次の季節がやってくる
2020/4/17
大規模な加筆を行ないました。
それに伴い18章最終話が変更となっております。
ご了承下さい。
「ふぅ、随分と暑くなったな。」
「明日から夏節ですから、今年はいつもより暑くなるそうですので体調には十分に気を付けないといけませんね。」
「私の時は悪阻で大変でしたから・・・、お二人も十分に気を付けてください。」
「悪阻か。正直実感がないだけに早く経験したいものだ。」
「そう言っていられるのも今のうちですよ。」
馬車に揺られながら女性三人が会話に花を咲かせている。
いや、抱かれている子を入れたら四人か。
その様子をオッサン二人もとい父親とセミ父親が温かい目でそれを見ていた。
幸せだなぁ。
流れゆく景色が明るい緑から深い緑に変わっている。
そんな変化に気づかないぐらいに慌ただしい一期だった。
というか春節?
いや、いつもの事か。
この世界に来て一年以上。
一度もゆっくりした記憶がない。
いつも何かが起きて、その為に皆で走り回って、色々な人の力を借りて。
そうやって解決してきた。
どれをとっても俺一人の力で解決したことはなく、大勢の人達に背中を押してもらっていた。
そして、今回も。
流行り病にニッカさんの大病。
そのどちらも色々な人が関わってくれて、手を差し伸べてくれた。
そのおかげでこうしてみんなで村に戻ることが出来る。
有難い事だ。
「ニッカさんの調子はどうなんだ?」
「お陰様で随分と良くなったようです。むしろ前よりも元気でしょうか。」
「よかったじゃねぇか、これで安心して孫を抱かせられるな。」
「まったくです。一時はどうなる事かと思いましたよ。」
笑って話せるのもニッカさんが無事快方に向かっているからだ。
あの時間に合っていなかったらと思うとゾッとする。
でもそうならなかった。
だからタラレバの話はこれで終わり。
今は幸せな現実だけを見ていたいよね。
「私を心配させない為に病を隠していたのは百歩譲って許そう。だが、次はないぞ。」
「それはニッカさんに言ってくださいよ。」
さっきまで楽しそうに話をしていたシルビア様が少々ご立腹の顔をしながら会話に混ざってきた。
っていうか物理的に隣に座ってきた。
貸し切り馬車とはいえ狭いんですけど・・・いえ、なんでもありません。
「もちろん帰ったらたっぷりと文句を言ってやる。娘婿の口まで封じるとは何事だとな。」
「お手柔らかにお願いしますね、一応病み上がりなんですから。」
「孫の為でもあるんだ、こういった事はしっかりしておかねばならん。」
「ではあの時伝えた方が良かったですか?」
「いいや、シュウイチの選択は正しかった。だがそれとこれとは話が違うのだ。」
「イナバ様、元気になったからこそ言いたいことも有るんですよ。」
ご立腹のシルビア様をセレンさんがすかさずフォローする。
「あ~、だぁ!」
「ほら、セリスちゃんもそうだって言ってます。」
「その笑顔を見ると文句など言えなくなてしまうな。まったく、どうしてこんなに可愛いのだ。」
「決まってるだろ、セレンの娘だからだよ。」
「いいえ、ウェリスさんの娘だからです。」
全くこの夫婦と来たら、二人の娘だからに決まってるじゃないか。
しっかし可愛いなぁ。
「ふふふ、みんなメロメロですね。」
「当たり前だろ。」
「はいはい、その返答は聞き飽きた。村中の人間がセリスちゃんにメロメロだから親バカはそれぐらいにしておけ。」
「お前なぁ、そんなこと言えるのも今のうちだぞ。」
もちろんそれもわかっているさ。
だってエミリアとシルビアの子供だぞ?
男でも女でも絶対に可愛いに決まっているじゃないか。
あ、父親はこんな感じなので母親似でお願いします。
「シュウイチの子供か・・・。」
「ここにいるんですねぇ。」
やめて、二人そろって幸せそうな顔でお腹を撫でないで!
幸せ過ぎて死んでしまう!
