大捕り物といきましょうか
翌日。
「ふぁ~ぁ・・・。」
「眠そうだな。」
「あ、すみません。」
「気にするな、私も若干眠い。」
多分眠い理由はシルビア様とは違うと思うんですけど・・・。
まぁそういう事にしておこう。
一戦を終えた後シルビア様は早々と就寝されたが、俺はどうも寝付けずそのまま朝を迎えていた。
多少ウトウトとはしたので完徹ではないが、睡眠時間は少ない。
あれですよ、賢者タイムとかそういうんじゃないですよ?
ウェリスがどうすれば戻って来れるのか、それを考えだしたらなかなか寝れなかっただけで。
って、誰に弁解しているんだ俺は。
「ネムリには連絡してあるのか?」
「はい。支配人にお願いして手紙を出してあります。難しい場合は拒否してもらって構わないと伝えてありますが、そういった返事もないのでおそらくは大丈夫かと。」
「私達に遠慮している可能性はあるな。」
「おそらくはそうだと思います。でも今回はあくまでもお客として立ち寄るだけなので大丈夫だと思いますよ。」
「どこで誰が見ているかわからないというのは、毎回の事だが不便だな。」
「ですね。そこまで過敏にならなくてもいいとは思うのですが、やはり状況が状況ですから。」
ウェリスの無事は確保されている。
でもそれは恒久的なものではない。
それに加えて今回はセレンさんとセリスちゃんの無事も確保しなければならない。
いつまでも誰かに見守ってもらわないといけないというのはストレスが半端ないからなぁ。
「で、どうするべきか考えはまとまったのか?」
「いくつかは。」
「そうか。では、ネムリの所で聞かせてもらうとしよう。」
白鷺亭を出てネムリの店へと向かう。
道中何かしらの襲撃を受けないとも限らないので、できるだけ大通りを選びかつ急ぎ足で向かった。
もちろん何事もなかったわけだが、毎回これだと俺達のメンタルにも影響を及ぼしそうだ。
「こんにちは。」
「イナバ様!ようこそお越しくださいました。」
「今日は世話になる。」
「シルビア様もお久しぶりでございます。お連れ様はまだ来られておりませんが、いかがなさいますか?」
「そうですね、それまではお客として色々と見せてもらいましょうか。」
迷惑をかけているにもかかわらずいつものように俺達を迎えてくれるネムリ。
そんな彼に対して出来ることと言えば、もちろん買い物をすることだ。
俺はともかくシルビア様が手に取ったものは、この街の女性たちに飛ぶように売れる。
もちろん作為的な事はしないが、シルビア様が気に入ったものであれば買って帰っても構わないだろう。
・・・高い物じゃなかったらね。
いつものように店の奥に通され、商談用のテーブルに腰かける。
「この間まで王都におられたイナバ様には珍しい物ではないかもしれませんが、きっと気に入ってくださると思います。」
「あはは、お手柔らかにお願いします。」
「ではまずこちらから、一見ただの化粧水ですが実は・・・。」
始まりましたジャパネットネムリ。
それから一刻程みっちりと提案を受け、話が最高潮に達しようとした頃、救いの神いやお待ちかねの人物がやって来た。
「ようこそトリシャさん。」
「こんにちは。イナバ様、シルビア様。」
「トリシャ様でしたね、よくおいでくださいました。」
「今日はよろしくお願いします。」
おどおどといった感じで入ってきたトリシャさんがネムリに気づき、慌てて頭を下げる。
今日もケモ耳は出したままのようだ。
「話の途中ですが奥に行きましょうか。ここでは外から見えますし。」
「そうですね、では先ほどの商品は後程御紹介するという事で。」
「うぅむ、必ずだぞ。」
完全にネムリのペースに飲み込まれてしまったシルビア様。
久々なことも有り一瞬だったな。
支払いが怖いが・・・まぁ、なるようになるだろう。
そのまま商談スペースの奥にある別室へと移動する。
窓は無く、外から見られる心配もない。
「飲み物は後でお持ちしますね。」
「すみません、助かります。」
「どうぞごゆっくり。」
気を利かせてネムリが部屋を出て行くのを見送り、早速本題に入る。
「では改めまして、トリシャさん。ウェリスを助けてくださりありがとうございました。」
「そんな、私はただ自分に出来ることをやったまでです。」
「ははは、まるでシュウイチの言葉を聞いているようだ。」
トリシャさんの返事を聞いてシルビア様が声を出して笑う。
いやぁ、俺も普段そう言っているけど、今は茶化さないで頂けますかね。
「私と話が出来たことはウェリスにも伝えてもらえたと思いますが、本人は何と?」
「『俺を助けようとしてくれることはありがたいが、自分の事は自分でケリをつける。必ず戻るから信じて待ってほしい。』って言ってました。」
