柄を拘束されそうになったんだったっけ。


それでシルビアがメルクリア女史から書類を貰って正式に手伝う事になった。


そんなことも有ったなぁ。


「私だって今日こんな話を持ってこられるなんて想像もしていませんでしたよ。」


「そうか?私は想像していたけどな。」


「ご主人様がいつまでも煮え切らない態度を取るからこうなったのです。つまり自業自得という奴ですね。」


「それに関してはノーコメントで。」


「ふふふ、相変わらず尻に敷かれているのね。」


そしてこの人の尻にもね。


男とはそういうものだ。


むしろ俺が亭主関白に?


無理だね!


「同じように村長の話も受けてくれると助かるのだがなぁ。」


「それとこれとは話が別ですから。ですが、メルクリアさんの言う通り、やりもしないで断るのはどうかとも思います。だから話し合いましょう。」


「そうか!考えてくれるか!」


「話し合ったうえで納得できないのであれば答えは変わりません。私は村の一人としてこれからも力を貸します。」


それはもう村長と同じじゃないか。


そんな風にも思ったりもする。


すぐに受けなかったのは俺がビビっているのもあるんだ。


それに適当な理由をつけて先延ばしにする。


俺の悪い癖だ。


それで一年以上エミリア達を待たせたわけだしなぁ。


うん、この話は考えない様にしよう。


精神衛生上それがいい。


「貴方の事だから貴方の好きにしたら?ってこれからは私の事にもなるのかしら。」


「村長の奥さんになるんですよ。」


商家五皇ペンディキュラを継ぐよりかはマシだと思うけど。」


「あ、それは私も思いました。つまり継がなくてもいいってことですよね?」


「さぁそれはお母様に聞いて頂戴。」


いや、それは困る。


この人と結婚するのを躊躇していた事の一つがそれなんだ。


俺が商家五皇の末席につらなる?


勘弁してくれ。


俺はおとなしく商売をして暮らしていきたいんだ。


て今更な気がしてきたなぁ。


「えぇ全くその通りです。」


「今まで大人しかったことなんてあったか?」


「何をしても大事になった気がします。」


「それで助けてもらいましたので私からは何も・・・。」


「つまり悩んでも今更という事よ。お母様もその辺りは考えていると思うわ。」


「本当かなぁ・・・。」


絶対考えていないと思うんだけど。


まぁここまで言った手前やっぱりやめますとは言えないか。


「見合いはいつなんです?」


「予定では二週間後。」


「では先方には恋人がいるという事で断ってください。」


「会わせろと言ってきたら?」


「会うしかないでしょう。ただし、王都までは行きませんよ?会いたいなら会いにくればいい。」


「ふふふ、貴方のそういう所が好きよ。」


ん?


今なんて言った?


好きって言わなかったか?


気のせいだよな。


「フィフティーヌ様!」


「何よ、驚いた顔して。リュシアが驚いているわよ。」


「マッマ!」


「大丈夫、ちょっと驚いただけだから。」


「まさかメルクリア殿の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。シュウイチ、これは村長になるよりも大変かもしれないぞ。」


「私もそんな気がしてきました。」


つい勢いで会うなんて言ってしまったが、俺は大変なことをしでかしたんじゃないだろうか。


何とかなる。


何とかなる・・・よな?

これまで関係のはっきりしなかった両名ですが、これでやっとハーレム?入りのようです。

と言っても前途は多難。

はてさて何が起きるんでしょうか。

まぁくっついたところで今と何も変わらない結果は見えているんですが・・・。

全国に何人いるかわからないメルクリアファンの皆様。

やっと彼女の恋が実を結ぶようです。

温かい目で見守ってあげてください。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。

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[気になる点] あと一人は何時になるのやら(^_^;)
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