そんな幸せオーラ全開で馬車は街道を走り続ける。
ちなみに今日は春節花期最終日。
明日から夏節が始まる。
今朝先生から流行り病の終結宣言が出たので、慌てて砦まで皆を迎えに行ったのだ。
ちなみに今はその帰り道である。
「村に戻った後はどうするんだ?」
「店に戻りますよ。ユーリが首を長くして待っていますからね。」
「ニケさんとユーリにはたくさん無理を言ってしまいましたし、戻ったらゆっくり休んでもらいましょうね。」
「そうだな。ニケ殿は晴れて奴隷から解放されるわけだし、休暇を与えるのはどうだろうか。」
「実はそれについてもお話したんですけど・・・。」
ふと昨夜の事を思い出す。
休息日なのでお店は休みだったが、連日の大盛況で仕事が片付かず一日中後片付けに追われていた。
ホワイト企業であるシュリアン商店としては(というよりも商店連合が)休日出勤できないので、あくまでも自主的なお片付けという事にしてある。
ぶっちゃけ俺だけでも良かったんだけど、ユーリとニケさんが手伝うと言ってきかないので半ば押し切られる形で仕事を手伝ってもらっていたんだけども。
それでその夜の事だ。
「明日で春節も終わり、夏節になったらニケさんも奴隷から解放されますね。」
「本当によろしいのですか?あんなに高いお金で買って頂いたのに・・・。」
「そういう約束でしたから。というか、私がそうしたいんです。」
「本当に有難うございます。」
片付けも無事に終わり、食事を済ませた俺達はいつものように香茶を飲みながら談笑していた。
ちなみに昨夜はユーリのお手製ブレンドだ。
「ご主人様、お祝いはなさらないのですか?」
「いい考えですね、皆が戻って来たら纏めてお祝いしましょうか。」
「それがよろしいかと。」
まだ出産していないのにお祝いというのもあれだが、子供が出来ただけでもめでたい事に変わりはない。
纏めてっていうのはあれかもしれないけど・・・。
ってそうだ!
「そうだ、解放されるにあたって聞いておきたいことがあるんでした。」
「なんでしょうか。」
「奴隷から解放されることによりニケさんは自由になります。シュリアン商店としては雇用契約を結び引き続き働いていただければと思っているのですが、どうでしょうか。」
「もちろんそのつもりです。他の所になんて行くはずありません。」
まぁそういうと思っていたけど、こんなことを聞いたのには別の理由があるんだよね。
「ありがとうございます、条件については夏節になったら改めてお話しするつもりですので今しばらくお待ちください。あと、それとは別に休暇を取ってもらおうかな、なんて考えているんです。」
「休暇ですか?」
「流行り病が終息すればエミリア達が戻ってきます。せっかく自由になるんですから、そういう時間があってもいいかなと思うんですけど・・・。いかがですか?」
「お気遣いいただいてありがとうございます。でも、大丈夫です。」
「別にお店の事は気にしなくていいんですよ?」
「今までも好きな事をさせてもらっていますし、行きたい場所もこれと言ってありませんから。むしろ、奴隷でなくなった私がこの家にいることがお邪魔ではないでしょうか。」
おっと、まさかの質問が返って来たぞ。
確かに奴隷だから一つ屋根の下に暮らしていたけれど、自由になったらそれを強制する必要はないのか。
全然考えてなかったな。
「邪魔だなんて、そんなことありません。」
「その通りです。」
「でも奥様方もおられるのに他の女がいるというのは・・・。」
「ならばニケ様も結婚してしまえばいいのです。」
「はい?」
「家族になればその心配はなくなります。そもそもダンジョン妖精である私が同居している時点で邪魔なのですからニケ様は何も心配する必要はありません。」
まったく、何を言い出すんだ。
ニケさんと俺が結婚?
いくらなんでもそれは暴論過ぎるだろう。
結婚したりしなくても家にいてもらう事に何の問題も無いんだからさ。
「いやいや、ユーリも邪魔なんかじゃありませんよ。」
「ご主人様が望まれるならダンジョンで寝泊まりしても問題ありませんが?」
「そんなことをしたら二人に怒られてしまいます。というか、望むはずがありません。」
「そうですよ!ユーリ様が出ていくよりも先に私が出て行きます。」
だから出ていく必要なんてないんだってば。
まったく、困った人だなぁ。
「ですからニケ様はご主人様と結婚していただければ出ていく必要はないのだと・・・。」
「ならユーリ様も結婚しましょう!」
「はい!?」
「なるほど、そうすればこれまで同様過ごすことが出来ますね。」
「いやいや、結婚してなくてもずっと一緒にいたじゃないですか。」
「それはつまり私とは結婚したくないという事ですね?」
どうしてそうなるんだ!
全く意味がわからないよ!