「想定の範囲内ですね。」
「あぁ、あのバカなら言いそうなことだ。」
「具体的にはどうすると言っていましたか?」
「そこまでは。私にも迷惑を掛けられないので、もうしばらくしたら出ていくとも言っていました。私は別に気にしないのでそのままでもいいって伝えたんですけど・・・。」
まぁそんなこと聞くわけがないよね。
自分の事だから自分で何とかしようだなんて、どこかのバカを見ているようだ。
「自分で何とかすると言っていますが、どうせどうにもできないでしょう。」
「むしろ余計に話がこじれる気がするな。」
「出来れば何で追われているか、それだけでもわかればと思ったんですけど・・・。」
「ごめんなさい、それも教えてくれなくて。」
「どうする、直接乗り込んで連れて帰るか?」
「まぁそれも一つの方法だと思うんですけど・・・。」
一番簡単だけど一番めんどくさい方法なんですよね。
主に事後処理の方で。
今連れて帰れば逃げ出したという事にはならないので、お咎めはない。
だけど追われている連中の方は一切片付かないだろう。
それどころか、常にその連中の事を気にしながら生きていかなければならなくなる。
出来ればここで正体だけでも把握しておきたい。
いや、ここで捕縛したいとすら思っている。
そうすれば安心して村に帰れるというものだ。
「シュウイチはそうするつもりはないのだろう?」
「えぇ、まぁ。」
「昨晩もそればかり考えていたようだからな。で、答えは出たのか?」
「ウェリスの動向が予想通りでしたので、本人の好きなようにやらせようかと。ただし、私達も好きにさせてもらいますけどね。」
向こうがほっといてくれというのならばそれはそれで構わない。
だけど、そういうのならこっちがやる事にも文句を言わないってのが筋というものだ。
手助けは要らない?
冗談じゃないね。
「どうするんですか?」
「トリシャさんには申し訳ないのですが、出来るだけウェリスから話を引き出してほしいんです。どんな相手に追われているのか、何人ぐらいなのか、なぜ追われているのか。」
「それも聞いたんですけど・・・。」
「いえ、それを聞けば向こうも私が聞き出そうとしていることが伝わると思います。」
「そうだな。」
「そうすれば急いで行動しようと焦るはずです。」
「そうなるだろう。」
「そこを捕縛します。」
「「え?」」
いつもの事だけど、この『え?』っていう顔がいいんだよね。
その人の素が見れるというかなというか・・・。
「捕縛するのか?」
「えぇ、脱走したという体で騎士団に捕縛してもらいます。居場所は判明しているんです、包囲していれば容易く捕まえられるでしょう。」
「だがそうすれば。」
「もちろん『普通に』捕縛すればそうなります、ですが今回はあくまでもそういう体裁をとるだけです。さすがに三人を引き裂くことは出来ませんよ。」
そもそも俺達がここに来た理由はそこだ。
それを自分から破るようなことはしないさ。
「ならば何故そうする。」
「そうすれば不要に逃げ出したりできなくなるでしょう。何をしでかすかわからないのであれば、何も出来ないようにするだけです。」
「だがそれでは私のやり方と変わらないではないか。」
「次に、コッペンに会いに行きウェリスを狙う連中と会う算段を取ってもらいます。」
「・・・続けてくれ。」
ツッコミに疲れたのかシルビア様が黙ってしまった。
「会う内容としては、『身柄を引き渡すから金をよこせ』とかでいいと思います。身柄を渡す理由は逃げ出したとなれば面倒なことになるからあとは好きにしてくれとかどうでしょうか。とかなんとかいいつつ、どうしてウェリスが必要なのかを聞き出せれば最高です。向こうとしてはウェリスを捕まえたいようですからそれだけで出てくるのではないかと。」
「呼び出す餌にするんだな?」
「無理やり居場所を言わされれば正直に言えばいいんです。『今は騎士団にいるから渡せないが、騎士団に知り合いがいるからいつでも逃がせる。』ってね。」
「騎士団の株を下がるようなことは避けたい所だが、どうせそいつらも捕まえるのだろう?」
「話が早くて助かります。」
つまり、筋の通った言い訳をする為に一度ウェリスには捕まってもらおうというわけだ。
隠れたままならトリシャさんに迷惑がかかるが、捕まえてしまえば問題なくなる。
ウェリスからも情報を仕入れつつ、こっちとしてもコンタクトを取り一網打尽にしてしまおうというわけだな。
「取引場所にも騎士団を潜ませておき、全員を捕縛。だがそう上手くいくか?」
「彼らの聖地であれば出てくるんじゃないですかね。」
