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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第十八章

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村中の声が聞こえたはずだ

朝になってもガンドさん達が戻ってくることは無かった。


商店の地下室で今どのあたりにいるかは大体把握できているものの、今だ討伐には至っていないようだ。


今は15階層付近をうろうろしているとついさっきユーリが報告してくれた。


用意した料理もすっかり冷めてしまったなぁ。


「おはようございます・・・。」


「あ、シャルちゃんおはよう。ティオ君は?」


「まだ寝てます。」


眠たい目をこすりながらシャルちゃんが二階から降りてくる。


気づけば外が明るくなっていた。


別室で仮眠をとっているニケさんもじきに起きてくることだろう。


「香茶淹れるけど飲む?」


「あ、いただきます。」


また大きなあくびを一つ。


あまり眠れなかったのかもしれないな。


席についてもまだ目をこすっている。


そんなシャルちゃんには香茶にミルクと蜂蜜を入れた特製ブレンドを用意してみた。


一口飲んだ瞬間に耳がピンとまっすぐになる。


顔は口ほどに、いや耳は口ほどに物を言うようだ。


「美味しいです!」


「それはよかった。朝ごはんも出来てるからお腹がすいたら食べていいからね。」


「これ全部イナバ様が作ったんですか?」


「んー、八割ぐらいは?」


「それでもすごいです!」


やめてくれ!そんなに純粋な瞳で俺を見ないでくれ!


と、言いたくなるようなまっすぐな瞳。


穢れを知らないなんてことは言わないが、純粋であることは間違いない。


「ちょっと冷めちゃったけど焼いたパンに挟めば美味しいと思うよ。焼いておくから先に顔を洗っておいで、布は横においてあるやつを好きに使っていいからね。」


「は~い。」


一気に香茶を飲み干して裏口へと駆けていくシャルちゃん。


子供が生まれたらこんな感じなんだろうか。


いや、もしかすると臭い!とか汚い!とか言われる可能性もある。


ぐぬぬ、そうならないでほしいなぁ。


「それは全てご主人様の行動次第ではないでしょうか。」


「私のですか?」


「嫌われ無ければ済むだけの話です。」


いや、そうは言いますがユーリさん、それがかなり難しいんですよ?


人間の遺伝子的に食い込まれているらしいし。


っていうかいるならさっさと会話に混ざろうよ。


「そう簡単に言いますが、父親と娘ってかなり複雑・・・らしいですよ?」


「ご主人様にはご経験が?」


「あるわけないじゃないですか。」


「つまりそれは経験に基づかない知識という事になります。そのようなものに振り回されるとは情けない。」


「それはユリウスト氏の考えですか?」


「そうです。経験に基づいていない知識など空想と同じです。」


おのれユリウストめ。


わるかったなぁ、知識馬鹿でさ!


「これから経験すればいいではないですか。」


「二人とも息子かもしれませんよ?」


「では私達が娘を産みましょう。いえ、奥様方が産むかもしれません。」


いったい何人産むつもりなんでしょうか。


サッカーチームでも作るの?


「サッカーチームが何かは存じませんが、一人三人と考えて十二人になると思われます。」


なんだか前にそんな話しましたね。


ダース単位だそうですよ、奥様。


子育て大変だわ。


なんて家族計画を話していたその時だった。


「イナバ様!」


大きな音を立てて誰かが店に入ってくる。


驚いて飛びあがりそうになってしまった。


慌てて振り返るとそこにいたのは冒険者・・・ではなく村の男衆の一人だ。


嫌な予感しかしないんだけど。


やめてくれよ?


