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[第一部完結]サラリーマンが異世界でダンジョンの店長になったワケ  作者: エルリア
第十八章

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悪徳商人イナバシュウイチ参上

まだ夜も明けきらぬ頃。


俺は薄暗い城壁の下で来るかも知らぬ人を待ち続けた。


いや、来る。


絶対に来る。


そうじゃないと俺がここにいるのが無駄になってしまう。


眠たい目をぐっと開いてその時をただひたすら待ち続けた。


「お前がイナバか?」


「えぇ、そちらは?」


「俺達の名前なんてどうでもいい、お前はウェリスを差し出す、それだけだ。」


「名前も知らない相手に引き渡すつもりはないのですが・・・。」


「俺達か何者か知ってるんだろ?今だってお前を殺したい気持ちをグッと抑えているんだ、まさかお前みたいなクソ商人に殺されたかと思うと兄貴も浮かばれねぇな。」


人をクソ呼ばわりするとは何事かと、シルビア様なら怒鳴っただろうが、今まさに俺はそのクソ商人に成りすましている。


誉め言葉として受け取っておこう。


ここまでの流れはこうだ。


あの後俺は急ぎコッペンの所に向かい、連中に接触を図るようにお願いした。


内容はウェリスの身柄引き渡し。


流石にそのまま渡すと怪しまれそうなので、多少の金銭を要求している。


その額銀貨10枚。


普通に考えれば安すぎだが、要はただじゃなければいいだけなので向こうにもその意図が伝われば御の字だ。


結果としてこうやって来てくれたわけなので第一関門突破といった感じだろう。


「確かに私も関わりましたが、手を下したのは騎士団ですよ?それで私を恨むのは筋違いというものです。」


「その手を下した張本人と結婚したんだからお前も同罪だよ。」


「それは手厳しい。でもそれは昔の話、今は目の前にある商売の話をしようじゃありませんか。」


「ケッ、この守銭奴が。」


おーこわ。


城壁の深い影のせいで話しかけてきた相手の顔は見えないが、見た感じ一人で来たんだろうか。


周りにその他の人の気配はない。


もちろん俺も素人なので感じないだけかもしれないが、向こうも切羽詰まっていると考えるべきだろう。


「貴方方はウェリスの身柄が欲しい、私はウェリスを処理したい。非常に簡単な商売だと思いませんか?」


「お前だけ金を得るのは不平等だと思わなかったのか?」


「では逆に聞きますが無料で引き渡すと言われて貴方方は信じますか?」


「・・・噂通り口達者な野郎だぜ。」


「お褒めに預かり光栄です。」


出来るだけ冷静に、でも常にマウントを取りに行く。


これが舐められない交渉のやり方だ。


どちらが上か常に意識させなければ向こうは無理難題を吹っ掛けてくる。


カードが多いのはこちらの方だ、切り間違えなければどうってことない・・・はずだ。


「で、どうして自分の奴隷を差し出す気になったんだ?」


「ご存じの通りウェリスは奴隷の身分のまま私達の手から逃げ出しました。これは我々の監督不行き届きであり、世間の目に触れれば罰則を受けてしまいます。村は奴隷の労働力に依存していますから、今それが無くなるのは非常に困るのです。」


「だから人知れず処理したいってのか?」


「逃げ出したままではなく、盗賊に襲われていなくなった。もしくは死んだことになれば我々が監督責任を取らされることはありませんからね。貴重な仕事のできる奴隷が無くなるのは惜しいですが、背に腹は代えられないというわけですよ。」


「何ともまぁ自分勝手な野郎だぜ、それで人の命を簡単に売っちまうんだからな。」


「それはあなた方も同じでしょう。」


「うるせぇ、お前みたいなやつと一緒にするんじゃねぇ!」


語気を強めて威嚇してくるがそんなことで動じる俺じゃない。


「別に貴方方がウェリスをどう使おうと私の知る所ではありません。金儲けに使おうが、うっぷんを晴らすために殺そうが好きにしてください。私達に迷惑が掛からなければそれだけで結構です。」


「で、その張本人はどこにいるんだ?」


「流石にこの場には連れてきていませんよ。他のお仲間があたりを探っても意味ありませんから探しているようであればそうお伝えください。」


「だと思ったぜ。」


そういうと声の聞こえる方に突然手がにゅっと生えてきた。


いや、手を上にあげたのか。


するとザザザザという音と共にたくさんの気配が近づいてくるのがわかる。


ほら、やっぱりいた。


気配がわからなかっただけでそりゃいますよねー。


「それで、そんな大人数で私を囲んでも意味はありませんよ。」


「居場所さえわかればお前に用はねぇ、指が全部そろっているうちに白状するのが身の為だぜ。」


「あの、噂を聞いていると思いますが精霊の祝福を授かっている私をどうにかするのは間違いですよ?」


「それはやってみないとわからないだろ?噂は噂だったてのは良くある話だ。」


「別に私はそれで構いませんが、加減が出来ないので全員死んでも恨まないでくださいね。」


にこやかに笑いながらそういうと、じりじりと近づいてきていた気配がピタッと止まった。


なんだよ、ビビったのか?


