願いは届く
「ナーフさん!」
そう、そこにいたのはシュリアン商店に一番最初に来た冒険者。
とはいえ、冒険者だったのはその時だけですぐに別の仕事を始めたんだけど・・・。
その仕事は何かって?
「何やら大変なことになっていると聞き参りました。」
「ちょうど私もお会いしたいと思っていた所です。どうぞ奥へ。」
立ち話もあれなのでそのまま奥へと誘導する。
外はもうすぐ夜になる。
それなのにこんな場所までわざわざ来てくれたのか。
有難い話しだ。
席に着くとすぐジルさんが冷たい水を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。」
「ではイナバ様私達は・・・。」
「えぇ、後の事はお任せください。」
「必ずやいい結果をもって帰ってきましょう。」
綺麗なお辞儀をしてジルさんが冒険者たちの所へと戻る。
恐らくガンドさんとジルさんが上下階に分かれて進行し、その補佐を他の皆さんがして下さるのだろう。
ベテランの皆さんに任せておけば大丈夫。
大丈夫だ。
「ニッカ様も中々に大変だとか。」
「そんなことまでご存じなんですね。」
「シャル様に色々とお話を伺いまして、イナバ様の件もその時に。」
そう言いながらおもむろにかばんを取り出し、がさがさと何かを探し出すナーフさん。
そして取り出されたのは見たことのある植物だった。
「まさかこれは・・・!」
「お探しの薬草かと思われます。詳しい名前や種類の情報が無かったものですから推測になりますが、文献によると過去に発生した特殊な病を治すのに使われたそうです。」
「間違いありません、今日手に入れた薬草と同じものです。」
そう言いながら俺も魔術師ギルドで手に入れた薬草を机の上に置く。
それぞれの前に同じ色、同じ葉の形をした薬草が並べられた。
「よかった。こんなこと言いながら間違っていたらどうしようかと思っていたんですよ。」
あはははと笑いながら恥ずかしそうに後頭部を掻くナーフさん。
いや、今はNEWナーフさんなんだっけ?
昔から薬草探しは得意だと言っていたけれど、まさか冒険者達が血眼になって探しても見つけられなかったコレを見つけてくれるとは・・・。
「お譲り頂けるのですか?」
「えぇ、その為に持参しましたから。シャルさんをはじめ村の皆さんには色々と助けてもらっていますので、せめてもの恩返しです。」
「有難うございます、今お代を・・・。」
魔術師ギルドではまともに支払いをしていないので資金はある。
だが、ポケットから財布を取り出そうとした俺をナーフさんの手が制した。
「いえ、これはお譲りします。」
「ダメですよ。これは取引です、商人同士こういった部分はしっかりしておかないと。」
「えぇ、商人同士でしたらそうでしょう。ですので今回は友人としてお譲りしたいと思っています。一年前のあの日、無理をして助けて下さらなければ私がここにいることはありません。あの日の恩を返したい返したいとずっと思っていたんです。だから受け取ってください。」
「そんな、それは当然の事をしただけの話で・・・。」
「あ、友人だなんておこがましかったですかね。知人、いや、知り合い?取引相手じゃ商売になってしまいますし。」
突然の申し出にどうすればいいだろうと悩んでいた俺と違い、ナーフさんは全く事件の違う所で悩み始めてしまった。
こういう所は一年前と何も変わらないなぁ。
「もちろん友人ですよ。でも本当にいいんですか?正直に言ってかなり高価な品です、かなりの損失になりますが。」
「それはイナバ様のような仕入れを行う方の考えですよね。私の場合はその土地にあるものをタダで頂いていますから、初めから損失なんてないんです。拾ったものをお渡しするだけですから。」
「いや、それはそうですが。」
「ですからどうぞお気になさらず。むしろたったこれだけではまだまだ恩を返しきれていません。」
これでもまだ足りないというのかこの人は。
まいったなぁ。
「シャルちゃんの件でも非常に助かっています。ナーフさんからの仕入れが無ければあそこまで繁盛することは無かったでしょう。」
「いえ、あれはシャル様自身の実力です。ポーションを拝見しましたが、いくら素材が良くてもあそこまで純度が高くまた効果の高いポーションを作る事はなかなかできませんよ。素材を提供した身としても鼻が高いです。」
「王都でも凄い人気ですからねぇ。」
二人してアハハハと声を出して笑う。
終始和やかな雰囲気ではあるが俺はどうにかしてだ代金を渡そうと考えを巡らせていた。