「先生がすぐにお会いしたいとの事です!」


「ニッカさんは?」


「依然意識は戻っていません。先程先生が到着しましたが私はイナバ様を呼びに行くように言われましたので・・・。」


「わかりましたすぐ行きます。」


よかった。


最悪の知らせではなかったようだ。


詳しい状況を聞きたくて先生が呼んだって感じだろう。


「という事ですので行ってきます。」


「行ってらっしゃいませ、後はお任せを。」


「もしガンドさん達が戻って来ましたら、胆だけでも運んでもらってください。」


一刻の猶予もないって可能性も高い。


いちいち状況を聞きに帰るぐらいなら持ってきてもらう方が断然はやいからね。


先を行く男衆の背中を追いかけて早朝の街道を走る。


一体昨日から何往復しているんだろうか。


その度に俺の心は乱れたり落ち着いたりしていて大忙しだ。


村へと駆け込んだその足でニッカさんの家へと向かう。


昨夜同様に家の周りは大勢の村人に囲まれていた。


「イナバ様が来たぞ!」


「おい、道を開けろ!」


モーゼの如く開いた隙間を通り抜けて家の中へと飛び込む。


するとちょうど奥の部屋からウェール先生が出てきたところだった。


「先生!」


「あぁ、君か。朝早くから呼び出して済まないな。」


「どんな感じですか?」


「あの時見つけられなかった血栓が出来ているようだ。それが一時的にだが血管をせき止めたんだろう。今は正常だが次また同じようになるかはわからん。」


「意識はもどりそうですか?」


「それも奴次第だ。」


つまり何とも言えないという事だろう。


放っておけば再び同じようなことが起こり、次はない。


仮に起こらなかったとしても目覚めない可能性もある。


そのどちらの場合もニッカさんが孫を抱くことは出来ないというわけだ。


「そっちはどんな感じだ?」


「昨夜発見の報告が上がり、ガンドさん達がダンジョンに潜っています。挟み込むようにして捜索していますのでいずれは確保できるでしょうが、それがいつになるかは断定できません。」


「そうか・・・。」


報告が上がったと聞いて一瞬表情が明るくなったオッサンだが、再び暗い顔に戻る。


意識が戻るかわからないと聞けばそうなるのも仕方がないよな。


「薬草はそろったそうだな。」


「はい、昨日準備できまして昨夜先生に言われた方法で処理した後摂取してもらいました。」


「今日の朝の話じゃ幾分か気分が楽になったらしいぞ。」


「それはよかった。」


「このまま様子を見て二三日で症状が改善するようであれば安心だろう。念の為に隔離は継続してくれ。」


「わかった。」


流行病の方は無事に何とかなりそうだ。


他の女衆から体調不良の報告は無し。


このままいけば予定通り夏までには完治の運びとなるが・・・。


エミリアとシルビアたちが戻ってきても、そこにニッカさんが居なかったら何の意味もない。


「後はニッカさんだけか。」


「胆が手に入ればすぐにでも治療できるんですよね?」


「あぁ、必要な材料と器機は運んできた。後は適切に処理をして摂取させるだけだが・・・。」


「何か問題でも?」


「経口摂取出来ないとなると、難しいかもしれん。」


無理やり摂取させるわけにもいかないわけか。


でも意識が戻らないとなるとそれも出来ないわけで・・・。


胆がそろってもダメじゃん!


「一先ず先生は調合の準備だけお願いします。手に入り次第持ち込みますので。」


「わかった。」


「なぁ、嫁さんにはなんていうつもりだ?」


ってこのタイミングでそれを聞く!?


空気読めよオッサン!とはさすがに言えなかった。


何故なら極めて重要な話だからだ。


「今は何とも・・・。」


「このまま黙っておくのか?」


「言いたいのは山々ですが、今戻せば流行り病に感染しない保証はありません。薬草は残り一つ、他に感染した人が出ないともわからない状況で呼び戻すことなんてできませんよ。」