ここに全員いるかは知らないが、襲い掛かってきて返り討ちに出来たのならむしろ好都合だ。


さぁどうする?


ここで全部終わらせるか?


「・・・お前達さがれ。」


「それが賢明ですよ。別に争いたいわけじゃないんです、私はただ取引が出来ればいいだけ。それはそちらも同じなのでは?」


「確かにその通りだ。」


当初の予定では騎士団にいることをバラすことにしていたが、ワザワザ騎士団の株を下げる必要はないだろう。


「大丈夫です、この街にいるのは間違いありませんから。そちらが条件をのんでくれるのであれば居場所だけでなく安全な取引先も提供しましょう。」


「取引先だと?」


「貴方方の存在はもう騎士団に伝わっていますから、このままここに潜んでいてもいずれはボロが出るでしょう。ですがそうなる前に別の場所に逃げれば安全も保証させて頂きます。」


「そんな都合のいいことを言って、俺達を嵌めるつもりじゃないのか?」


「元騎士団長の妻を持つと色々と情報が入ってきましてね、それをうまく使うだけの話です。商売は信頼がすべて、そちらに信じてもらえないのであればこの話は無かったことにさせて頂きます。」


「だが・・・。」


「それに、今あなた方を嵌めたらだれがウェリスを処理してくれるんですか?」


満面の笑みを浮かべてこんな事を言うなんて我ながら最低な男だなと思う。


こうやって話をしていると本当にウェリスを売っている気分になってしまうなぁ。


演技は人を変えるっていうけど、本当にそんな気がするよ。


「・・・信じるしかないようだな。」


「信じるか信じないかは貴方方次第です。」


「わかった、どこで取引を行うつもりだ?」


「今日の夕刻から騎士団が演習に向かいます。これはまだどこにも出回っていない情報で、知っているのは私と妻とカムリ騎士団長だけです。」


「演習だと?」


お、食いついてきたぞ。


いいねぇいいねぇ。


「騎士団では団の練度を高める為に突発的に演習を行うんです。今回は貴方方にゆかりのある谷を警備している皆さんが対象だそうですよ。」


「だが演習に出るのであればあの門は閉まっているだろう。どうやって入るつもりだ?」


「おや、秘密の抜け穴について知らされていないんですか?」


「なんだと?」


「谷沿いに森を進むとちょうど中間あたりに小さな穴が開いているんです。あの谷にどこからか迷い込んできた動物とかいませんでしたか?」


「俺、見たことあるぞ。」


姿を隠していた誰かが声を上げた。


周りで話を聞いている連中も食いついているようで何よりだ。


出来れば姿を確認したいんだが、流石にそれは無理だろうな。


「そこを使えば何の苦労もなく谷に入り込めるでしょう。後はそこでウェリスの身柄を渡し、私は金を貰う、簡単ですよね?」


「だが、やはり簡単には信じられん。」


「まぁ気持ちはわかりますよ。でしたら日が昇った後にあの谷に行ってみればいい、朝には連絡が行き中は準備で大慌てでしょう。ついでに秘密の通路の場所も確認すれば信じられますよね?」


向こうが慎重なのは致し方ない。


美味い話には裏があるというのはどの世界でも同じ事、だが今を逃せばウェリスを手に入れることは出来ず彼らは金もうけの手段を失うだろう。


リスクを取るかリターンを取るか。


だが優しい俺はちゃんと時間を設けて確認していいとまで譲歩した。


それを確認さえすれば俺の話が嘘じゃないという事がわかるだろう。


事実あの谷の警備は全員演習に出るし、その通告も日の出と共に行われる。


もっとも、演習に出るのは元々いた警備全員であって昨日のうちに潜ませてある団員は谷に残るんだけどね。


嘘は言ってないよ、嘘は。


だが30数えても返事は帰ってこない。


随分と悩んでいるみたいだが、あともう一押しが必要だろうか。


「私は日暮れと同時にウェリスを連れて谷に行きます。それと、昼過ぎにはサンサトローズ内でも演習と称した一斉検問が行われるそうですから、貴方方もそれまでに全員脱出した方がいいでしょうね。団員がいなくなれば正面の門を開けるのも容易いはず、やり方はわかっているはずです。」


