いつもみたいにうまくいかないこともある
そして時は来た。
オレンジ色の夕日がサンサトローズを染めている。
これからが大変だというのにウキウキしているのは何故だろうか。
絶対に安全ではないし、もしもの可能性だってある。
でも、大丈夫なんだ。
そんな確証のない自信に満ち溢れていた。
この世界に来て一年。
色々なことがあったけれど、その一つ一つが俺を大きくしてくれたんだろう。
「何黄昏てるんだよ。」
「色々と思い出してまして。」
「やめてくれよ縁起でもない。」
「じゃあ失敗すると思っているんですか?」
「そんなこと言ってないだろ。」
ぶっきらぼうに答えるウェリスだがその雰囲気からも悲壮感は滲んでいない。
本人も心のどこかで大丈夫と思っているんだろう。
俺が今までそうだったように。
だから今回も成功するんだ、なんて勝手に思ってしまう。
「では行ってきます。」
「くれぐれも気をつけてな。」
「大丈夫ですよ、カムリの部隊もいますから。」
検問をするシルビア様に見送られて例の谷へと歩みを進める。
完全に日が落ちたらシルビア様も合流する予定だが、それでも入り口までだ。
秘密の通路は封鎖されるから出る場所は正面のあの大きな門しかない。
全てが終わればシルビア様と合流できる。
なに、俺達は新鮮なエサだ。
後は騎士団が全部やってくれるさ。
暗くなっていく街道を進み、完全に日が落ちる頃目的の場所へと到着した。
突然現れた岩の切れ目。
深い谷のようになったその場所に巨大な門が現れた。
上部には明かりが見える。
谷の警備についていた団員は皆演習に出ているはずなので明かりが灯っているはずがない。
にもかかわらず煌々と灯る松明の明かり。
どうやら例の連中は侵入できたようだ。
「で、どうする?」
「開けてくれるのを待つしかないでしょう。」
「声をかければいいんじゃないか?」
「たぶん見えてると思うんですけど・・・。」
そんなやり取りをしていると突然オゴゴゴと大きな音を立てながら巨大な門が開き始めた。
「ほら、開きました。」
「まさかまた正面から入る日が来るとはなぁ。」
「私も今同じ事を思っていました。」
「だからやめろってそういう事いうのはよ。」
巨大な門はまるで俺達を食べようとしている巨大な口のようだ。
この世界にもドラゴンはいるらしい。
もしかしたらこんな感じなのかもしれないな。
そんな事を思いながら巨大な門をくぐり中に入る。
少し進むと人影が見えて来た。
男が4、女が1。
女性がいるのは何か意外だな。
「来たな。」
「えぇ、信じていただいたようで何よりです。」
「まさか本当に無人だとは思わなかったぞ。」
「商人は信頼が全てですから、嘘は申しません。その証拠にこうやってウェリスも連れてきましたよ。」
後ろにいたウェリスを俺の横に並ばせる。
感動の再開・・・という感じではないなぁ。
「そのようだ。自分の保身の為に奴隷を売るとか、どんな気分なのか教えてくれよ。」
「別に何も感じませんね。」
「だそうだ、残念だったなこんな男の下で働いていたんだよお前は。」
「それがどうした。」
「これからは俺達が有効に使ってやるからよ、頑張って働け。」
声の感じから五人の真ん中にいる男がサンサトローズで話した本人、かつリーダー的な奴なんだろう。
周りの四人がそれを聞いてニヤニヤと笑っている。
「よかったですね、まだまだ利用してもらえるそうですよ。」
「けっどっちにしろやることは一緒だろ。死んだほうがましだ。」
「死ぬだなんて、利用価値があるのにそれをみすみす失うなんてバカのすることですよ。せっかく使った命なのに、貴方の代わりに死んだお二人に申し訳ないと思わないんですか?」
「お前が言うなってんだ。」
ふてくされた感じは本当なのか、それとも演技なのか。
流石の俺でもわからない。
「茶番は良いからさっさと来いよ。」
「その前にお金をいただけますか?これは取引です出すもの出してもらわないと・・・。」
「守銭奴め。」
「商人ににとってそれは褒め言葉です。」
「奥に置いてある、ついてこい。」
おや、この場で終わらせて来ると思ったんだけど・・・。
まぁいいか、何とかして奥まで行こうと思っていたからちょうどいいや。
先を行く五人を追って谷の奥へと進んでいく。
そう言えば先に潜んでいた団員はどこにいるんだろう。
もうすこし奥に隠れている?