だが、無理だった。
終始にこやかな笑顔で俺の作戦を見事にかわし、最後まで代金受け取らないナーフさん。
今度別の形で恩返しするとしよう。
「では今回は、ありがたく頂戴させていただきます。」
「ふぅ、やっと諦めてくれましたか。」
「不本意ながらですが、でも本当に有難うございます。何とか一つは確保できたのですが、他は中々見つからなくて、これであと一つになりました。」
「二つ探されていたのですか?」
「正確に言えば四つですが、予備も含めてなので必要数は三つです、なのであと一つですね。」
「わかりました、ではこちらを。」
再びカバンを漁り取り出したのは同じ薬草。
それも二つだ。
「え?」
「三つあれば足りますよね?と言いますか三つしか持っていないのでこれ以上となるとまた探し回る必要がありますが・・・。」
「そんな三つもなんて!それこそ代金を支払わないと!」
「それはさっき終わった話ですよ、イナバ様。」
ぐぬぬ、流石に三つも頂戴するわけには・・・。
「ご主人様、いい加減しつこいのではないでしょうか。」
「ですが三つとなると、金貨3枚近い価値があるんですよ?」
「ですが元手はかかっておりませんとナーフ様も仰っていたではありませんか。」
「元手はかかっていなくても労力はかかっています。」
「まったく融通の利かない主人で申し訳ありません。」
何俺の代わりに頭を下げているのかなこのダンジョン妖精は。
「そこがイナバ様の良い所ですから。普通の商人でしたら笑顔で受け取って終わりですよ。」
「いやいやそれはさすがに。」
「ともかく、薬草を三つ確かに納品しました。これで村の皆さんを救ってください。」
「確かに頂戴しました。本当に、本当に有難うございます。この恩は別の形で必ずお返ししましょう。」
机の上に並べられた薬草は計四つ。
どうにもならないと思っていたのに、まさかこんな簡単に集まるとは朝の俺は思いもしなかっただろう。
持つべきものは友人、いや恩人と行った所だろうか。
この人が昔不幸の塊のような人物だと誰が思うだろう。
旧ナーフさん。
あれは本当にひどかった。
「これからが大変だと思いますが何かあれば遠慮なくおっしゃってください。微力ながらお手伝いさせていただきます。」
「微力だなんて、十分大きな力ですよ。」
なんせシャルちゃんの店が繁盛できているのはナーフさんが大量に薬草を持ってきてくれるからだ。
それが無ければあれだけのポーションを準備することは出来なかった。
そしてこの薬草もだ。
これを微力と言ってしまったら俺なんて何もしてないことになる。
いや、実際何もしてないわけだけど。
見つけてきた薬草もリュカさんが居なかったら手に入らなかったわけだし。
「これであと一つ、ニッカ様の薬だけですね。」
「それもジルさん達が何とかしてくれるはずです。一時はどうなる事かと思いましたが皆さんのおかげで何とかなりそうですね。」
「これで奥様方も安心して戻って来れるでしょう。」
先生の話では隔離が早かったお陰で感染は食い止められているとの事。
症状が治まり二週程様子を見て再発しなければ他に感染する心配はないらしい。
薬草は確保できたので明日には投与できるはずだ。
それから様子を見て二週間となると・・・ちょうど休息日の辺りか。
ギリギリ夏節には間に合うって感じだな。
最終日は全員で迎えたい。
その希望は何とか叶いそうだ。
「それじゃあ行ってくるぜ!」
後ろを振り返ると完全武装・・・ではなくまるで散歩に出るような恰好をしたガンドさんとジルさんが立っていた。
冒険者の皆さんはいつもの重装備なのでそのギャップが何とも面白い。
まぁ、二人とも手には凶悪な武器を持っているんだけどね。
ダンジョンに向かう皆さんを見送ると、今度はナーフさんが立ち上がった。
「それでは私もこの辺で。」
「え、この時間にですか?」
「今からなら夜更けまでにはサンサトローズに戻れますから。」
「せっかくですからお泊りになられてはどうですか?ご主人様が腕によりをかけて食事を作ってくださいますよ。」
薬草を持ってきてくれた大切なお客様だ、最大限のおもてなしをさせてもらおう。
なんなら秘蔵のお酒を開けてもいい。
それぐらい喜んでやらせてもらうぞ。
「実は家で妻が待っていまして。」
「え!?ご結婚されてたんですか?」
「こんな私の事を好いて下さる人などいないと思っていたのですが、お陰様で・・・。」
なんてことだ。
祝いだ。
祝杯だ!