そう、俺だって好きで黙っているわけではない。


ニッカさんとの約束も次があればシルビア様に教えるという物だった。


だが状況がそれを許さない。


今シルビア様に伝えようものならまっすぐにここに来てしまうだろう。


そうなれば先ほども言ったように感染のリスクが高まり、それだけでなくシルビア自身が病に倒れてしまうかもしれない。


それだけじゃない。


お腹にいる子供も危険に晒すことになる。


それを脅しに来るなというのは簡単だが・・・。


出来ればというか絶対にそれはしたくない。


だからあえて言わない方を選ぶ。


そうすれば責められるのは俺だけで済むからだ。


「すまん、悪い事を聞いた。」


「いえ、大切な事ですから。」


「一先ず私はここで調合の準備をさせてもらおう、君はどうする?」


「ここで待たせてもらおうかと思いましたが、一度戻ります。」


「それがいだろう。肉親ではないとはいえ意識の無い家族を見るのは辛いからな。」


俺の心を見透かしたように先生が頷いた。


そうなんです。


大丈夫と思ってたんですけど、状況を聞けば聞くほどこの場にいるのが怖くなる。


もし息を引き取る瞬間なんかに立ち会ってしまったなら。


いや、そんなこと考えちゃいけない。


いずれその時は来るけれど、それは今じゃない。


見送る時は全員で見送ってやるんだ。


だから死ぬなよ、ニッカさん!


外に出ると不安そうな村の人達がすがるように俺を見てくる。


「今の所小康状態ですが先生が来てくださったので大丈夫ですよ。薬ももうすぐ手に入ります、いつものようには難しいかもしれませんが、私達に出来ることをいつものようにこなしましょう。それがニッカさんの望みでもあると思います。」


あたかも知ったような口ぶりだが、今はこう言ってあげた方が皆も安心するだろう。


その証拠にホッとした顔をした人がたくさんいる。


「そうだよな、こんな事で手を止めたらニッカさん悲しむよな。」


「戻ってきた時に麦の成長を見て驚かせてやるか。」


「それがいい!去年以上の実りを見せてやろうぜ!」


「僕もやる!」


一人また一人と声が上がる。


子供も大人もここに来れない女衆もみんなニッカさんを心配している。


心配しているからこそ、心配を掛けたくない。


今出来ることをしよう。


俺がこの世界に来て心掛けてきたことが、少しずつ皆に広がっているのがうれしかった。


バラバラと散らばっていく村の人達と共に俺も店へと戻ろうとした、その時だった。


「おーーーーい!」


誰かが手を振りながらこちらに走ってきた。


その反対の手には別の何かを大事そうに抱えているようだ。


このタイミングで店から人が来るなんて理由は一つしかない!


「ここです!」


「見つかりましたよ!ボログベアの胆です!」


ほらやっぱり!