それとも降下部隊が降りて来てから出て来るんだろうか。
わからんがまぁ大丈夫だろう。
無言のまま谷の奥深くへと進んでいく。
道中新しく作られた倉庫のような建物の前を通ったが誰かが出てくるような気配はなかった。
そして気づけば例の抜け穴の横を通り過ぎる。
「ここが抜け穴、懐かしいですね。」
「まさかこんな所にあるとは俺達も知らなかったぞ、誰に聞いたんだ?」
「前にちょっと。」
「これも秘密かよ。」
「今はもういない方ですから。」
「そうかよ。」
一体どこまで進むんだろうか。
奥は行き止まりだし大きな水場があるだけだったと記憶している。
大きな建物はそのまま使っていると聞いていたけど・・・。
「あそこに金を置いている自分で取って来い。」
「不親切ですね、まぁ構いませんけど。」
「ウェリスお前は残れ。」
「金を確認するのが先だ、それまではこいつの奴隷らしいからな。」
「・・・好きにしろ。」
なんだか引っかかる言い方だなぁ。
五人を追い抜き正面の倉庫の近くまで行く。
あれ、なんだか嫌な予感が・・・。
そう思いながら倉庫の扉に指をかけたその時だった。
「逃げろ!」
「え?」
倉庫の戸が手をかける前にまるで自動ドアのように勝手に開き、そして黒い何かが飛び出してくる。
慌てて右後ろの飛びのくのと同時に左腕に何かが振れるのを感じた。
「あ、いっ・・・!」
「止まるな!」
突然腕に広がる痛み、みると何かが触れた部分が赤くにじんでいる。
え、切られた?
そんな事を考えている暇もなくウェリスが反対の手を引っ張って谷の奥へと走り出した。
「いったい何が!?」
「馬鹿野郎まだわかんねぇのか!」
「くそ、しくじりやがって!追いかけろ!」
後ろからそんな声が聞こえて来るも振り返る余裕はなかった。
分かるのは何かに腕を切られた事と、追われている事。
それだけだ。
「何が大丈夫だよ、仕組まれてるじゃねえか!」
「でも中には騎士団の皆さんが・・・。」
「あの感じだと殺されたか捕まってるかのどっちかだろ!」
作戦が漏れていた?
いや、そんなはずはない。
じゃあどうして?
グルグルと頭の中に何故が膨らんでき、思考が上手く定まらない。
走ることに全力でその余力がないだけだが、気付けば目の前には大きな水場。
谷の奥底までたどり着いてしまったようだ。
「鬼ごっこはそこで終わりだ!」
「観念しやがれ!」
「ウェリス、お前も苦しまずに殺してやるからよ!」
息を切らしながら振り返るとそこにいたのは5人の盗人・・・ではなくその倍以上の人間が俺達を威嚇していた。
誰だよ五人だけだって言ったのは!
って誰もそんなことは言ってないのか。
「・・・ここに潜んでいた団員はどうしたんです?」
「なに、さすがに騎士団員を殺すと地の果てまで追われるからな、ちょいと痛い思いをしてもらって奥の建物でおねんねしてもらってるよ。」
「それを聞いて安心しました。」
「だがお前達は別だ。」
「何故?」
「お前は兄貴たちを殺した、それだけで十分だ。ウェリスを攫ったのもお前を呼び出す口実に過ぎないしな。」
ここにきてまさかの新事実だ。
俺を殺す為に呼び出した?
じゃあ今朝殺さなかったのは何故だ?
場所の問題か?
まさか俺がここに呼びだすってわかってたのか?
「俺を利用したのかよ。」
「その通りだ。本当ならこいつを殺し次第お前には戻ってもらうつもりだったんだが・・・どうする?さっき聞いたようにこいつは最低の主人だぜ、なんならお前が殺せよ。そうしたら大切な嫁さんと子供の所には戻してやる。」
「お断りだね。」
「即答かよ。」
「あぁ、死んだ人間にすがって馬鹿な事しでかす様なお前たち程俺は落ちぶれてねぇ。」
「言うじゃねぇか。」
俺達を囲んでいた盗賊達の殺気が一気に膨れがるのが分かった。
いやいやウェリスさん、お気持ちは嬉しいんですけどやり過ぎじゃないですかね。
「お前の気持ちはよくわかった、こいつが死ぬところを見せたらすぐに殺してやるからな。おい、捕まえろ!」
「「「おぉ!」」」
盗賊達がぶら下げていた武器を抜き雄叫びを上げながら迫って来る。
女性もいるので雄叫びがあっているかはわからないがともかく全員がまっすぐに俺に向かって来るのは正直魔物よりも怖い。
追われると同時に逃げ出したが谷の奥は行き止まりだ。
あっという間に水際に追い込まれてしまった。
まさに背水の陣ってか。
誰だよ今回も成功する、何の問題もないとか言った奴!
俺か!