酒もってこい!
と、頭の中では大騒ぎをしているものの、新婚さんを引き留めるようなことはさすがにしない。
なんせ俺も新婚の身だ。
帰りたい気持ちはよくわかる。
「それはおめでとうございます!」
「ありがとうございます。いやぁまだ誰にも言ってないのに、お恥ずかしい。」
「式は挙げられるんですか?」
「いえ、それも予定していません。つつましやかに暮らしていければそれで十分です。」
「そうですか。では・・・。」
新婚さんでつつましやかに暮らしたい。
それはわかる。
でもせっかく所帯を持ったんだ。
お祝いの品が一つぐらいあってもいいだろう。
そして俺にはそれが準備できる。
慌てて立ち上がり店の裏に入ると、手近なところにあった紙とペンを荒々しく掴んで席に戻った。
よく見ると白紙の伝票だったがまぁいいだろう。
「イナバ様?」
「良かったらこれをネムリ商店にお持ちください。後は店主のネムリがいい様に取り計らってくれることでしょう。」
白紙の伝票に内容を記載して最後にナイフで親指を軽く刺して血判を押す。
書いたのはこうだ。
『結婚したばかりの大切な友人に指輪を選んであげてほしい。代金はシュリアン商店のイナバに請求してください。』
「ネムリ商店、それに指輪って?」
「王都では結婚したばかりの夫婦がお揃いの指輪をつける習慣があるそうです。指輪にはお互いの名前の一部が彫られ、離れていても常に寄り添うことが出来るとか。薬草を探しにあちこち行かれているナーフさんへの結婚祝いですよ。むしろこんな事しかできず申し訳ありません。」
「そんな!そこまでお気遣いいただきなんてお礼を言っていいのやら。」
「これで今回の恩を返せたとは持っていませんが、ひとまずこれを気持ちとしてお受け取り下さい。」
「ありがたく頂戴します。」
よし、これで気分的にも満足だ。
この習慣を広めたのは俺なんだけど、まぁ嘘ではないし別にいいよね?
ついでに次に来てくださった時は別の形でお祝いの品を用意しておくとしよう。
外に出て見えなくなるまで手を振り、大きく息を吐く。
一歩前進、いや三歩前進か?
ともかく流行り病が何とかなりそうで何よりだ。
「では私もこれを届けに行ってきます。ガンドさん達はおそらく戻らないでしょうから店を閉めて先に家に戻っておいてください。すぐに戻ります。」
「本当ですね?」
「ガンドさん達が戻ってくるときに居ないわけにはいきませんから。」
「それもそうですね、お気をつけて。」
ナーフさんを追いかけるように再び村へと向かって歩き出す。
戻ってくるときは暗い気持ちだったのに、こんなに明るい気持ちで村に行けるとは思いもしなかったなぁ。
後はニッカさんの薬の材料だけ。
あとちょっと、あとちょっとだ。
とりあえず薬草が見つかった事だけ報告することにしよう。
期待させておいてもしものことがあるといけないからね。
いや、信じてないわけじゃないよ?
あの人達なら絶対にやり遂げてくれる。
でも、いつ戻ってくるかわからない以上それを言うわけにはいかないよな。
こんなに早く薬草が見つかっただけでもサプライズなんだ。
これ以上ニッカさんの心臓に負荷をかけるわけにはいかないしね。
星明りに照らされながら街道を進むとまた流れ星が見えた。
あの時はなんて祈ったんだっけ。
今回はあれだ。
無事にみんなが戻ってきますように。
これでいいだろう。
消えるまでのほんの一瞬。
三回言わないといけないらしいけど、ちゃんと間に合っただろうか。
いや、間に合ってなくてもきっと届いているはずだ。
願いは叶う。
そんなウキウキとした気持ちで村に到着し、まだ明かりのついているニッカさんの家へと向かう。
「夜分に失礼します、イナバです起きておられますか?」
コンコンとノックをしてから声をかける。
が、返事はない。
もう一度同じように声をかける。
だが、また返事はない。
ウキウキとした気持ちは一瞬にして吹き飛び、不安と恐怖が俺を襲う。
「失礼します!」
慌ててドアを開け中に飛び込んだ俺の目に飛び込んできたのは・・・。
机に突っ伏したニッカさんの姿だった。
ウキウキした気分から一気にどん底へ。
果たしてニッカさんは無事なのか。
いよいよ今章も大詰めです。
最後までお付き合いくださいませ。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。
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