「あぁ、もちろんだ。」


「ではそういう事で。」


「裏切ればお前の家族全員を殺してやる、覚悟しろよ。」


「怖い怖い、そうなりたくないので大人しくしていますよ。」


チャラけて返事をしている間に目の前の人影はどこかに消えてしまった。


周りにあった気配もいつの間にかなくなっている。


それから心の中で10数えてから俺は大きく息を吐いた。


とりあえずこれで第二関門は突破しただろう。


呼び出しに成功し、奴らを乗せることにも成功した。


後は予定通りウェリスと共に谷に向かい、先に潜んでいた騎士団員と一緒に全員を捕縛すればすべて解決だ。


もちろんそう上手く運ぶかはわからないけど、後は野となれ山となれだ。


まさか一年越しに因縁の場所に行くことになるとは思わなかったけど・・・。


これもまた何かの縁というやつなんだろうな。


余裕っぽい感じを醸し出していたが、連中がいなくなり緊張が解けたらドッと疲れが押し寄せてきた。


身体に力が入っていたのか肩や首を動かすとボキボキと音がする。


ポーカーフェイスはあまり得意じゃないからなぁ。


向こうの表情が見えないようにこちらの表情も見えなかったのだろう。


暗がりに助けられたのは俺も同じか。


「さーて、帰りますかね。」


誰に言うわけでもなく、いや、自分に言い聞かせるように次の行動を声に出す。


すると不思議と固まっていた身体に軽さが戻り一歩を踏み出すことが出来た。



「無事にエサに食いつきました。」


「さすが鮮度のいいエサは違うな。」


「人を魚のエサみたいに言うんじゃねぇよ。」


騎士団に戻り事の次第を報告すると二人にも安どの表情が浮かんだ。


俺を一人で行かせたことを心配していたんだろうな。


ほら、一人だとトラブルばかり持ち込むらしいじゃないですか。


でも今回は俺のせいじゃないですよ?


ウェリスが勝手にトラブルに巻き込まれただけですからね。


「後は予定通り夕刻にウェリスとともに現地へ向かいます。シルビア様には後続を含めてお任せしますね。」


「あぁ検問も含めてこちらの方は任せておけ。」


「さっきは複数人の気配を感じたのですが、残党が何人いるかはわからないんですよね?」


「俺が知っているだけで5人だ。それ以上いるみたいなことは言っていたが、具体的な人数はわからねぇな。」


うーむやはりそうか。


一人でも残せば後が大変なのでさっきのブラフで全員来てくれるとありがたいんだけどなぁ。


「降下部隊の人選は出来ています。仮に人数が多くでも問題ないでしょう。」


「カムリか、本当に大丈夫なんだな?」


「兼ねてからあの谷を使った防衛については議論を重ねており、何度か降下訓練を行っております。風魔法を使用して勢いを殺せば十分に実用でいるという結果も出ております。」


「降下部隊?」


「あぁ、シュウイチは知らなかったな。」


なんだそのカッコいい部隊は知らないぞ?


「あの谷を騎士団で管理してから、高所からの強襲を意識した部隊を編成しました。これにより魔物の巣を上部から襲撃することも出来るようになるでしょう。」


「まさか実戦が人相手になるとは思わなかったが、これもまた縁というやつなのだろう。」


「抵抗しなければ制圧するにとどめますが、抵抗があり次第殲滅します。」


そんな部隊があったのか。


確かに大人数であれば先に潜んでいる団員だけでは手が足りないかもしれない。


だが、頭上から強襲されればいくら大人数でありかつ連携が取れていても混乱するに違いない。


いつの間にか新しい部隊の実験材料にされてしまったようだ。


ま、終わりよければすべてよしっていうしなんとかなればそれでいい。


「だが俺が外を出歩いて大丈夫なのか?逃走したって事がばれたら一大事だぞ。」


「ウェリスの脱走が仮に多方面に洩れたとしても、この作戦の為に召還したとすれば言い訳もできる。今はまだチンケな盗賊という事になっているがそれも時間の問題だからな。」


確かにそのやり方ならお咎めはないだろう。


脱走の件をどう言い訳しようかと考えていたが、どうやらなんとかなりそうだな。


「さすがシルビアですね。」


「なに、たまにはな。」


どこか得意げなシルビア様。


そんな顔も可愛くて好きですよ。


「それでは私は部隊に指示を出してきます。」


「私はプロンプト様に検問の件を申請してこよう。」


「どうぞよろしく願いします。」


「お前は何をするんだ?」


「私はウェリスと一緒に留守番です。」


「お前と一緒とか勘弁してくれよ。」


「私だって勘弁してほしいですよ。」


美人の奥さんと二人っきりならよかったのに、何が悲しくてオッサンと顔を突き合わせなければならないんだ。


「まぁまぁ、窃盗犯ウェリースの身柄はシュウイチ預かりという事になっているんだ、諦めろ。」


残された時間はあと半日。


次の日暮れで勝負が決まる。


とりあえずその時間まではのんびりするとしますかね。

さぁお膳立てが整いました。

後はそれをどう料理するか、うまくいくかは主人公次第というわけです。

毎度のことながら商人らしからぬことをしている主人公ですが、ここまでお読みの皆様からしたら今更かもしれません。

最後の最後までマイペースな主人公という事でお許しください。

ちゃんとダンジョンも出てきますよ、出てきますからね。

それだけは先にお伝えしておきます。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

また次回もよろしくお願い致します。

また、ブックマークありがとうございます。

もしよろしければ評価していただけますと作者が小躍りして喜びますのでまだの方はどうぞお願い致します。

目指せ日刊ランクイン!

今年の目標はまだ達成出来ておりません。

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