「まさか、あの谷を使うのか?」
「あそこなら潜みやすいですし、逃げ場もありません。演習に行くからあそこが手薄になるという情報を流し、かつ例の隙間も教えてあげれば喜んで入り込むんじゃないでしょうか。」
「シュウイチが言うと簡単そうに聞こえるが・・・。」
それはやってみなければわからない。
いつもと同じく臨機応変、それしかないんですよね。
「なによりもまずはウェリスの身柄確保が最優先です。トリシャさんには申し訳ありませんが戻り次第、先ほどのような感じで情報を引き出してください。もちろん、無理はしなくて結構です。」
「わかりました。」
「私達は戻り次第トリシャさんの家付近に騎士団を派遣する準備をしましょう。名目は窃盗犯とかでいいんじゃないですかね、下手にウェリスだと知れたら話がややこしくなるかもしれませんし。」
「身内にも嘘をつくのか。まったく・・・。
「まぁまぁ、そこは抑えてください二人の為です。」
シルビアのプライドを傷つけることにはなるがそれは我慢してもらうしかない。
時間はあまりないし、行動は迅速に。
早く片付けて早く帰ろう。
心配事はまだまだあるんだから。
「仕方あるまい、それしかないのだろう。」
「時間があれば他にも方法があるかもしれませんが、毎度のことで許してください。」
「考えたところでシュウイチ以上の案が出てくるとも思えん。アイツも変な所で勘のいい男だからな、急ぐに越したことはないだろう。」
そうと決まれば即行動だ。
同時に立ち上がった俺達に驚きトリシャさんも慌てて立ち上がる。
部屋から出るとネムリは女性客と接客をしているところだった。
俺を見ても何の反応も無かったが、シルビア様が出てくると驚いて目を見開く。
どうやらファンの方らしい。
「ネムリ済まなかったな。」
「いえいえ、もう大丈夫ですか?」
「あぁ、急で申し訳ないんだがこの後すぐ出る。先ほどの品はまた今度でも構わないか?」
「もちろんです。」
「あそこまでお話を聞いたんです、買ったらどうですか?」
「いいのか?」
「人数分買って帰りましょう、みんな喜びます。」
せっかく場所を借りたんだ、何も買わないというわけにはいくまい。
それに、今買えば漏れなく店内にいるこの人も買ってくれるだろう。
そして広めてくれるはずだ。
「では、後日お届けに参ります。」
「代金はその時で、申し訳ありません。」
「毎度有難うございました。どうぞお気をつけて。」
ちなみに購入したのは天然素材がすごいという化粧水だ。
代金は何と銀貨2枚もする。
それでどのぐらい持つかはあえて聞かないことにした。
女には金がかかる、どこかの偉い人が遠い目をして言っていた気がするなぁ。
店を出て噴水広場まで一緒に行く。
「私達は騎士団に向かう、もし何か動きがあれば白鷺亭の支配人に知らせてくれ。トリシャ殿、後は任せたぞ。」
「頑張ります!」
「でも無理だけはしないでくださいね、身の危険を感じたら逃げてもらっても構いません。」
「わかりました。」
万が一彼らに居場所が知られている可能性だってある。
そうなったらそうなったときだ、一網打尽にしてしまえばいいさ。
駆け足で離れていくトリシャさんを見送り、俺達も騎士団へと向かう。
「まずはアイツの犯罪をでっちあげる所からだな。」
「チンケな窃盗犯じゃだめなんですか?」
「そんなことで騎士団が動くことはない。強盗か殺人か、それなりの罪にしておく必要があるだろう。」
「捕縛の時荒れませんかね。」
「あいつが大人しく捕まってくれる事を祈っておけ。」
そういうシルビア様の顔は、何か悪い事を考えているような感じだった。
こういう顔することも有るんだな。
頑張れウェリス、死にはしないと思うが無茶だけはしてくれるなよ。
「ポーションで治る程度でお願いしますね。」
俺に出来るのはこれぐらいだ。
さぁ、まずはウェリス捕獲の大捕り物だ。
チャンネルはそのままで。
せっかく手を貸そうと言っているのに、話を聞かない彼が悪いんです。
そういう相手には容赦しない、それが主人公の考えでした。
果たして無事に?捕まえることは出来るのでしょうか。
そしてその後は?
それはまた次回という事で。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
また次回もよろしくお願い致します。
いつもブックマーク有難うございます!
よろしければ評価もして頂けると幸いです。
目指せ日刊ランクイン!前回あと少しの所だったので、今回も近づけるといいなぁ。
面白いかもと思って下さったそこのアナタ!宜しくお願い致します!