横にいた村の人と肩を叩き合って大喜びする。


こんなにも嬉しい事が今まであっただろうか。


大騒ぎしている所に息を切らした冒険者が駆け寄ってきた。


いつもの人じゃない、若い冒険者だった。


「これをお願いします!」


「ガンドさん達は?」


「皆さん先に店に戻りました、俺はこれを届けるように言われて・・・。」


「ありがとうございます!えぇっと・・・。」


「俺の事はいいですからどうぞ行ってください!」


「はい!」


お礼なんて後で言えばいい。


差し出された胆を両手でしっかりと受け取るとわき目も振らず走り出した。


間に合え。


それだけを考えて歓声を上げる村の人達の横を通り抜け、


「先生!胆が見つかりました!」


ドアを勢いよくあけて大声で知らせる。


「おい、やったな!」


「すぐに貸したまえ!」


駆け寄ってくるオッサンを押しのけて先生に胆を手渡す。


革袋の中から取り出すと、それはまだほんのりと温かかった。


「うむ、鮮度も申し分ない。良い仕留め方をしたようだ。」


「何か手伝えることは?」


「お湯を用意してくれ、それにこの瓶を浸して・・・。」


「煮沸消毒ですね、わかりました!」


「お、俺は?」


「オッサンは何としてでもニッカさんを起こしてください。」


「いや、無茶言うな!」


「無茶でも何でもするんです!ここまでして飲んでもらえませんでしたじゃ、村のみんなに恨まれますよ!」


「恨まれるの俺かよ!」


オッサンが横で文句を言っているが知ったこっちゃない。


大勢の人に助けられてここまで来たんだ。


それがここで潰えるとか、そんなこと許されるはずがない。


だから一瞬でもいい、目を覚まして薬を飲んでくれ。


「いいからはやく!」


「胸だけは叩くなよ、それ以外は何をやっても大丈夫だ。」


「わ、わかった!」


ドタバタと言う音がしたかと思ったら今度はニッカさんの寝る部屋でガシャンと何かを床に落とす音が聞こえる。


オッサンも大慌てだな。


って俺もだけどさ。


「大丈夫だ、こんな状況でも約束を破る男ではないよ彼は。」


「はい。孫を抱いてもらうと約束してもらいましたから。」


「そうだ。だから我々はその約束の為に動くだけだ。器機の消毒が終わったらこの薬草をすりつぶしてくれ、私は胆の処理を続ける。」


「はい!」


それから何をどうやったのかは記憶が定かではない。


ただひたすら先生の指示通りに手を動かして薬の準備をし続けた。


その間中、外からはニッカさんを励ます声が聞こえていたような気がする。


恐らくオッサンの呼びかける声が外にも聞こえていたんだろう。


その声は絶対にニッカさん耳にも届いていたはずだ。


「出来たぞ!」


「お!?ニッカさん、聞こえるかニッカさん!」


薬が出来たと同時に奥の部屋からオッサンの素っ頓狂な声が聞こえてきた。


先生は薬の入ったフラスコをひったくるようにして持つと目にもとまらぬ速さで部屋へと駆け込んだ。


その後ろを慌てて追いかけた時には、起こされたニッカさんの口に薬の入ったフラスコが突っ込まれていたわけで・・・。


まるでコントのような状況に思わず笑ってしまいそうになる。


だって、漫画みたいに口からフラスコが生えて・・・。


そんなことを思っているとニッカさんがゲホヘホと咽せてしまった。


その背中を先生が優しく撫でてやる。


暫く咽た後にニッカさんが大きく息を吐くのが分かった。


「ニッカさん?」


「・・・まさか寝起きすぐにこんなまずい薬を飲まされるとは思いもしませんでした。」


「わかるか?わかるんだな!?」


「ドリス、少々声を抑えてくれ、うるさい。」


「起きた!おい、ニッカさんが起きたぞぉぉぉぉ!」


ニッカさんの返事を確認するや否やオッサンが大声を出して外へと飛び出していく。


歓声がより大きくなった。


「先生、いかがですか?」


「多少むせたが全部飲んだはずだ、これで一安心だろう。」


「よかった・・・。」


余りの安堵にその場に座り込んでしまう。


まだ苦しそうなニッカさんを先生がベッドに横たえ、先生もまた大きく息を吐いた。


「まったく、死ぬなら俺のいない所で死ね。知人の死に目に会うのは二度と御免だ。」


「それが、患者に言う、言葉ですか?」


「だが死ぬのは孫を抱いてからだ。何人抱くかは知らないがな。」


多分沢山抱くことになるだろう。


実の娘だけでなく他にも嫁が多いものでして・・・。


「イナバ様・・・。」


「はい!」


横になったままニッカさんが俺を呼ぶ。


その声に慌てて起き上がり、ベットの傍に駆け寄った。


「村は・・・?」


「薬は手に入りました。流行り病も無事に収まりそうです。」


「ご迷惑を、お掛けしましたな。」


「そんなことありません。今回も沢山の人に助けてもらいましたから。」


俺一人の力じゃない。


皆の力でこの困難を乗り越えたんだ。


ニッカさんの耳にも聞こえているだろう。


家の外から聞こえてくる村中の歓声が。


「ありがとうございます。」


「何もかも大丈夫ですから今はゆっくりとお休みください。」


それを聞くと安心したようにニッカさんは微笑み、息を吐いた。


そしてそのまま眠るように・・・。

どうやら無事に間に合ったようです。

一時はどうなる事かと思われましたが、今まで関わってきた多くの人の手助けにより

こうして今回も無事に収まったようです。

一人の力は小さくても、大勢の力が加われば大きなことを成し遂げられる。

他力本願を地で行く彼はこの先も変わらないのでしょう。

もちろんいい意味でですよ。


さてさてあと一話で今章もおしまいです。

薬は無事に間に合いましたあとの後どうなったのでしょうか。

それはまた次回という事で。

ここまでお読みいただきありがとございました。

また次回もよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の文、そのまま息を引き取りそうなんですが(恐怖
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