「へへへ、もう逃げられないぜ。」
「刺殺されるのと溺死するのどっちが好みだ?」
「とりあえず泳がせて石を投げようぜ、当たったやつに銅貨1枚くれてやるよ。」
「安すぎだろ!」
俺が思ったのと同じツッコミを入れたやつがいる、彼とはおともだちになれそうだ。
「おい、どうするんだよ、マジで殺されるぞ。」
「いやぁどうしましょうか。」
「騎士団はどうした、上から降りて来るんだろ?」
「それに関しても今は何とも。」
「使えねぇ奴だなぁ。」
どうもすみませんねぇ。
こういう時に秘密道具を出せるような素晴らしい能力があればよかったんですけど。
残念ながら四次元ポケットはないんですよ。
「おい、何ごちゃごちゃ言ってやがる。」
「泣き言だろ、自分の奴隷に何とかしてもらおうとしてるんじゃないか?」
「ウェリスも可愛そうなやつだよな。」
「とか言われてますよ?知った顔もいるんじゃないですか?」
「そうだな、何人かはいるが・・・どんなやつかは覚えてない。」
慕ってくれた皆さんは村にいるし、ここにはどうでもいい奴しかいないと。
じゃあ遠慮はいらないか。
「さて、どうしましょう。」
「知らねぇよ、てか何とかしろ。俺はまだ死ねないんだ。」
「私もそうですよ。」
「おい、何遊んでやがるさっさと殺せ!」
「へい!」
と、リーダーから発破をかけられて囲んでいた盗賊の一人が俺めがけて切り掛かって来る。
逃げるしかない。
そう覚悟した俺は大きく叫んだ。
「ディーちゃんお願い!」
叫びながらウェリスの手を取って大きく後ろに下がる。
後ろには地下から湧き上がった巨大な泉が広がっており、逃げると言ってももう逃げ場はない。
そう土の部分にはね。
「嘘だろ!?」
剣を振りかぶって襲いかかろうとしていた男がそのままの格好で立ち止まる。
なんとまぁ間抜けな顔だろう。
「おい、浮いてるぞ。」
「えぇ、浮いてますね。」
「これが噂の精霊様の力って奴か。」
「ごめんねディーちゃん、急に呼び出して。」
「ううん、シュウちゃんを助けることが、私の役目だから。」
水際からここまではちょうど2mぐらい離れているだろうか。
水の中に入れば襲えなくもないが、俺と連中の間に突如として出現した水の塊がそれを許さない。
その塊はだんだんと人の形を模していき、最後に見慣れた姿へと落ち着いた。
ってあれ?
「服変えたんだね。」
「えへへ、ドリちゃんが、褒めてもらったって、言ってたから。」
「いつもの長いスカートも可愛いけど、その丈も可愛いね。」
「ありがとう、シュウちゃん。」
恥ずかしそうに頬に手を当てる女子大生・・・じゃなかった水の精霊。
半透明のはずなのに頬が若干上気したように見えたのは偶然だろう。
「お前の周りに女が集まっている理由がよくわかるな。」
「人を女ったらしみたいに言うのはやめていただけますかね。」
「そう聞こえたか?」
「えぇばっちりと。」
「そのつもりで言ったからな。」
この野郎・・・。
って今はそんなことしている場合じゃなかった。
「おい、石投げろ石!」
「浮いてるなら叩き落せ!」
「弓矢持ってこい!」
入水するのは分が悪いと判断したのか俺達に向かって石を投げ始める盗賊達。
そしてすぐに石が矢に変わって襲いかかって来る。
「もぅ、シュウちゃんいじめたらメッだよ?」
だがその全てが下から吹き上がる水に阻まれ俺達の所までは届かない。
すこしずつ後退して、気付けば水場の真ん中ぐらいまで来てしまった。
ここまでくると届くのは矢ぐらいだが、流石に無駄だとわかったのかそれも止まってしまった。
「くそ、姑息な手段使いやがって!」
「いやいやそれはこっちのセリフでしょ。」
「だな。」
「だがどうする?その先は崖、何時までもそのままってわけにはいかないはずだ。」
確かに後ろは崖になっておりそこから上に上がることはできない。
正面に彼らがいる以上戻る事も出来ないわけで・・・。
「ですがそれはそっちも同じではありませんか?演習が終われば皆戻ってきますし、今頃入り口が開いてない事を知ってシルビアが策を考えているはずです。」
「くそ!」
「あ、アニキどうする!?」
「こうなったら奥で転がしている団員たちを連れて来い、奴らを人質にしてずらかるぞ!」
おっと、今度はそう言う作戦できますか。
だがそう簡単に行くかな?
団員が拘束されている建物に盗賊達が殺到した次の瞬間、巨大な火柱が彼らの行く手を阻んだ。
「「「うわぁぁぁ!」」」」
数人が足元から噴き出た火に飲まれ、火だるまになりながら水場へと飛び込んでくる。
白煙と共に何とも言えないにおいがここまでただよってきた。
「いったい何がどうなってやがる!」
「あ、アニキ上!上だ!」
「上だぁ!?」
盗賊の一人が何かに気付き火柱の奥を指さした。
そこに見えたのは崖の上に並ぶ人影。
「観念しろ!逃げ場がないのはお前達だ!」
ヒーローは遅れてやってくる。
それを地でいくカムリに若干嫉妬するが、許してやるとしよう。
そう、上に並んでいる人影こそ騎士団の虎の子。
降下強襲部隊の皆さんだった。
上手くいかない日もたまにはあります。
全戦全勝と行かないのは世の常ですが、終わり良ければ全てよし。
他力本願前回の主人公が今回もそれをさく裂させたようです。
何とか間にあったようですね。
さてここからが大逆転・・・となるのですがそれで本当に終わりでしょうか。
とりあえず今回はここまで、続きは次回という事でお願いします。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。