その後二人から結婚を迫られるも何とか保留という形で落ち着かせた。
嫁のいないところで女性二人(一人は人造生命体だが)に迫られるとか、勘弁していただきたい。
「・・・と、いう事がありまして。休暇については不要との返答でした。」
「それでシュウイチは答えを出さなかったのか。」
「さすがに二人のいない所で返事なんかできませんよ。」
「別に気にすることは無いんだぞ?お前が望むのであれば嫁が増えても私は構わん。」
「誰彼問わずというのは嫌ですけど、お二人なら私も賛成です。」
「おーおー、いいねぇモテる男は。」
「うるさい、ちょっとだまってろ。」
横で茶化してくるウェリスの頭を叩こうとしたが華麗にかわされてしまった。
畜生。
とおもったら俺を茶化したことをセレンさんに咎められている。
ざまぁみろ!
「それに、私達の次は二人だと約束したからな。妾よりも正妻の方が世間の目としてもいいだろう。」
「私もそう思います。」
「つまり選択肢はそれしかないという事ですね。」
「なんだ嫌なのか?」
「嫌なんて言ってません、むしろ私でいいのかと・・・。」
俺みたいな中年サラリーマンに美人の奥さんが四人とか、元の世界だったら晒されるか刺される案件だぞ?
「まだそんなこと言っているのか。」
「シュウイチさんなら大丈夫ですよ。」
「俺には二人が精一杯だが、お前なら何人でも大丈夫だろう。」
「私もそう思います。イナバ様でしたら絶対に皆さんを幸せにして下さるでしょう。」
セレンさんまで賛同するとは思いもしなかった。
俺なら大丈夫。
みんなそういうけどその根拠は一体どこから来るんだろうか。
「そうとなったらさっさと帰って二人を喜ばせねばならんな。」
「ニッカさんはいいのか?」
「シルビア様も本当はわかっているんです、仕方なかったんだって。」
「終わったことを今更言った所で何も変わらん。それよりも変わる方に力を注ぐべきだ。」
「美味しいお料理いっぱい作りますね。」
「そいつはいい、セリスの誕生祝いももう一度してやろう。」
「「「お~!」」」
俺がどれだけ悩んでいても、周りのみんなが手助けしてくれる。
これまでも、そしてこれからもそうやって過ごしていくんだろう。
ワイワイとはしゃぎながら村へと戻ってきた俺達だったが、それを迎えたのはそれ以上に盛り上がっていた村の人たちだった。
おそらく、いや間違いなく村の全員が馬車の待機所に集っている。
馬車が見えた途端に歓声が大きくなり、近づくにつれそのボリュームが上がる。
その勢いに俺達全員がのまれてしまった。
まさかこんな大歓迎を受けるとは想像してなかったぞ。
「おかえりなさい!」
「シルビア様!エミリア様!懐妊おめででとうございます!」
「セリスちゃ~ん会いたかった~!」
「セレンさんおかえりなさい。」
「アニキ~さみしかったっすよ!」
「いや、アニキはずっと村に居ただろうが。」
「え、そうだっけ?」
なんていうかお祭り騒ぎだな。
停車した馬車を村の人たちが取り囲み、降りた瞬間にもみくちゃにされた。
いや、されたのは俺とオッサンだけで女衆の皆さんは優しく四人を迎え入れている。
この差はなんだ?
解せぬ。
「お前達落ち着かんか。」
そんなハチャメチャな状況だったのだが、ある人が一声かけるだけで取り囲んでいた村の人たちがモーゼのように割れていく。
こんな声が出せるまで元気になって・・・。
本当に嬉しいなぁ。
「ニッカさん!」
「すみません、つい・・・。」
「気持ちはわかる、だがイナバ様が困っているではないか。」
ニッカさんに叱られ子供のようにシュンとする男衆。
やっぱりこの村の父親だよ。
この人が居ないと始まらないよね。
そのまま真っ直ぐに俺達の方に向ってきたかと思うと、その途中で立ち止まり深々と頭を下げるニッカさん。
それに釣られるように村人全員が頭を下げた。
顔を上げ真っ直ぐに俺を見つめる。
「イナバ様に助けられるのはコレで何度目でしょうな。」
「何度目とかは関係ありません、私もこの村の一員ですから何かあれば助けるのは当然ですよ。」
「本来であれば私がしっかりとしなければならないのですが、老いには勝てませんでした。」
「でも、ニッカさんは戻ってこられた。それで良いんです。」
「それもイナバ様のおかげです。」
「違いますよ、薬草を見つけてくれたのも、肝を取ってきてくれたのも私ではありません。沢山の人が手を貸してくれた結果です。」
「また、そう仰るんですから。」
「本当のことですよ。」
俺一人の力じゃない。
勿論俺も走り回ったが、俺一人じゃどうにもならなかった。
コレまでもそうだったし今回もそうだ。
でもそれが悔しいとか思わない。
誰かの力で誰かが助かるのならそれで良いじゃないか。
「さぁいつものやり取りはコレぐらいにして・・・。」
俺は後ろを振り返りシルビア様を見た。
それに気付きはっとした顔をするシルビア様。
だがすぐに表情を戻し俺の横に立つ。
「シルビア、言う事があるんですよね。」
「あ、あぁ・・・。」
シルビア様も分かっている。
分かっているけれど、言わなければいけない事がある。
さっきは軽く流していたがこういうのはしっかりしておかないと後で後悔する事になるだろう。
「・・・心配をかけたな。」
「騎士団に入った時から父上の死に目には会えないだろうと覚悟をしていた。むしろ私が先に死ぬかもしれないとも思っていた。だがそれは状況が許さないからの話だ。今回のようにどうにかなるのにも関らず自分だけが何も知らず、後になってそれを知らされる。これほど悲しいことは無い。」
「そうだな。」
「いずれその時がくるのは避けられない。だから今、約束してくれ。もう二度と私に隠さないと、私だけじゃないシュウイチやこの子にも約束してくれ。」
そういいながら自分のお腹を優しく撫でる。
その仕草にニッカさんの表情が一気に崩れた。
さっきまで普通にしていたのに、涙が一気に溢れてくる。
「例え看取れないとしても知らないよりかは何倍もマシだ。違うな、その時が来たら全員で見送ろう。この子だけじゃないもっと多くの孫に囲まれて旅立つんだ、これほど幸せな事は無い。今回は母上にまだ早い、そう言われたのだろう?」
返事はなかった。
だが何度も頷き涙を流すニッカさんをシルビア様がそっと抱きしめる。
その様子に思わず俺も涙が溢れてきた。
ニッカさんが生きていて本当に良かった。
頑張ってよかった。
シルビア様が悲しまなくて、本当に良かった。
人はいずれ死ぬ。
遠くない未来にその日はやってくるだろう。
そうだとしても皆で見送る事ができたのなら、それで十分だ。
俺達だけじゃない村の人全員で見送ればニッカさんも寂しくない。
二人が涙を流し抱き合う姿に村の人達も涙を流し、そして喜んだ。
「なぁ、お小言は言わないんじゃなかったのか?」
「今それを言いますか?」
「いや、ついな。」
「そんな事言ってるからセレンさんに怒られるんですよ。」
感動のシーンを茶化してくるウェリスだったが、セレンさんに背中をつねられていた。
ざまぁみやがれ。
「さぁ、悲しい顔はもう終わりだ!皆村の危機をよく耐えてくれた、父に代わり礼を言わせてくれ。本当に有難う。」
まだ涙を流すニッカさんの代わりにシルビア様が頭を下げる。
俺も慌てて頭を下げた。
「明日から夏が来る。それが過ぎれば秋、収穫が終われば冬が来る。そして来年の春にはセレン殿のように新しい命が産まれる事だろう。なんせシュウイチが居るんだ、この村はこれからどんどん変わっていくぞ。これからも皆には沢山迷惑を掛けると思うが、どうかついてきてほしい。」
「任せてください!」
「ニッカさんにもまだまだ頑張ってもらいますよ!」
「アニキ!二人目まだっすか!?」
「バカヤロウ今それを言うな!」
みんなの笑い声が村中に響き渡る。
明日はいよいよ報告日だ。
この一年の頑張りを胸を張って報告する日。
それが終わればまた新しい目標に向かって一年走り続ける事になる。
それが例えどんなに大変な一年だろうとも。
俺達なら絶対に超えられる。
新しい家族も増えるんだ、こんな所で止まってなんていられないよな。
進んで進んで進み続けて。
最後の最後に笑顔でいられたらそれでいいじゃないか。
この一年はその最初の一歩。
長い長い、旅の始まり。
イナバシュウイチ。
これからも他力本願全開で頑張らせて頂きます!
本来であればこの話で終わっていたのですが、
どうしても書き直したくてもう一話追加させていただきました。
最初の投稿よりも話も少し変わっております。
当日お読みいただいた方には困惑させてしまいますが、どうかご了承下さい。
次で最後になります。
彼らの物語にもう一度だけお付き合いください。
ここまでお読みいただきまして有難う御座いました。
また次回もよろしくお願いいたします。




